ロボットカレー店
三カ月ほど前から、オレは家の近くにできたカレー専門店に足しげく通い始めた。
このところ週に三度は足を運んでいる。
このこじんまりとした店はロボットが経営しているのだが、ここのカレーは一度食べたら、その味が忘れられないほど病みつきになる。
本日。
オレはロボットである主人にたずねてみた。
「この店のカレーは実にうまいのだが、味付けに何か秘訣でもあるのかな?」
「秘訣なんてありませんよ。ただ仕上げるまで、じっくり時間をかけているぐらいです」
「じっくりというと?」
「はい、一晩かけて」
わずか一晩ぐらいなら、どこの店でもあたりまえにやっていることだろう。
オレはさらに問うた。
「ほかに何か?」
「いいえ、特別なことはなにも」
「それでこんなにうまいとはね」
「おほめいただきありがとうございます」
「いや、本当に美味しいのでね、私も家で作れないかと思ったんだよ」
「人間様にはやはり無理かと。われわれロボットだからできる部分もありまして」
「それは残念だ」
「よろしければ我が家においでになりませんか? 作っているところをお見せできますので」
「なんだ、ここで作っていたのではないのかね?」
「はい。私と妻が家で仕込んだものを店に持ち込み、それを提供しているのです。美味しく仕込むには、それなりの機材が必要になりますのでね」
主人は妻に電話を入れた、
オレを自宅に招待してくれるという。
店を閉めたあと主人に連れられ、オレは彼の奥さんの待つマンションを訪れた。
カレーの香りが漂う玄関で、やはりロボットの奥さんに笑顔で出迎えられた。
「どうぞ、こちらへ」
主人に導かれて広いキッチンへと通される。
そこは調理場をかねているらしく、調理用レンジの上には大きな鍋が乗せられていた。
先ほどの香りはこの鍋のものだったのだ。
「お客様にカレーを」
主人が声をかけると、さっそく奥さんが皿にご飯をよそい、それから鍋の中のカレーをたっぷりかけてくれた。
それを食卓に運んでくる。
「これは昨日仕込んだものです。これから仕込むカレーはお土産にしてお持ち帰りいただきますので、それまでゆっくりお召し上がりください」
自分たちロボットは食事をとる必要がない。オレが食べている間に明日の分の仕込みを始めるという。
主人は奥さんと一緒に調理台の前に立った。それからジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなどを取り出して洗い始めた。
「では遠慮なく」
オレはカレーをありがたくいただくことにした。
実に美味しい。
いつも店で食べているのとまったく変わらない味であった。
食事が終わる。
明日の分のカレーの仕込みが終わったのか、奥さんが片付けを始めた。
そんな奥さんに主人が声をかけた。
「仕込んだばかりのカレー、さっそくお客様のお土産に」
「はい、ただいま」
奥さんは大きくうなずくと、なぜかその場でスカートをまくし上げ、箱のような装置の上にかがみこむようにして座った。
装置の内側からなにやら音が聞こえる。
できあがったばかりのカレーを取り出しているのだろうか。
その音は一分ほどでやんだ。
主人が装置の下に手を入れて容器を取り出し、それをオレの前にさし出した。
「これが本日仕込んだばかりのカレーですが、うちの店のカレーはこうやって作られるのです。どうぞ、お土産に」
その容器には、オレがいつも店で食べているカレーが満杯に入っていた。
それなりの機材とは、まさか奥さん本体?
隣ではその奥さんが、食卓の上のティッシュの箱から数枚の紙を引き抜いている。
装置の中で水の流れるような音がした。