42 事実
ほどなくして、レーゼル公爵とその息子ヴァレンティーンの処刑が行われた。
その罪状は多くの人に広く知れ渡り、レベッカも今回の騒動に自分が思っていたよりも密接にかかわっていたのだということを改めて知った。
けれどもそれよりも、レベッカはきちんとフォルクハルトの言葉で今回の出来事を聞きたい。
それまでと同じように、ヴィルヘルムと交流をしたり社交をしたり、国が落ち着くまで忙しなくうごきまわり、やっとエレノアからの介入を許したヴィルヘルムはコルネリアとの再会を果たした。
後継者の問題などまだまだ解決する必要があったが、エレノアからの介入が悪意によるものではなく、ヴィルヘルムが信じたいと思ったように、信じるに値する救いの手だったことが不幸中の幸いだったと思う。
そうして、落ち着きを取り戻してからレベッカはフォルクハルトと向き合っていた。
彼とはもう出会ってから随分と経っているのに未だに、婚約者という状態から進展していない。
忙しくしていたというのもあるし、彼自身の問題が片付いていなかったからということも大きいだろう。
それが終わればおのずと次に進める。今日はそのための話し合いだ。
「……なにから話そうかと考えていたんだけれど、案外こうしてきちんと向き合うと言いたいことが次から次に出てきて要領を得ないことを言いそうだ」
「大丈夫よ。フォルクハルトさん、ちゃんと聞くわ」
「ありがとう。……じゃあ、あの人たちと自分がどういう関係だったかって話からしてもいいかな」
フォルクハルトのブルーの瞳は不安げに揺れていて、レベッカはゆっくりと頷く。
「成人していて次男の自分が実家を出て独り立ちしていることはさほど不思議とは思わなかったかもしれないけれど、実は出て行くなと言われるぐらいにはあの人たちは俺に執着心を見せていた」
しょっぱなの語り口調から、どうやらレベッカが知っている家族愛や、ちょっとしたすれ違いの話ではなさそうで、執着という言葉が重たく響く。
「実際に職場にやってきて戻って来いと言われることも多くあったし、それでも何年も無視して、拒絶してやっと落ち着いてきていたんだ。あの人たちと自分は正直、酷くそりが合わない」
「……それはなんとなくわかるわ」
「ありがとう。あの人たちの非情な決断だとか、自分さえよければ周りを利用するそういうところに随分嫌気がさしていた。……ただだからこそ、貴族の支援や人を手助けできる仕事に志願してつかせてもらった」
そりが合わないということには納得がいったけれど、レベッカはそういった理由があって今の仕事に就いたことは少し意外に思う。
「それはある種反抗心みたいなもので、出来る限りジークのような優しい人間になりたいと思う、でもふとした時にどうしても俺はあの人たちと同じ血が流れていると気が付く。動機も不純でふさわしくない」
「……」
「だから、あなたを関わらせることによって自分の矮小さがばれることが酷く億劫で、つい距離を置いたし、それに実際に感化できないような行動も彼らは起そうとしていた」
そう言った葛藤があったというのなら納得だ、聞くことが出来て良かったと思う。
しかしそれで話は終わらない、そこからヴィルヘルムに関する事件が起こったのだ。
「父上や兄上は、あなたとかかわりを持った頃から協力を要請してくるようになった。それは、どうやら王権にかかわることらしく、相も変わらず利点さえあれば俺が合理的な判断を下して協力すると思っているかららしかった」
「あなたを取り込んで、何をさせようとしていたの?」
「具体的には、王権を奪ったその後、維持運営の為の駒が必要だったのだと思う。それに後は、自身の物が思い通りにならないはずがないという歪んだ執着心、それが自分を選ばせたのだと思う」
「そうなのね」
「ウン、気持ちのいい話じゃないかもしれないけれど、それが彼らにとっての愛情だったのかなんなのか自分にはよくわからない。でも、その誘いは難しいものだった。告発しても、しなくてもレベッカさんにも多くの人にも被害がかかる」
王権を狙うということは、事がなされれば、目の上のたんこぶであるライゼンハイマーは、不遇の地位に追いやられたり何かでっち上げられて処刑される可能性もある。
しかし告発したとしても証拠も何もない状況で切り捨てられては意味がない。
……だから、話をすることは難しいと判断したのね。
「ただ、それをあなたを巻き込んで協力を仰いで問題を片付けるのはあまりにも情けがない。もともと俺の問題で、自身が決別するために必要なことでもあった」
「ええ」
「だからこそ、スパイのような真似までして情報を探したり、実際にどういう計画なのかを探ることにした。あの時は随分と放っておいてごめんね」
「いいえ、気にしていないわ。寂しくなかったもの」
レベッカが木彫りの置物を置くために拡張された棚を見ると彼は少し恥ずかしそうに照れた笑みを浮かべる。
それから切り替えて続きを言った。




