セントウ
食べ物を用意して、桃花の会に送って、セントウと同じにしてもらってから、家にある祭壇に供えて神様に捧げる。
どんな食べ物でもいいが、桃が一番良いらしいのだと、詳しいことを知らない少女もなんとなく理解していた。
だから成っている実が桃に似ていると、すぐに分かった。
食べ物らしい食べ物なんてほとんどない家だけど、神様に捧げるセントウを用意する時、父も母も、どうにかして桃を用意することが多かったから。
「ほら、食え」
今度は安心感で動けなくなっていた少女へ、その人は再び促す。
「……食えないほど、弱っているのか?」
確認するように聞かれながら、セントウを口から離されかけて。
少女は慌てて、セントウへかぶりついた。
この人が神様なのか、どうなのか。
どっちにしても、言われた通りに動かないと、父と母を幸せにできないと思ったから。
かぶりついて、少女は驚く。
捧げたセントウは、父と母が食べるから。そうでなくても、桃の味なんて知らないけど。
それ以前に、桃に似ているこのセントウが、桃と同じかも分からないけれど。
(……美味しい……)
甘くて、瑞々しくて、とても美味しい。
こんなに美味しい食べ物、初めて食べた。
(……わたし)
わたしはもう、幸せだよ。
お父さん、お母さん、早く二人が幸せになれるように頑張るよ。
桃源郷に来れたんだから、神様に贈られれば、お父さんとお母さん、幸せになれるから。
だから、頑張るよ。
「おい。大丈夫か」
狼狽えている雰囲気の声で聞かれて。
大丈夫と言わなければ。
大丈夫です。神様のところに行かせてください。
言おうとした少女は、けれど、溢れてくる涙を止められず、かぶりついたセントウを飲み込んでも、涙は収まってくれない。