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崩壊機械と楽園都市  作者: ラストジェネレーション


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プロローグ

 最近、不思議な夢を見る。ロボットとしてこの世界に生を受けてから既に3年。私の任務はとある邸宅の清掃をする事。日々の業務を粛々と続けていくだけの現状に何も感じず、変わり映えのない日々を送る。


 最初に異変に気が付いたのは、いつも滑らかに動かせる右手親指の第二関節が上手く動かせなくなった時だ。潤滑油を足せば治るのだがどうにも良くならない。主人マスターに状況を報告すると、修理業者にしばらく預けてくれる事になった。私は身体の電源を落とされ、深い眠りにつく。


 それから、完全な状態に戻った私は再び家に向かい入れられ、通常の仕事に復帰するんだと思って疑わなかった。あの日の日常、何も不自由がなかったかつての生活を夢に見る。


 私は主人マスターに捨てられた。指先の不調、たったそれだけの理由でーー



 私に名前はないし、ペットのように愛称をつけられるわけでもない。個体識別番号『R2-bot-109』が自己と他者を区別する唯一の証だ。20XX年の東京で、この型のロボットが製造されてから既に4年もの月日が流れた。今では首都圏は言うまでもなく、日本全国津々浦々ー離島や過疎地域にまで普及している。


 一般に深層学習式人型機械ディープラーニングヒューマノイドと呼ばれる私たちは、その膨大な知識と学習能力をもとに、利用者の望むあらゆる事を叶え、実現させてきた。結果社会全体の幸福度は跳ね上がり、東京は世界から”楽園都市”と呼ばれるようになり、今日に至る。


「綺麗事ね」


 しかし、私は楽園都市に見放された機械だ。人間のために尽くし、疑問を抱く事もなく働き続け挙げ句の果てにたどり着いた場所は最終処理施設だ。


 壊れたり、誤作動を起こした機械は、ここで処分され、鉄屑となり再利用される。それだったらまだ社会貢献になるし自身の身体もまた新たなロボとして生まれ変われるのならば本望だった。中途で意識を取り戻したものの、脱走する必要性もないと感じ、同胞の集うゴミ山の上で休憩を取っていたのも束の間、回収車が激しい轟音と共に現れ、隣の(ゴミ)山を崩し去って行った。


 その後をつけたのは興味本位である。どのような過程を経て再利用の道に至るのかをせめて最後に確認しておきたかったのだ。海岸沿いに近づく回収車、そこで私は衝撃的なものを目にする。


 波は飛沫を立てながら、海の中に投げ捨てられていく無数の機械。何をしているのか理解できず更に観察を続けると、今度は近くにあった土砂を上から覆い被せるように重ねていく。海面は茶色く濁り、陸地になっていくようにも感じると同時に悟った。


 私たちは再利用なんかされない。重要な部品を全て身体から抜かれた後に、残った身体だけが海に捨てられるんだ。ここら一帯の土地は、大量のゴミと土砂で作られた埋立地。そう結論づけた理由は、私が普段行う高度な演算処理がちっとも出来なくなっていたからだ。


 これでは並の人間と大差ないだろう。酷く落胆し、しばらくその場で硬直していると、急に方向転換した回収車がこちらを目掛け物凄い勢いで迫ってきた。危ないと、捕まる直前で回避したのはほぼ反射で、勝手に体が動いた。


 単純に死にたくなかっただけなのかもしれないけど、私はまだ何か、この世界でやり残している事がある。半ば直感のようなものが自身の身体を突き動かしたのだ。


 些細な故障で、私を見捨てた主人マスターに対してのやるせなさもそこそこ大きな要因ではあるけど、もっと何か別の、私の存在を支える根幹部に、密接に絡んだ何かを忘れている気がする。


 その時ーー


 ないはずの名前が、不意に頭の中から湧き起こった。


山吹愛良やまぶきめら


 その名前を私は知らないのに、妙な懐かしさと悲哀を感じた。きっと私を処分の運命から思い留める『やり残した事』には、山吹という女性?に大いに関連付けられているのだろう。


 こんな所で廃棄されるわけにはいかない。私は処分場から逃げ出し、自身を拒絶した人間社会へと足を踏み入れた。山吹愛良を探すためにーー




 

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