第3話 嘘告
朝、下駄箱の中に可愛い封筒の手紙が入っていた。
字は可愛らしく、女の子のものと推測できた。小林に見られると「一緒に封を開けてみるぞ」とか言いながら、介入してくるだろうから、速攻でカバンの中に仕舞う。
教室で席に着くと、感慨が押し寄せてきた。俺がラブレターなんて貰うとは。名前が書いてなかったから、誰からかは分からなかった。
クールにしていても、心は嬉しさで踊っていた。恥ずかしながら、生まれて初めてのラブレターだったからだ。
放課後、校舎裏で待ち合わせ。
どんな娘かな?
外見・容姿は俺の好みかな?
性格は、真面目で、大人しくて優しいと好いな。
ギャル系はちょっと苦手だ。
背は高すぎなければいい。172㎝の俺に合えばいいな。
贅沢は言わん、中肉中背でオツケイだ。
授業そっちのけで、丸一日、妄想が蔓延ってしまった。いいじゃないか、初めてのラブレターだもん。
放課後、校舎裏に向かうと、そこには隣のクラスの稲垣華ちゃんがいた。彼女は成績優秀で、真面目系、丸顔・下半身体系のゆるふわ美少女として男子に人気な娘だった。
ハルちゃん ↓
★★★★★
「あ、西之原君、来てくれてありがとう。私は稲垣華、隣のクラスです」
恥ずかしがりながら彼女は声を出す。俺も緊張しながら言葉を発する。
「あ、ああ、こんにちは。手紙くれたの君だったんだね」
「貴方のことを陰ながら見ていました」
「ありがとう。正直なところ、嬉しいよ」
最初の挨拶はクリアーできたようだ。稲垣さんは大変可愛らしく、真面目そうで、体型も好みだ。はにかんだ顔は、男子に人気だという事を証明し、大きな目がしっかりと好意を伝えてくる。
「義孝君、好きです。もし良かったら、私とお付き合いをしてくれませんか?」
「もちろん、俺からもよろしく頼むよ」
「ほんと?嬉しい。とても嬉しい……」
「俺も嬉しいな。君みたいな素直な娘、初めてだ」
ヤッター!初めてラブレターを貰って、それがこんなに可愛い娘で、嘘だろ俺、なんか悪いもん食ったんじゃないだろうな?
「ねぇ、スマホでID交換しよ、行きたいところあったら、今週末のお休みに行こうよ」
「ああ、そうだな。行きたいとこ、いっぱいあるぜ」
もうニヤニヤが止まらない。俺、今夜、死んじゃったりして。転生してしまって、二度と彼女に会えない事になったりするかも。
それから趣味の事、好きな芸能人、よく聴く歌、音楽、過去に付き合ったことがあるか等々、初めての会話だというのに、すんなりと盛り上がり、思った以上に楽しい時間を過ごすことができた。
「俺が初めての彼氏かぁ、嬉しいな」
時々、あくまでも時々だが、彼女がふっと寂しそうな顔をした。なにせ初対面なので、そんな悲しそうな顔も、普段の顔つきの一つだと考え、もし事情を聞くとしても又今度と思った。
彼女は自分のことを「ハル」と呼んで欲しいとお願いしてきた。友人知人は皆そう呼ぶらしい。
いきなり親しくなった友人、いや、彼女となったハルちゃんと名残惜しいが校門で別れ、心の中でスキップしながら家に帰った。俺は自分の部屋のベットで寝転んだ。
「ハルちゃんか……可愛い娘だったな」
週末どこ行こう。まずはショッピングモールで初々しいデートからだな。早速、スマホでメッセージを送る。他に行きたいところが多々あるので、デートの行先で苦労することもないだろう。
俺はバイトもやってるし、彼女の分を含めて出して、負担を減らしてやろう。ふふっと笑みが浮かぶ。