第10話 深夜
「暗いわ……」と瑞葉がこぼす。
「もしオレがいなかったら、全員、祠に辿り着けなかったな。笑っちゃうぜ」と小林。
周囲は真っ暗である。俺たち4人は祠を目指して歩いている。昼間に歩いた道だ。日付を越したらお参りをして宿に戻る。
小林以外は誰も懐中電灯を持っておらず、小林はたんに釣り道具の中に夜釣り用のが入っていただけである。
山の中には外灯はない。月明りも満月でなければ何も見えない。今、俺たちの周りは懐中電灯を消せば完全な漆黒である。一度、消してみたら自分の手すら見えなくてビックリした。
「スマホの充電も泊りがけだから交代制、バッテリーが少ないから懐中電灯代わりにするのは短時間だけよね、由愛ちゃんも手を離さないでね」
瑞葉はそう言いながら、俺の腕に手を絡ませ体を寄せている。瑞葉と由愛は手を繋いでいる。小林は単独、照明係であった。
歩きながら俺は考えていた。
湯船につかりながら大学生の兄さんに言われた「女性は化粧を取り、服を脱がせばみんな同じ、大切なのは”心”だよ」という哲学を感じた話。
「他の男が近寄ってこようが、その恋人には関係ない。心は義孝くん、君にあるんだから不安がらなくてもいいぞ」
「大切にしたいなら一番は”彼女の心”だな」
俺は瑞葉の可愛らしさや美しさに惹かれているだけではない。彼女の優しい心、長い幼馴染ゆえの安定した気持ち、一緒に居て楽しい。外見はあくまでもオマケ程度だと思うようにしたい。
瑞葉が俺の「別れよう」メッセージで心を壊した時、俺は一生を瑞葉と添い遂げようと誓った。大切にすべき”瑞葉の心”を壊したのが俺自身だったという事に思いを馳せる。
そして、男湯でジュースを飲んでいた際の小林の「由愛ちゃんに一目惚れしたかもしれん」という爆弾発言。
小林が義理の弟になるのか。
☆☆☆☆☆
途中に電話ボックスがあった。緑色に光る小さな個室。山の中にあるせいか、ポツンと真っ暗な中にたたずむせいか、異世界感が半端なく伝わってくる。こんなところに電話ボックスだなんて必要があるのかな?
小林がぽつりと言う。
「たぶん、遭難者が使うんだろ」
なるほどなぁ。妙に納得した。
祠に辿り着き、スマホで日付境界線越えを確認しながら静かに0時(24時)を待っていると、見えない暗がりから音がした。
ジャリ…ジャリ…
「おい、なんか聞こえるぞ」
俺が皆に注意喚起する。
瑞葉が迫真の顔でつぶやく。
「クマだわ。人だったら懐中電灯がなければ歩けないし」
「悪霊退散っ」と由愛
小林が懐中電灯をそっちへ向けて照らし続ける。
すると……
サバゲーのノクトビジョンを装備した大学生だった。
「あ、こんばんわ。怖がらせちゃったね。これは暗視装置でね。暗闇でも見えるんだよ。俺たちはサバイバルゲームの同好会でさ、夏はここでミッションをこなし、冬はこうして過ごすんだ」
「びっくりしますよ、兄貴たち。懐中電灯も持ってないのに黒っぽいものが近づいてくるから」
大学生たちはNTRの気配もなく、ただ単に好い人達だった。俺は心の中で”兄貴”と尊敬しはじめていた。
☆☆☆☆☆
朝に目が覚めると、宿の庭は雪景色だった。窓はくもっており、息を吹きかけると何とも言えない風情を感じる。
俺と瑞葉はいずれ結婚する。
もし由愛と小林が結婚すれば、義理の弟だ。
将来に向かって楽しい生活が出来ると期待する俺であった。
【Fin】
違うわ! お兄ちゃんは私と結婚するのっ
☆☆☆☆☆
女風呂
「ねぇねぇ、瑞葉ねえちゃん、まだキスどまりなんだよね?」
「えっ、由愛ちゃん、なに何どうしたの?」
「お兄ちゃんと瑞葉ねえさんの進展具合を聞きたいの」
「う~ん、由愛ちゃんには好きな男の子とか出来た?」
「話を逸らさないでください。お兄ちゃんとの進展を聞きたいです」
「えっと、言ってもいいのかな……キスしかしてないよ。まだ恋人同士の行為は何もしてないわ」
「き、キスだって、すごくエッチな行為ですよ」
「由愛ちゃん、そんなに恥ずかしいこと聞かないでっ」
「妹としては、お兄ちゃんと結婚するまでキスもお預けです!」
「う、うん」
「時々の抱き締めまではオーケーです」
「いつも義孝君に抱き締めてもらいたいのに……」
「私が瑞葉ねえちゃんの代わりに練習台になっておきます。大丈夫」
「えっ練習台、大丈夫って?」
「はい。私は実は義理の妹なんです。ムフッ」
「ええっ! 何この新事実はっ」
「義理の妹だと結婚も出来るんですよ、知ってました?」
「なに言ってるの、実の妹でしょ、由愛ちゃん」
「だって……」
「本当に義孝君の事を好きなのね。ずっとよね。私も好きよ」
小林君が由愛ちゃんと結ばれる時が来るのだろうか……




