第1話 名刺
いよいよ本編です(^_-)-☆
イラストはこのお話の主人公の冴ちゃんです。
その日は“オゾンミスト発生装置”のメンテナンス作業に手間取って遅くに会社へ戻った。
1階にある工場も倉庫も真っ暗で、2階は、応接室を兼ねた社長室の灯りが点いているだけだ。
「遅くなるって“師匠”には電話入れたのになあ……」
いや、師匠は間違いなく社長へ報せた筈だ。
けど?だから?
社長は残っている。本当ならもう飲みに出掛けている時間なのに……
まったく!
私なんかを待ってどういうつもりだろう??
私が元風俗嬢で、社長が贔屓にしてくれていた事を……ここの社員達はきっと知っているのだろうに。
それだけではない。
奥さんとの離婚係争中の身で私との事を不貞の証拠にでっち上げられでもしたら自分の不利になるだろうに。
私は深くため息をついた。
「社長には少し甘え過ぎた。アルバイトとは言え、今まで私を雇ってくれた事でどれだけのリスクを負わせてしまったか分からない! 本当にもう、ここを去らねば! 私にも“普通の仕事”ができるって思わせてくれただけで十分なのだから……」
私は工具バッグを背負い直して会社のドアを開けた。
◇◇◇◇◇◇
社長室の扉が半開きだったので私は戸口で工具バックを下ろし、ノックもせずに中へ入った。
「ただいま戻りました」
「おう!お疲れさん! 糖分補給でまんじゅう食うか?」
社長は目の前のロ―テーブルの上に置かれている “パック入りのひとくちまんじゅう”を目で指した。
でも、私は頭を振る。
「いらない。その隣に居座っているウィスキーがいい」
社長は頷いてジャックダニエルのどでかいボトルのキャップを開けた。
「氷、冷凍室にあるぞ」
「へえ~珍しい」
「昼間の内に木村に買いに行かせた。アイツがコンビニへ行くついでにな」
「ああ……今朝、木村さん言ってたもんね。『新作のコンビニスイーツを買いに行く』って」
私は賢さんに言葉を返しながらバカラっぽい?グラスを出して氷を放り込んだ。
「ちょっとその前にお前に話がある」
社長が自分のグラスとひとくちまんじゅうを脇に寄せたので、私は肩を竦め、グラスを流し台に置いた。これは今日でバイトはクビかな……でもそれなら話は早いという物だ!
「タバコはいいか?」と言いつつタバコを咥えると
「ああ」と社長も自分のタバコに火を点けた。
で、ロ―テーブルの前に腰を下ろすと逆に社長が立ち上がり、自分のデスクから紙の小箱を5つ持って来た。
「これはお前のだ」
それは5つとも名刺の箱で蓋の部分に刷り見本がくっ付けてある。
。。。。。。。
両和システム株式会社
第二営業部
佐藤冴子
。。。。。。。
「何だよ?これ?」
「見りゃ分かるだろ?お前の名刺だ」
「私、バイト辞めるつもりなんだけど」
「ああ、バイトは辞めてもらう。ウチの正社員になるんだからな」
「勝手に決めんなよ!」
「勝手に決めるさ」
「何でだよ?」
「お前は元の仕事には戻れないからだ」
「……そんな事は、ない」
「あるさ!戻ったらお前、死ぬぞ」
「け……社長には関係ないだろ?!」
「お前がどんなに最低なヤツだとしても……オレはお前の雇用主だ!責任がある。お前みたいなのが不用意に死んだら世の中に迷惑を掛けるからな」
社長の容赦ない言葉が私の胸を突く。
それは私が……私自身に対していつも発している言葉だから……“あかり”の後を追う事を私自身に思い留まらせる為に……
「へええええ~ 賢さんって!ボランティア精神に溢れてるんだねぇ~ でも自分の立場を分かっている? 私を雇い続けるリスクをさ!」
「“人”を雇うんだからリスクが伴うのは当たり前だ。だからお前には結果を出してもらう。その為に名刺を用意した。この500枚は当座の繋ぎ分だ。この枚数くらいはさっさと配り尽くしてしまえ!」
「どういう事だよ?」
「お前には新製品のセールスをやってもらう」
前話で賢さん(社長)は、風俗嬢時代の事が冴ちゃんに禍しないよう、“事務所”に話を付けたのですが……
賢さんは冴ちゃんを正式に雇用して、冴ちゃんに真っ当な仕事をさせようとするのです。
こんな風に、賢さんは冴ちゃんの事を本当に心配しているのです(#^.^#)
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