37 信念
翌日父に呼び出され、レベッカは朝の支度をしていた。
カリーナはいつもの通り手際よく準備を進める。フォルクハルトに手紙を出すためにすこし朝の時間を使ったのでいつもよりも時間が押している。
その時にふと言った。
「……あたし、本当は少しレベッカ様のことが心配なんです」
ぽつりと言われた言葉に視線をあげて鏡越しにカリーナを見る。
少し落ち込んだ顔をしていて、一晩考えてもいい案が思い浮かばないことに気落ちしていたレベッカはたしかに大役を買って出てしまって力不足ではないかと思っていた。
なのでその言葉にすぐに返すことはできない。
けれどもカリーナは小さく笑みを浮かべて、同じく鏡越しにレベッカと視線を合わせていう。
「それでも、レベッカ様は頑張り屋でなんでもそつなくできてしまいますから、大丈夫だと使用人一同思っています。あたしたちはその補佐しかできないけれどいつでも頼ってくださいね」
「ありがとう、その言葉心に留めておくわ」
「はい」
レベッカは孤独ではないと改めて思う。そして間違っていないとも、だからこそ彼らに恥ずかしくないだけの働きをしたいと強く思った。
「報告は、聞いたぞ。レベッカ」
「ええ、お父さま」
「よかったわ無事で、レベッカ。あなたはなんでも抱え込んでしまう節があるから」
「ごめんなさい、お母さま」
いつもと変わらない様子で言う父と優しく言う母。心配をかけたくはないと思うけれどレベッカももう子供ではない、自分で自分の道を選ぶことが出来る。
報告はしたけれども、ヴィルヘルムがレベッカだからこそ言った言葉は伝えないようにした。
そして相談するべきことだけをうまく選び取ってレベッカは父に報告した。
ヴィルヘルムがレベッカに吐露したことは誰にでも話をしていいことではないだろう。
だからこそそういう形にしようと決めたのだ。
「…………お前がやっていることは、正直なところを言えば徒労に終わる可能性が高いぞ」
すると父はそれを承知したうえでレベッカを鋭く見つめて助言をする。
「重要で危険なことは、まだまだお前には手を出させていない。後継者と言えど、レベッカ、なんでもできるわけではない。出過ぎた真似ではないのか?」
「……出過ぎていて意味がないとしても、それでも私はやれることをやるわ。それにすべてを操る力があることなんてきっととても稀だわ。だからわからないままでも、誰かが助けを求めているのだとしたらできる範囲で手を伸ばす、それが必要なことだと思ったのよ、お父さま」
言っていて思う、ローベルトにもそうして信じて欲しかった。そして、レベッカはだからこそそうしたい。
絆はそういうときに信じるためにあるのだと思う。すれ違う時だってあるだろう、けれども人と過ごして知って作った時間は、ずっと残る。
残ってほしい、アンネリーゼを知って悲しい結末を迎えなくて済んだときのように、けれどうまくいかなかったとしてもレベッカは手を伸ばしたい。
「……」
父はレベッカの言葉を聞いて片方の眉をあげてそれからため息をついた。
「きれいごとだ」
「そうね」
「ただ、悪くなどない。多くの人がついていく良いリーダーになれるだろう。好きにやれ、こちらはこちらで手を回している。いくらか融通も効かそう」
皮肉屋で、突き放すようなことを言う父だけれど、彼にもわかってもらえることもある。
人を変えることは難しいけれど、折り合いのつく場所を知ることも大切だと思って、頷いた。




