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崩壊機械と楽園都市  作者: ラストジェネレーション


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第四話 逃避行 

 人間による解雇通達を無視し、逃亡したロボットの最後は悲惨と聞く。


「処理施設に送られて、鉄屑になるんですよね?」


「それは半分正解だよ..。逃亡しなくても、私たちはそうなる運命だから..」


 山吹さんに言われて、納得した。人間が私たちをいらないと判断した時点で、残る選択は二つしかない。物質の機能停止を死と定義するならばの話ではあるけど、とにかくもう後には引けなくなったのだ。


♢ 山吹愛良視点


 回収車の音は迫って来ている。日に何千何万ものロボットが廃棄されるこの街で、わざわざ自分を探し回す可能性など皆無に等しいと思っていたのにーー


「いたぞ! 『R2-bot-109』だ!」


 私の個体識別番号を叫びながら、黒服を着た屈強な男が三人、自分を捕まえようと執拗に追いかけてくる。私は並の女性と同程度の力しか持たないため、差はグングンと縮まってきていた。


「小鳥、多分彼らの目的は私を回収する事だと思う..」


「ですよねぇ..。どうしましょう....」


 逃げるしか選択はない。反抗も出来ない。私たちロボットは、人間に物理的危害を加えられないようあらかじめプログラムされているからだ。


「....山吹さん。こうして出会えたのも何かのご縁ですよ..」


「小鳥..?」


 彼女は立ち止まった。一緒に逃げようと手を引っ張っても、彼女の身体は少しも動かなかった。人口表皮からはヒヤリとした液体が伝っており、全身は小刻みに震えている。


「私が、彼らの足止めをするのでその間に逃げてください!」


「でも..!」


「時間がないんです! 早く行ってください!」


「....」


 彼女の行為に合理的な意味が無いことは分かっていた。足止めなんてタカがしれている。けれど今は彼女の意思を優先させたかった。私のためを思ってくれる彼女のためにーー


「なーに寝ぼけたこと言ってんだ! このクソロボットが!!」


 刹那の出来事だった。目の前で微笑む安城小鳥は、背後から思い切り頭部を殴打され、ドサリと地面の上に横たわった。殴ったのは私を追っていた黒服の一人、屈強な肉体の持ち主で、真正面からどうこうできるものじゃない。


「さて、俺の目的はお前を回収する事なんだが..、大人しく着いてきてもらおうか..」


「嫌だと言ったら、どうなるーー」


 最後まで言い切る直前、腹部に猛烈な痛みが走った。内臓がズキズキして、骨でも折れたのか、まともに立ち上がるのも困難になった。私は小鳥の近くで胃の中の残留物を吐き散らし、身悶えした。


「だったら、大人しくなるまで痛めつけるだけだな」


 はるか上空から男の声が降り注がれる。追撃は二発。お腹に男の靴のつま先がめり込み、そのあまりの衝撃から私は声も出せなくなっていた。両手で腹を抱え不安定な呼吸音をもらしながら、身体を震わせるしかなかった。


「ぐ....」


「まだ足りないようだな。顔面でも一発殴っておくか」


「..。どうかな? それはやめた方がいいんじゃないの..?」


「何故だ?」


「ふふ..。私たちの顔には特殊な液体金属が使われているの..。触れただけで肌が溶けるような、危険な奴がね..」


「本当か?」


「本当よ! 神に誓ってもいいわ」


「....そうか、ロボットは嘘をつかないと事前に聞いていたが、どうやらお前は例外のようだな」


「え....」


 痛いと感じた瞬間には、私の鼻からは血が滴っていた。


「R2-botの技術開発部門で、長いこと下働きを続けていたんだ。顔面に使われる素材は熟知している」


「......じゃあ、あなたは何者なの..?」


「答える義理はないが、お前の処分は最優先事項だ」


「待ってよ....。意味わかんないし......」


 手を伸ばそうとしたら、右肘から上の感覚がなくなった。恐る恐る背後を見ると、いつの間にか現れた複数人の男達が、私の運動を司る電子信号受信装置を破壊している最中だった。


「痛覚は消してやる。今からお前の手足を切断して運びやすいようにするためだ」


「そ、そんな....。嫌だ、嫌だよ!!!」


「うるさい奴だな..。おいお前ら、本体の電源も切っていいぞ」


 私の全てがこんな場所で終わってしまうと、そう悟った時だった。


「リーダー..。こいつ、主電源がありません。どこを探ってもです!」


「バカな..。R2-botの構造はどれも同じ、特殊なものは存在しなーー」


 男は何かを察知した。今の仕事が、脱走した一ロボットの回収などという次元を超えた、この楽園都市の根幹を揺るがしかねない緊急事態を防ぐためにある事を。


「....。主電源を切るのは後回しで良い。恐らく目標は通常のR2-botと似て非なるものだ。早くコイツを運ぶぞ」


「は、はい畏まりまーー」


 呼びかけに応じた部下は、即座に山吹のうなじを掴み台車の上に持ち上げようとした。刹那の出来事だった。縦尺はゆうに190cmを超える。彼がリーダーという男とも大差ない剛腕の持ち主である。そんな巨漢が何者かに摘み上げられ、数メートル先の壁に叩きつけられた。


「....。部下が一人やられた。R2-bot-109(山吹)の捕獲は一時中断。目標を切り替える」


「おかしいですよ..!! 一体誰が..?」


 リーダーの指揮を耳に入れてなお、現状把握に手間取った人間が端から順にやられていく。


「....ここはひとまず退避か」


 気づけば部下は一人も残っていなかった。絶命は逃れたものの、気絶しているためピクリとも動かない。そんな人間の群れの中に、影が映った。


「お前は何者だ?」


「....。別に、貴方に教えてあげるような名前は持ち合わせていません」


「....そうか、ならお前の隣にいるロボットを俺に寄越せ」


「それは無理な要望ね。力づくで来るなら、私の命を賭けてでも止める覚悟は出来てるから」


「....」


 R2-bot-109の協力者の存在など聞かされていなかった。それもかなりの手だれだ。一通りの武装をした俺の部下を瞬時に制圧し、この俺でさえも圧倒する気迫の持ち主。人間のなす技とは到底考えにくかったが、目の前の対象がロボットである事と、その個体識別番号を見て納得した。


「R2-bot-206か..」


「その番号に反応するってことは、貴方知っているの?」


「あぁ..。200~210は欠陥品だ。制御システムの誤作動で、加えたはずのデータが消去されたんだ..。例えば、『人に危害を加えてはいけない』とかな..」


「....」


「これ以上はプライベートな話だから言えないなお嬢さん..」


「....。別に貴方の過去はどうでも良い。山吹さんをつけ回す理由を教えて!」


「....ほう、それは尚更無理なお話だ。彼女の身辺に関する情報は機密事項なんでね」


「だったら..」


「暴行して吐かせる気かい? 無駄だよ」



 男は首にナイフをあて、いつでも自殺出来るという意思表示をする。全ての行動に抜かりが無い。純粋な戦闘能力なら彼女の方が上でも、会話の主導権は向こうにある。


「....まさか、”小鳥”がここまで戦えるなんて、想定外だったよ......。ありがとう....」


「あわわ..。山吹さん、まだ動かない方が良いのでは..?」


 肋骨が数本折れたのだろう。歩くたびに上半身が軋むし、顔が異常に熱い。右肘から先の感覚は相変わらず戻らない。けれど、私も一つだけ目の前の男に聞きたい事があった。


「あんた、、山吹愛良って人は知っている....?」


「....。そんな人間は知らないな」


 微かに動揺の色が窺えた。やはり想定通りだ。


「そう、、ありがとう....。えっと....」


「名前を聞き出そうとしても無駄だぞ....」


「そんなつもりはないよ..。ただ、小鳥....」


「はい! なんでしょうか!?」


 最後に二つだけわかった。私にとって有力な情報を握っている事とーー


「この男の脊髄を破壊して、二度と歩けない身体にして」


「な、何を言うんだ!」


 こいつに自死する覚悟は無い。また態勢を整えて追ってこられるのも面倒なので、今のうちに第一線からは退いてもらおう。口さえ残っていれば、情報を吐き出させる機会はいくらでも巡ってくる。


「それは..」


「小鳥。君は私についてくると言ったはずだよね?」


「......。畏まりました」


「ば、バカな....。やめろ!!」


 枝を思い切り踏み付けた時のような音と、男の顔に張り付く苦悶の表情。


「....ザマァ見ろ」


 私の口からは、無意識にその言葉が出ていた。



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