プロローグⅠ Killing Me Softly with His Song
この物語にお越しいただきありがとうございます<m(__)m>
あまり長くはならないので、お付き合いのほど、宜しくお願い申し上げます<m(__)m>
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ずっと眠れなかった私が、少しの間だったけど、あなたの腕の中でまどろむことができました。
目が覚めて、あなたの顔が見られたのがとても幸せで、キスをしました。
あなたの寝顔、とてもかわいいんだよ。あなたの腕からそっと抜け出して、今、これを書いています。
たった1日のお付き合いだったけど
心からあなたを愛しています。
あなたが寒そうにしているので、腕の中に戻りますね。
あなたからアドレスを交換しようって、ウチへおいでって言われて、
嬉しくて嬉しくて嬉しくて
決心が揺らぎました。
あなたのところへ今すぐ飛んでいきたい!
でも、私はきっと、もうすぐ、壊れます。
そしたら、自惚れかもしれないけど
あなたも
壊してしまう。
だから、行きます。
あなたにたくさん迷惑をかけてしまいます。
ごめんなさい。
でも、あなたの壊れたものもまとめて持っていきますから
だって私はあなたの鏡だよ
ふたつからひとつになって
またふたつになって
ひとつになるの
幸せってなんなのか、私もわからないけど、
あなたの幸せはきっと叶います。
私が叶えます。
だから心配しないで
愛するあなた
愛しいあなた
いつもそばにいて
守っているよ
P.S. もし生まれ変わりがあるなら
色々考えてみたけれど、あなたの子供になりたい
もちろん 女の子で
Have You Ever Seen The Rain ♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
遊園地で撮られた……“あかり”とのたった一枚の写真……それはあかりの遺影となってしまったのだけど……
私は今日もその写真の裏に書かれた遺書を読んで肩を震わせ、涙と鼻水でグシャグシャになる。
私はこんなにも弱くなってしまった。
そう、生きていくには余りにも弱すぎる。
今の私は……
例えて言うなら
ドブ川の汚泥に絡み、その濁った水に身を任せている“どんより”とした藻の様だ。
どうせ生きている価値も無いのだから……しがみ付くに値しない汚泥から
さっさと手を放してしまえば良いのに……
それなのに私は……今朝もこのマンションの扉を開けて出掛けた。
フーゾクの仕事なぞ、勿論する事は出来ず、ただその日の暮らしと命を繋ぐための仕事をくれる……“馴染みのお客”だった賢さんの会社へ。
◇◇◇◇◇◇
私は自分が自堕落なのを知っている。
でも、『生きなければいけない!』とも考えるようにしている。
だから、今はもう……これしかする事ができないバイトへ向かう。
私は人と話すのが苦手だ。
煩わしい人間関係も嫌だ。
そんな私には、ひたすら機械と向き合うこのバイトが性に合っている。
大抵は電車やバスに揺られて現場に向かう。
知らない街。
行った事のない場所から場所へ
流れて、流れて
社に戻って、マンションへ帰る。
エレベーターを出て、部屋のドアを開け、棲み処に戻る。
あかりを点けると
椅子の上に置いてあるストローハットが迎えてくれる。
私はそれを抱いて、テーブルのフレームの脇にそっと置く。
フレームの中にはあかりと私の1枚きりの写真。
写真の裏に書かれた遺書はフレームの裏板によって隠されている。
作業着を脱ぎ捨て、ありきたりにシャワーを浴びた後、冷蔵庫から出した缶ビールでコンビニ弁当を流し込む。
こうやって人としての“機能維持”に努めようとするけれど……おいそれとは眠れない。
だから私はフレームの裏板を外し
隠されたあかりの遺書を露わにする。
そして……
あかりのストローハットを前に“対話”を続ける。
月が妖しく輝いて、どうしてもどうしようもないときは
あかりの写真を抱いて
“ひとり寝の枕”を濡らす。
そしてまた “対話”
「どうして私を愛してくれたの?」
「どうしてあなたを愛したの?」
「本能?」
「快楽と愛情のはき違え?」
でも、これは……
あかりを思うたびに
夕立の降り始めの……乾いたアスファルトの色を変える雨粒の様に……パタパタと落ちるこの涙は……
何なの?
私はフレームの中のあかりを見る。
まばたきで涙を振り払って
見直す。
思わず目を見開く。
「!!!!!」
分かってしまった……
あかりを好きになってしまった訳を……
初めてあかりを見たのは
フーゾク事務所のあった雑居ビルの狭いエレベーターの中。
その時にあかりが身に着けていたロリータファッションと甘い香りが嫌だと思ったのは
自己欺瞞だと今、気が付いた!
私は彼女の顔に……私の記憶の底に押し込めた元の自分を顔を見たのだ!
私は狂った男の暴力によって元の顔を文字通り潰された。
修復と整形によって作られた今の顔は……過去の自分とは、まったくの別人。
だから私は過去の自分の一切を破棄した。写真も何もかも。
その過去の顔とそっくりなのが
あかりだったんだ!
あかりが私をお金で買った、あの“遊園地デート”の時に
かつての私と瓜二つの顔を持つあかりが、可愛らしく……真実の愛を振り向けてくれたから……私は急激にあかりに惹かれたんだ!!
何て単純で浅はかなんだろう!!
これじゃ、あかりの言う通り以上の“鏡”じゃないか?!
私は自分自身を彼女に写して、それを彼女に押し付け、彼女ごと壊してしまったのか!!
「あかり!!!!!!」
思わず叫んだ!!
もう!もう!!もう!!!
心を保てない!!
せめて償いをさせてっ!!!!
引き出しをひっくり返して、カミソリを手に握った。
そして蛇口をひねって浴槽にお湯を溜め始めた。
償いの門をくぐってあかりのところへ行くんだ!!
事切れるまで私の濁った血をお湯の中へじわじわと押し出して!!
でも……
と私は自問する。
それが本当に償いになるのか?
もうただ、ただ、泣きじゃくるしかなかった。
もし神様がいるなら……いや、悪魔でもなんでもいい!!
私の命を断って、代わりにあかりを連れ戻してほしい!
でも……
どこに叫んでも、空虚な響きが残るだけ。
風呂場の床に突っ伏した
私と言う“ボロ雑巾”が残るだけ。
あぁ そうだ……
誰もあかりを連れ戻してくれないのなら……
あかりを産みたい!!
いかなる困難や屈辱をも乗り越え
どこかの男の種をこの身に受け、あかりを黄泉の世界から呼び戻して私の中で育て慈しみ、もう一度産み直したい!!
その希望に寄り縋った私の左手が固くしまった右の拳を開かせて、カミソリを風呂場の床に落とさせた。
けれども、頭の片隅に浮かび上がったこの希望の欠片を私の“意志”が否定する。
ダメだ……
あかりを産むなんて!!
私の現実からはあまりにも遠い……
今までの私は……自身の“女のカラダ”を使って糊口を凌いで来た。
それなのに“女”としての私自身を否定し、自分自身をヒモの様に扱って来たのだから……
あかりを産めるわけがない!!
床に振り捨てたカミソリを拾い直し、もう一度握り締める。
……
……
……
まだだ!!
可能性のカードが手元に残っているあいだは
命を繋ぐ事から下りれない。
私は深くため息をついて
カミソリをゴミ箱へ投げ捨てた。
そして、
フォワグラガチョウたちがされるように、自分自身に強制給餌した。
プロローグⅡへ続きます。
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