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5 問答



「いやいや、そんなわけにはいかない」と「大丈夫、大丈夫」という問答を三ターンほど繰り返し、レベッカは最終的に、二人きりで会うよりはずっといいと結論を出した。


 それでも彼に任せっきりにするつもりもない。応接室へとローベルトを通すように言い、レベッカはフォルクハルトの隣に腰かけ彼と向き合うことになった。


 久方ぶりに見る彼は、レベッカが想像したいつもの彼とは少し違っていて、装いもおざなりに着崩されているし、自信にあふれたキラキラとした雰囲気はどこかに消え去っている。


 それを見て、レベッカを捨てた彼だけがまるで正解だったかのように人生の成功を収めているわけではなかったのだということを知った。


 入ってきた彼は一番にレベッカを見つけて表情を明るくしたけれど、すぐ隣にいるフォルクハルトを見て目を見開いてあの日のように一歩引いたのだった。


「お久しぶりですね。ローベルトさん。随分奇遇ですね。ベルナー男爵があなたのことを首を長くして待っておいでですが? こんな場面であなたに会うことになるとは思いもよりませんでした」

「な、何故。ここに……あなたのような人が……」

「挨拶ぐらいはしてほしいです。知らない仲ではないのですから」

「わ、私はただ……レベッカに会いに来ただけで……」

「そんな状況ではないでしょう。ローベルトさん」


 戸惑ったようにレベッカに視線を向けるローベルトに、フォルクハルトは続けてレベッカにも事情を説明するように言った。


「自分が事務方で財務関係の仕事だとはレベッカさんにもお伝えしていましたが、丁度今はエレノア王国関係で傾いている貴族の支援を任されていましてその件でジークとも仲良くさせてもらってるんだ」

「そういうことだったのね……」

「そう、だからこの人の事情も周りの関係値も少しはわかっているつもりだよ。……そうですよね。ローベルトさん、妊婦の妻を屋敷に置き去りにしていると、ベルナー男爵がカンカンでしたよ」


 彼はなんてことのないように説明をする。いわれて考えてみれば、ベルナー男爵家もエレノア王国の国境側の貴族であり、今はとても大変な時期だろう。


 レベッカはああして婚約破棄されて以来、とくに相手のことを調べるでもなく意気消沈していただけだったので知らなかったが、そんな時期に突然跡取り娘を孕ませ、さらに置き去りとは男爵が怒るのも頷ける。


 ローベルト自身もどこか憔悴しているような様子で、婚約していた時のようなキラキラとした雰囲気が感じられない。


 あれから苦労していることは明白だった。


「ああ、でもあなたの気持ちもわかりますよ。あんな経済状況だと知らずにヘルミーナさんに望まれるままに関係を持ったのでしょう? たしかにローベルトさんは惜しいことをしましたし、実際にそう思われるのも仕方がないことですね」

「……」


 ローベルトはレベッカに話を切り出すこともできずにバツが悪そうにフォルクハルトの前で苦虫をかみつぶしたような顔で話を聞いていた。


 自分から来たくせに、フォルクハルトの顔を見た途端帰りたくなったようだった。


 けれどもローベルトはちらりと助けを求めるようにレベッカのことを見た。


 その縋るような瞳に、フォルクハルトが少し声を出して笑った。


「そんな女性に助けを求める様なことをしないでくださいよ。ここに自分がいてバツが悪いのだと思いますが、あなたを見つけたからには言うべきことが、山のようにありますから。提出が必要な書類はまったく進んでいませんし、衝突による領地の損害の確定についてなど、仕事があるでしょう?」

「いや、……それはだな。この後……」

「後回しに出来るほど国も甘くありません。融通を聞かせて先払いを了承しているのですから、すぐにでもとりかかってもらわなくては困ります。すくなくともこんなところで油を売っている場合ではありません」

「……いや、それはわかってるが……というか、なんなんだ? レベッカ! 私は君に折り入っての話が合って来たんだ。お前の兄上の友人には席を外してもらってくれ!」


 ローベルトはフォルクハルトに事務的にくどくどと問い詰められるとついに限界を迎えた様子で、レベッカに対して訴えるようにして言った。


 けれども、そんなことは気にせずにフォルクハルトはつづけた。


「いえ、そもそも逆にローベルトさんこそ、こんなことは言いたくないですがわきまえるべきですよ。不貞行為で慰謝料を払って別れた元婚約者にどういうつもりで会いに来たんですか」

「そ、それは私たちの間には、ただ、すれ違いがあったんだ! だから決して私だけが悪いわけじゃ……」

「どういう理由があっても、傍から見たらローベルトさんが一方的に悪いです。それなのに、今の状況が気に入らないからと言ってレベッカさんに迷惑をかけるとは、ベルナー男爵家からも見捨てられてもおかしくありません」


 隣にいるフォルクハルトは、なんてこともないようにまったく動揺せずに受け答えをする。


 どうやら彼の仕事の調子はいつもこのような様子なのだろうと想像できた。


 そしてローベルトは聞き分けがないが、レベッカの頭の中にはフォルクハルトの言葉はすらすらと頭の中に入ってきた。


 ……傍から見た、ローベルトはそんなふうなのね。






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