第5話 嘘告、発覚
意外なことに、ハルちゃんとは非常に好調に関係が進んだ。
毎週末にお休みをすべて使ってデートを重ね、付き合い始めて一か月になろう頃、キスをした。ちゅっと唇に触れるだけのキスだったが、ハルちゃんの恥ずかしがる顔が印象的で、ファーストキスだったようだ。
こんなに可愛い娘、俺には勿体ないとまで思い始めた。
デートは、ショッピングセンターに始まり、公園、映画館、科学館、ちっぽけな鍾乳洞、化石探し、動物園(遊園地付き)、水族館。
キスはお約束の観覧車の頂点で成功した。
妹の由愛や幼馴染の瑞葉と違って、新しい人との新鮮なカップル感覚は、俺の日々を充実させるには簡単だった。
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ハルちゃんと付き合い始めてから一か月が過ぎたころ、ある日の放課後の事だった。
俺は自宅に帰るため、通学路を進んでいた。家までの途中にある駅のロータリーも通過するのだが、そこでハルちゃんを見かけた。しかし隣には男子がいて、グループで帰っているのではない。二人揃って親しい感じがした。
まさか、早くも寝取られ、俺の苦手なNTRコースか!?
声を掛けようと最初は思ったのだが、妙に胸騒ぎがして躊躇し、観察することにした。
笑顔で会話しているハルちゃんと男子。本屋へと入っていったので、俺も追跡してみる。本棚を介して耳をすませば、会話も聞こえてくるかもしれない。
「ふふ、傍から見ればストーカー、でも違うんだよ、彼女を変な男から救おうとするナイスガイ、それが俺」
馬鹿なことを妄想しながら本棚を介して耳を澄ます。
「ねぇ、ハルちゃん、嘘告の話、僕は賛成できないな。早く彼に知らせて謝らないと大変なことになるよ。隣のクラスの西之原君は悪い男子じゃない。許してくれる筈だよ。ハルちゃんだって罰ゲームでさせられたんだし、悪意がそんなにないことも判ってもらえるはず」
「うん、それは分かってる聡くん。でも…でも……わたしね……」
俺はショックで本棚に手をついてしまった。そのはずみで本がバサバサと落ちてしまい、音を盛大に立てた。
店員さんに向かって「あ、すみません。すぐに片づけます。」と声をかけ、ホコリを払いながら一冊づつ拾い上げて棚に丁寧に戻す。その作業を裏からハルちゃんが目を開いてみていた。サトシと呼ばれた男子はオロオロとしていた。会話からして悪い奴ではなかったのだろうが、ピンポイントで気まずかった。
落ちた本を片付けた俺は、店員さんに頭を下げ、出口から走って自宅に戻っていった。ハルちゃんは最後まで俺に声をかけてこなかった。
本屋を出た瞬間、声が掛かる。小林だった。
「おい見たぞ。なんだどうした?」
「あ、小林か、いや、すまん。俺の彼女と男子が仲良くしていたんで追跡してたら、結果的にフラれた」
「ザックリ説明にしては分かりやすいな。稲垣華さんのことか」
そういって小林は本屋へと足を運ぶ。ハルちゃんに付き添っているのは、小林が知っている奴、学校でも有名な奴だった。座り込んだハルちゃんの背中に触れ、何かを話して慰めている様子だったという。外にいた俺に合流して一言いう。
「一緒にいた男子は、皆からサトシって呼ばれていて、学校でも有名な奴だな。彼の母親が女優でさ、優しくて成績優秀だから女子に凄くモテる。羨ましい男だよ」
「そうか、そんな格好いいヤツと親しかったとは」
そしてまさかの嘘告。
俺の一か月の恋は、脆くも崩れ去った。
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ハルside
嘘告という事が義孝君にバレてしまった。私は涙が止まらず、泣き崩れ、嗚咽が止まらなかった。