第1話 母親から義妹と明かされる
「由愛は血の繋がっていない義理よ」
そう断言して親指を立てる我が母上。
「な、なんだってー」
恐れおののいた俺こと西之原義孝は愕然とする。
「お父さんが拾ってきたの。マッチを売ってたって」
「マッチ売りの少女か……」
「嘘よ」
「嘘かい~」
「本当の事情はさておき、由愛が高校卒業するまでは内緒よ。絶対に伝えてはいけません」
いきなり降ってわいた妹は義理、という話。家族にとっては大変な事実だというのに、全く重要そうな雰囲気がなく、夕食が流れる。
妹は自室で引き籠っている。父親は残業中だ。
一般的には、かなり衝撃的な事実暴露のはずだが、まったく心に響いてこなかった。妹が義理だからといってラブロマンスが起きるわけではなく、いたって普通の生活のままだろうと思われた。
義理……、血の繋がっていない兄妹か。
確かにラノベを読んでいた時に、そんな設定になったら好いなと思ったことはある。学校生活も面白くなるんじゃないか、とか、特に妹が可愛いと同級生たちから羨ましがられるとか、想像したなぁ。
『お兄ちゃん大好き』という伝説のセリフを聞きたいという気持ちもあった。いや、これは今でも普通に言われてるな。義理の妹だと、同じ言葉でも俺が受け取る気持ちが変わってくるのかもしれない。
しかし、いざ義理の妹だと母親から言われてしまうと、現実感が乏しいのか、しっくりこなかった。
幼少期を一緒に過ごす兄弟・姉妹は、近親相姦を避けるためにDNAレベルで恋愛感情が無くなって寧ろ拒否反応が強くなるという話を聞いたことがあった。『お父さんの下着と一緒に洗濯しないで!』という地獄の様な娘のセリフが典型的といわれる。
だからなのか、義理だと言われても「そうか」としか思えなかったのかもしれない。
★★★★★
学校帰り、俺は幼馴染の瑞葉と二人で歩いていた。
「なぁ、一般的に言って、兄と妹の関係で恋愛で成立してることってあるか?」
「へ? 兄と妹って、義孝君と由愛ちゃん?」
「いや一般的にって言ったろ」
「ないんじゃないかな、シスコンとブラコンのコンボならあるかもしれないけど、私の身近に兄妹で恋愛してるって感じの人は聞いたことがないわ」
「そうだよな」
「由愛ちゃん、とっても可愛いから私と姉妹にはなりたいけどネ」
「へ?」
「何でもないわよ」
「瑞葉、俺と由愛がそんな関係になったら、どう思う?」
「ファイアーボール放つわ」
「燃えるな」
「燃やすわよ」
「バカな話題ですまんな」
歩き続けていると近所のスーパーが見えてきた。
「あ、お母さんから食材の買い物頼まれたんだった」
「大変だな」
「うん、じゃ先に行くね、またね」
「おう」
走ってスーパーに向かって行く瑞葉の背中を眺める。
瑞葉とは幼稚園からの付き合いだ。こういうやり取りも意識せずにできるし、男女関係ない友情や絆も構築出来ている。
↓ 以前、雨の日に迎えに来てくれた瑞葉
「おーい義孝!」
振り向くと、後ろからクラスメイトで友人の小林幹夫が追いついてきた。
「お前、今、村越(瑞葉)さんと話してなかったか? いいなぁ幼馴染なんだろ、あんなに美人と普通に話せるなんて羨ましい」
「お約束の腐れ縁ってやつだな」
「オレもあんな幼馴染が欲しかったぜ。みんなが羨ましがる」
「うーん、可愛いと言ったら俺の妹の方が可愛いな。美人度では瑞葉だが」
「兄バカだな」
「ひいき目に見てもトップクラスには可愛いからな」
「オレ、初詣の時、メガネとコンタクトを忘れて、妹ちゃんの顔を正確に観られなかったんだよな」
「同じ高校になったんだから、これから見れる機会はあんだろ」
歩く途中で駅が見えてくる。
「おっと、オレはこっちだ。じゃぁーな、義孝」
「おう、また明日な」
★★★★★
小林と別れて歩き始めると、後ろからポンと肩を叩かれた。振り向くと妹の由愛だった。
「お兄ちゃん、追いついたわ」
「おう、我が愛しい妹よ。学校はどうだ? 変なこと起きてないか?」
「うん、部活をお兄ちゃんと一緒のバスケ部にしたよ」
「背が低いのに大丈夫か?」
「平気、へーきよ。ただ男女別に分かれているのが残念ね」
「男女別は体のつくりからして仕方がないな」
「フフッ……」
妹は隣にちょこんと並び、俺の歩くスピードに一生懸命あわせようと頑張っていた。
(こんな可愛い妹が義理か……。恋愛対象にはならないが、兄としては何だか嬉しいな)
「お兄ちゃん、手を繋いで。歩くスピードが違うもん」
「ああ」
まだ新学期が始まったばかり。桜の花が五分の一の開花であった。
左から、小林幹夫、由愛、義孝、瑞葉
↓