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6 一歩




 今更ながら、彼のことを客観視できたような気持ちになった。


 レベッカは彼の為にも自分の為にも頑張って、向き合おうとも努力をした。


 けれども、話し合いもできずにないがしろにされて、彼と分かり合うのをあきらめてしまった。


 ヘルミーナにはそのことが悪かったのだと、レベッカのせいだと言われた。


 ……それで私も心のどこかで、私が失敗したからって思っていたのね。


 だから前に進めなかった。


「あっ、あんな家、私の方から捨ててやる! もういい! レベッカ! いいから話をしよう。私はこんな話をしに来たんじゃないんだ。君が公爵家の跡取りになるなんて話知っていたら――――」


 彼は投げやりにそう口にして、フォルクハルトのことを無視して前のめりになりながら言う。


 そこから続く言葉は予測できた。けれどもレベッカはああよかったとほっと一つため息をついて彼の言葉など聞かずに返す。


「あなたと話すことなんてないわ。私はあなたと話すべきことなんて一つもない。私が跡取りになっていようとあなたには関係ない。あなたの今の生活が困窮していても私にはなんの関係もない」

「なっ、そ、そんなの薄情すぎるだろ! あれだけ私たちはともにやってきたじゃないか」

「そっくりそのまま、あの時のあなたにその言葉を返すわ。薄情だったのはあなたよ。話すことなんてないのでしょう。私の事情もなにもかも、あなたには関係がなかった。どうして私が忙しくしていたか、知ろうとしてくれなかった、あなたは分かり合おうとせずに私を捨てた」


 納得がいってすらすらとレベッカの口から言葉が出てくる。


 あの日からのどに詰まって吐き出すことが出来なかった重りのような言葉だ。


「今更、あなたが私のなにかに気がついたって、話し合うまでもない。あなたにできることなんて後悔することぐらいでしょう? 今度は必要な時に相手と向き合うように生きたらどうかしら。例えば今はベルナー男爵とかね」


 言い切ってレベッカはいつものように優しい笑みを浮かべた。


 彼はいつも自分のことばかりで、そうだとしても向き合っていくことが婚約者としてのレベッカの務めだと思っていた。


 けれどもそれだけではだめだったのだ。彼もそう思ってくれなければ、お互いに向き合っていこうと、その時に想い合わなければコミュニケーションというのは成立しない。


 とても難しいものだと思う。けれど、それがわかってよかった。


 そうでなければこれからもずっと彼と向き合うことをあきらめてしまった自分をレベッカは責めてしまっていただろうと思うから。


 そう結論付けてから、レベッカは表情を厳しくしてローベルトに言い放った。


「フォルクハルトさんに伺ったように、あなたにはもう家庭があって国にも迷惑をかけているのよね。なら私はこの家の兵士を使ってあなたをとらえて、ベルナー男爵につきだそうと思うわ。もう言うこともないもの」

「は、はぁ?! ちょっと待ってくれ、私はベルナーには戻らない! 戻るわけない! ここでレベッカ、君に許してもらうまで!」

「なら俺が連れていくよ。丁度、ベルナー男爵に彼の発言についてや今までの態度から話をするべきこともできたし」

「あら……そうなの?」


 もちろん先ほどのベルナー男爵家など捨ててやるという発言についてや、よりを戻そうと公爵家に迷惑をかけた話など、彼が仕事で面倒を見ているベルナー男爵に話をするのは間違っていないと思う。


 しかし立ち上がった彼にレベッカは少し心配になった。


 フォルクハルトはもちろん成人した普通の男性である様子だが、騎士でもなんでもないし、むしろあまり肉体的にたくましいというわけではない。


 ローベルトと体格はたいして変わりがないだろう。


 危険ではないだろうかと考えたが、フォルクハルトの言葉に過剰に反応して文句をつけるローベルトに、フォルクハルトはぱっと杖を向ける。


 するといつの間にか水魔法が彼を直撃しあっという間に撃沈した。


 ……案外、容赦がないのね。それに魔法もうまい。


 真面目で気優しいたちなのかと彼のことを、ただのいい人だとレベッカは思い込んでいたが、それだけというわけでもなさそうである。


 使用人たちとともに、ローベルトを縛り付けて運び出していくフォルクハルトにレベッカはソファに手をついて立ち上がる。


「……じゃあ、今日はこのあたりで。それにしても良かったよ。仕事の悩みの種と遭遇できるなんて、この人、自分の義務から逃げ回っているほかにも多分、援助金の関係でもやらかしているから、もうあなたと会うこともないと思うよ」

「……ええ」


 なんと言うべきかレベッカは少し迷って、それから彼の言葉に小さく頷く。


 するとフォルクハルトは少し黙ってそれから目を細めて「少し面倒な部分を見せちゃったかな」と気まずそうに笑う。


「嫌味っぽくて、引くよね。話は自分からジークに断っておくから」


 どうやらフォルクハルトは、煮え切らない様子のレベッカに勘違いしたらしく、自虐的に言って振り返ろうとする。


 しかしレベッカは今度は迷うことなく返す。


「いえ、また会いたいわ。あなたに興味があるの」

「レベッカさんは優しいひとだね」

「違うわ。……あなたとなら、きちんとすれ違わずに話が出来そうだと思ったから」


 レベッカはまた、一歩を踏み出して彼と新しい約束をして別れたのだった。




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