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4 躊躇



 与えられた課題を終えて、実務に移り、跡取りとして正式には決められていないが、すでにその話は身内以外にも流出し始めている。


 やる気が出ないと言いつつも、レベッカはなんのかんのとここまで手を動かしてやってきた。


 けれど心のどこかでずっと引っかかっているのだ。二人で良い方向に向かうために頑張っていたあの日々、にべもなく話し合いを断られ、捨て置かれたレベッカは何を間違えたのだろうか。


 レベッカが間違えたからこうなってしまったのだろうか。


 その思いはやっぱり目の前にいる彼ではどうしようもないことのはずで、こうして一生懸命にレベッカとの仲を深めようとしてくれている彼に酷く申し訳ないような気がした。


「年も離れてしまっているしな。あ、そうだ、ジークは君にしっかり確認をしたのかな。年上は嫌だったけれど言い出せずにいるなんてことは……」


 彼はまたハッと勝手に何かに気が付いたようなつもりになって、レベッカを心配している。


 もちろんそんなことはない。レベッカは年上だろうと年下だろうと特に気にしたこともないのだ。


 しかし、そうだと言ったらきっととても簡単に彼の時間を無駄にしたことを謝って気軽に別れることが出来る。そうしてしまえば……。


 心の底でそう願ったからだろうか。そのレベッカのどうしようもない気持ちが届いたように、応接室の扉が開き、侍女のカリーナが深く頭を下げて知らせを持ってきた。


「お話し中に申し訳ありません」

「いいよ。気にしないで」


 フォルクハルトは侍女の言葉に目を細めて、すぐにレベッカに話をするようにと視線で示した。


「ありがとう。どうかしたのかしら?」


 焦った様子のカリーナに、レベッカは少し優しく問いかけた。


 想定外の出来事がなければこんなふうに来客中に話をさえぎったりしないはずだ、なにやら耳を澄ませてみると応接室の外も少し騒がしいような気がした。


「……ベルナー男爵家に婿入りされたローベルト様が取り乱したご様子でいらっしゃっています」

「ロ、ローベルトが?」

「はい、来客中ですとお伝えしたのですが、ご自身の方が先約があったとおっしゃいまして」


 声を潜めていたけれど、静かな室内に、カリーナの声は良く響きフォルクハルトにも彼の来訪を知られることになる。


 もちろん、穏便に今回のことを無かったことにしようと考えていたレベッカだったが、まさかこんなタイミングで問題がおこるとは考えてもいなかった。


 ……いいえ、こうしてくるかもしれないことはむしろ想定しておくべき事態だったわね。


 ああして話し合いもできずに、別れることになりその後にレベッカの跡取りへの抜擢の話が出てきたのだ。いつこうなってもおかしくなかった。


 ただまさか今とは、思っても見なかった。


 フォルクハルトと会うために気を使って父と兄は不在だ。


 無視することもできなくはないだろうけれども、それでは使用人たちに酷い迷惑をかけてしまうだろう。


 それにしてもまさかこんな非常識をしてのけるとは呆れる。せめて普通に会いに来てほしかった。そう考えて額を押さえた。


 フォルクハルトを放っておくこともできないし、とても困った状況だ。


「そうね……ええと……」


 しかし決断をするべきだろう。フォルクハルトにはまた後日と伝えてそれからローベルトの対応をするしかない。


 ……するしかないのだけれど……。


 こうなることは必然ではあっただろうし、やるべきこともわかっている。しかし、いざこうなるとレベッカは自分の中にもう一つの大きな感情があることに気が付いた。


 …………会いたくない。


 結局、捨て置かれて、仕方がなく受け入れて、そして彼が言いに来るのはきっと文句だ。


 ……私がうまくやれなかったからって、きっと言うわ。私と彼の間には長いこと繋がっていた絆があるというのにって。


 支え合っていけない私が悪かったの?


 すぐに決断をしなければならないのにレベッカは難しい顔をして、数秒の間黙り込んだ。


 ただ、それでもレベッカはやることを後回しにはしないたちだ。あとほんの数秒悩んで時間が経過すれば、毅然とした態度で対応しようと結論を出していたはずだった。


「あの、俺が対応しようか? 以前の婚約者だよね、気まずいだろうし」


 しかし、その可能性はフォルクハルトの言葉でぷつりと潰えて、彼は人の好さそうな笑みを浮かべて「彼とは面識もあるし、職務上でもつながりがあるので」と少し丁寧に言ったのだった。




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