第8話 瑞葉と由愛が嘘告を斬る
瑞葉は続ける。
「嘘告かぁ、それは義孝君、災難だったね」
「涙が止まらないぞ、悲しすぎて」
「うちのクラスでも少し流行ってたなぁ。何人かは実際にやってしまって、後悔やら喜びやらの悲哀が駆け巡っていたわ」
「へぇ、うちのクラスでも被害者っていたんだ。怖いな」
「私も嘘告しなよって言われたことあるよ。当然、彼氏いるんだからやれるわけないって断ったし」
「瑞葉が告白したら、みんながOKしちゃうから、被害者でまくりだな。やらずに済んで良かった。彼氏だって、そんな彼女いやだし、心配するし、嘘告したら一週間か一か月か仮でも付き合うんだろ、彼氏だってヒヤヒヤで不安で。よくそんな遊び思いつくよな。クラスの連中もさ」
「私だって彼氏を心配させるだなんてしたくないわよ。嘘告してる子は皆、彼氏や彼女がいないからね」
「お前はいいヤツだなぁ。さすが学校で一番の可愛い美女って言われてるだけはあるな」
「フフ、ありがと。嬉しいよ、義孝君」
「どういたしまして。瑞葉」
「ねぇ、義孝君、なんだか会話がズレてるんだけど、変じゃない?」
「えっ、変か?」
「……」
「家に帰るわ。じゃ、また明日。おやすみ」
部屋を出ていく際、瑞葉は振り返り、俺を見て言葉を残した。
「私の彼氏は、いえ、大切な恋人は義孝君、貴方よ。あ・な・た。忘れてない?中学から恋人4年目なんだけど」
俺「……」
実は義孝と瑞葉は恋人同士であった。
★★★★★
コンコン
「お兄ちゃん、いる?」
「ああ、いるよ、入って」
「瑞葉ねえちゃん、泣いていたよ。喧嘩でもしたの?」
「由愛、恋愛って理不尽だよな。思うようには決していかない。コントロールしようなどとは、おこがましい程だ」
「混乱して意味不明だよ、お兄ちゃん」
「由愛は嘘告ってしたことあるか?」
「あるわけないじゃん。好きな人いるのに」
「そうだよな」
「どうしたの?」
「お兄ちゃんな、嘘告されちゃったんだよ。瑞葉はそれで怒っちゃって」
「彼氏が馬鹿にされたら怒るわよ。私だってお兄ちゃんバカにされて今聞いた瞬間に怒ってるもん」
「瑞葉が言ってたけど、嘘告って本当に好きじゃないと出来ないから、俺が受けた嘘告も本気だったのかなぁ。どう思う?」
「女の子に好きな人がいる時は、嘘告はやれと言われても全員が断るよ。恋愛経験の少ない程、純真無垢だから嘘告はしないの。だって、そんな勇気があるなら、好きな人に告白したいじゃん?」
「私だったら嘘告を断れない状況に陥ったのなら、嘘告と称して好きな人に告白するよ」
そうか……
この由愛の話だと、ハルちゃんは経験豊富とは言えないから、実は嘘告と偽って、本当の好きという気持ちを告白をしてくれたのかも、…しれないのか。
ハルちゃんの謝罪の時、続きをいつも聞かずにその場を離れたな。最後まで聞くのが怖かったんだが、今度、機会があったら聞こう。
もし本当に俺のことが好きなんだったら、また考えたいな。だって、キス一回してサヨナラじゃ、寂しいもんな。
特に彼女はファーストキスって言ってたし、言動もそれを示してたし。もっと先に進めるかもしれないしな。
「お兄ちゃん、瑞葉ねえちゃんが彼女だという事、忘れてない?それは瑞葉ねえちゃんが泣いちゃうよ」
なぜ俺の考えてることが分かった?
「好きな人のことは何でも分かるんですぅ~」
「うむ、いずれにせよ由愛には大切なことを教えてもらった。ありがとな、凄く助かった。さすが我が妹だ。感謝する」
俺はキスより先に進みたいというチャンスを逃さない気持ちだけがメインに膨れ上がっていた。正直、瑞葉や由愛には聞かせられない性欲優先男が頭をもたげ始めていただけという……。
うむ、格好つけながら誠に恥ずかしい。