第1話 魔の手
俺にはとても可愛い彼女がいる。
皆が彼女に憧れ、彼氏である俺に嫉妬する。彼女は学校でもトップクラスに人気があり、男の好みで好き嫌いが分かれるものの、男子アンケートでは常に美少女のランカー保持者である。
名を、村越瑞葉という。高校二年生の文系コースに通っている。彼氏である俺も同学年の文系コースでクラスメイトだ。彼女はバトミントン部。幼いころから体が弱かった為に、健康目的で始めていた。
そして俺は西之原義孝、バスケ部に所属し頑張っている。一年下の後輩にとても可愛らしい妹・由愛がいる。この妹というのが母親曰く義理だという。俺はノリのいい母親の揶揄いだと感じてしまい半信半疑だ。
瑞葉とは幼稚園からの腐れ縁、ゆえに幼馴染であり、中学一年の学期末、俺の告白から付き合いだして、一緒の高校に行こうねと志望校を話し合ってこの学校に決め、二人とも無事合格。
青春というのを謳歌している真っ最中という訳である。
今日は三年のサッカー部の先輩たちがグランドに訪れ、基礎体力を見直そうという”なぜ?”というイベントのせいで、我らバスケ部も集合させられていた。
友人の小林幹夫が俺に言う。
「なぁ、なんでバスケ部の僕たちがサッカー部の先輩にしごかれるんだ?」
俺にも分らん。
「まさに謎イベント、というか知らんよ」
またバトミントン部も呼ばれたみたいで、ついでに俺の応援も、と傍に来ていた瑞葉や妹もいた。総勢三十名ぐらいの規模で先輩たちのしごきを受けるようだ。早く終わると良いな。
「全員集合、よく集まってくれた。感謝する」
サッカー部キャプテンの木下先輩が説明する。今年から学校間の交流を推し進める自治体の政策のため、テストケースとして我が校が他校の運動部を巡回してテクニック交流をすることになったらしい。
全員で動くわけにはいかないので、今の中から選りすぐりのメンバーを決めて他校を武者修行・巡回しよう、内申点にも有利だぞ、という本音が見え隠れしていた。
平たく言えば、選抜メンバー四人を決めるために俺たちは集められたっぽい。全員が困惑顔だ。
メンバー選出は男女半々、主に2年生が担当する。引率は先生ではなく木下先輩で、あっけなくクジ引きと推薦で決まった。
木下先輩、瑞葉、妹、俺であった。急病の際の代理は友人の小林。
他の部員たちを前にして、木下先輩が宣言する。
「俺たちで巡回するが、皆も参加している気持ちで我々を応援して欲しい」
「最後に費用対効果みたいなレポートを書いて提出するだけでOKだから気軽にな。この五人の顔と名前を憶えてくれ。お前らの代わりに生贄になってくれたんだからな」
と笑いながら話した。選抜者はみんなの前で揃って立ち並んだ。
「お兄ちゃん……」
俺の顔を見てはにかむ妹。
「あ、そうそう、最初は二名で予算を節約しながらやろう。西之原君と小林君は友人同士だったね、バックアップとして助けてやってくれ」
「はい。分かりました」と補欠の小林。
「じゃ、もう1チームは俺木下と村越さんだね。皆よろしく」
瑞葉と木下先輩が顔を合わせて挨拶しあう。そこで木下先輩が瑞葉の肩に腕を回した。
「仲良くガンバロー」
「ハイ、木下先輩」
そう笑顔で返事をしながら、木下先輩に腕を回された瑞葉はワンテンポしたあと、彼の腕を振り払う。
木下先輩はハッとしながら「ごめん」と謝っていた。そして瑞葉はバツが悪そうにチラリと俺の顔を見た。
俺は心の中で怒り狂っていた。
(大切な幼馴染で彼女である瑞葉に、勝手に触るなど言語道断、許せん。もう木下先輩だなんて呼ばん、木下だ)
瑞葉は俺の怒り顔を見て察し、急いで俺の傍に寄ってきて耳打ちする。
「酷いわね、木下先輩って。ドライブシュートを教えてくれるのだとばっかり、勘違いしてたわ失礼しちゃう。義孝くん落ち着いてね」
しかし言葉とは裏腹に、少し恥ずかしそうに俯いた瑞葉は、目が潤み、耳が真っ赤で、まるで有名スターに触れられたイチファンのごとく、喜んでいるように見えるではないか。
「!」
こ、こいつ……。
↓ バトミントン部のミズハ
☆☆☆☆☆
「四人そろうのも久しぶりよね」
「四人といえば今年の初詣、楽しかったなー」
妹の由愛は思い出していた。
「ああ、部活するにも揃うだなんてラッキーだったな」
左から、小林幹夫、妹(由愛)、義孝(俺)、瑞葉
↓
木下先輩は、一見、爽やか好青年だが、行動を観ると女の子に対して手が早そうだ。とても嫌な予感がする。