最終話 そして私は手札を伏せる
冴ちゃんのイラストです。
冴ちゃんは……最終的にはこのイラストよりもっとやつれてしまいます(:_;)
そして冴ちゃんの最愛の人だった“あかりちゃん”
冴ちゃんに向かって、少し無理して微笑んでいる感じです。
二人とも痛いなあ……(:_;)
では、本編をどうぞ<m(__)m>
◇◇◇◇◇◇
『冴茶ソ』が売れている。
期間限定ではあったが、地元のスーパーの店頭にも並ぶくらいの勢いで!
そしてそれが……『まろやか音』の成約にも繋がっている。
勢いづいた商品は人々の耳目を集める。
その先を見越した社長は早々と代理店制度を敷き、私はその説明会や指導の任まで与えられた。
とにかく忙しい!!
髪を振り乱さんばかりに!!
でもその忙しさに私は自ら飛び込んで行った。
その結果、私は一種の“野獣”となった。
……男ならこれを『疲れマ◇』と言うのだろうが……
あかりを産む事を……まるで口実にするかの様に……
私はオトコの上に乗っかった。
『オトコの下になる』のはもう御免だったから!!
寝ても覚めてもネても……私は髪を振り乱し、どうかするとみっともない声を上げる。
こんな私は……間違いなく半狂乱なのだと思う。
でもそれが……今の私の“生きる術”だ。
しかし、そうやって凌いでも……
真夜中に私は不意に素面になって目が覚めて……
ついさっき、ベッタリと種を受けた……殆ど知らないオトコの横で
あかりを想って肩を震わせ忍び泣いた。
ああ!!
もうこんな事は……
終わりにしよう……
私は……あかりの身元を探す事にした。
それは彼女自身が隠そうとしていた事を掘り返すのが目的では無い!!
私はただ、あかりの傍で眠りたいんだ!!
警察は……間違いなく彼女の身元を突き止めた筈なのに……興信所に依頼しても……それは『ブラックボックスの中』だった。
だから私は……“過去の私”を振り捨てた時に、私と“交渉事”をした“とある特殊な”興信所へお金を積む事にした。
◇◇◇◇◇◇
ようやく離婚が成立した社長は“女の子の居る店”にも飲みに出掛ける様になった。
本当に良かった!
事務所に寝泊まりする様になった社長の面倒をそこはかとなく見ながら私は思う。
このあいだ……この社長室でサシ飲みしている時に彼は言った。
「別れた女房に『アンタとの間に子供ができてなくて本当に良かった。背中にキズのある親なんて、子供が不憫すぎる』と言われたのは堪えた」と……
私はもう……
あかりを産む事は諦めたから……
彼には……今度こそ良い伴侶に巡り合って欲しいと強く願う。
こういう風に思う私は……ひょっとしたら彼の事を好きだったのかもしれないな。
けれど、あかりを産む事を諦めたら……そんな想いも……男への興味も……あっさりと抜け落ちてしまったのだ。
街で出会う幼子には、つい心惹かれてしまうけど……
そう言えば……社長室に鎮座している、あの派手なジュークボックスは動くのかなあ……
あのジュークボックスのガラス製のブースの上は……他の棚に比べて埃が少ないから……案外、社長が遊びで動かしているのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
日高敦子さんが総務部長をなさっているこの会社も……昔、“飛び込み”して受付で断られた。
その会社の応接室に通された私は敦子さんと商談をしている。
「冴子さんのアドバイスを元に淹れさせたの。この『冴茶ソ』の冷茶はどうかしら?」
私は出されたお茶を利いてみる。
「とても良く出来ていると思います。冷蔵庫も清潔が保たれていますね」
「そんな事も分かるの?」
「はい。ただ非常に残念なのですが……御社が入居しているビルの貯水槽はまるでダメです。」
「その弱点は、『まろやか音』なら解消できますか?」
「解消できます。勿論、面倒な『お茶淹れ』の手順も不要です。」
「それは良かったわ!ご存知かもしれないけど、弊社の社員には『冴茶ソ』のファンがたくさん居るのよ」
「ええ、存じ上げております。ひとえに日高部長のお声掛けの賜物です」
「そうではないわよ。『冴茶ソ』が美味しいから。だから我が社では『まろやか音』を導入する事にしました。まずは10台ですけど。お見積りを出していただけますか?」
この問いに私は即答した。
「次回のフィルター交換……約2年後になりますが、それまでは7台分のレンタル料で結構です。設置工事費も戴きません」
「即答なさっても大丈夫なのですか?」
「はい! 御社は“上得意”であられますから」
本当はこれから社長を説得しなければならないのだが、これは私の“最期”の大口物件だ!
この条件をびた一文変えさせてなるものか!!
「では、正式なお見積り書は後日お届けいたします。それから……御社の水の分析と『まろやか音』の調整に多少の日数を要します事をどうかご了承下さい」
そう断って……私はガラスの湯呑を美しい緑に染めている『冴茶ソ』を戴いた。
『冴茶ソ』はやはり美味しい。
その美味しさが、私をここまで連れて来てくれた。
私は谷川の奥様に心の中で感謝を申し上げながら、空になった湯呑を茶托の上へ戻す。
でも私は……本当にそれで良いのだろうか?
私はただ単に、自己欺瞞としての生きる理由をマッチポンプの様に作っているだけではないのか??
まだ梅雨が明けていないのに、気の早い夏の日差しがテーブルの上で遊んでいる。
あかりを亡くしてはや1年が経とうとしている……
ああ!こんな風に時間を飛ばしてしまってはダメだ!!
これじゃあ!
あかりへの愛を!!
証明できない……
だから私は
自分の時を
止めなければ
ならない。
『こんな故郷の片隅で ~お仕事奮闘篇~』 終わり
このあと、少しだけ『あとがき』を書かせていただきます<m(__)m>
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