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 兄に紹介されたのは、ありていに言うととてもいい人のようだった。


 一度、兄と三人で顔合わせをした後、すんなりと次の予定を決められるくらいにはいい人で、今回は気を使って出かけている父と兄のいない屋敷に彼はやってきた。


「また会いに来てもらってごめんなさいね。なにも私だけが忙しいわけではないのだからと兄には言ったのだけれど」

「全然、気にしなくていいから。いやもちろん俺の屋敷にっていうならそれも構わないけれど、急にそういうわけにもいかないし」

「そうね。会うにしても外で会ったり……かしら」

「ウン、でもほら公爵家の大事な娘さんに何かあっても困るから」


 彼はぎこちなく笑みを浮かべて、ぱたぱたと両手を振る。前回同様、どこか緊張しているらしく会話には距離がある。


 もちろんで会ったばかりなのでそれほど馴れ馴れしくても困るのだが、レベッカと目の前の彼、フォルクハルトはただの友人として紹介されたわけではない。


「それに、何かあればジークに殺されかねないしね。今日も猛烈に脅されたよ。あんなに心配するならあなたにかっこつけずに、そばにいればいいのに」


 思い出したようにそういう彼は、やはりどこからどう見ても人の好さそうな男性で、親戚にもいそうないい人に見える。


 ローベルトとは正反対とまではいかなくとも、兄が選んでくるだけあって誠実そうに見えた。


「そんなふうに言われるほどなんて、少し恥ずかしいわ」

「レベッカさんが恥ずかしがる必要はないよ。それにいいことだ、家族仲がいいのは。貴族はやっぱりそうもいかない人が多いからね。相続や跡継ぎ問題でもめることもざらだし」


 さらりとした藍色の髪に、瞳も深いブルーでとても知的な印象を覚える。


 せっかく兄が紹介してくれた人なのだ、レベッカも兄の期待にこたえたいという気持ちもあった。


「そうね」

「それにやっぱり最近の情勢もあるからね、どこも経済的に厳しくなると身内の粗が見えてくるものなのかな。自分としては無いものを奪い合うよりももっと頼れるものは頼ってきっちりしてくれるだけで随分仕事が楽になるんだけれど……」


 瞳を難しく歪めて少し眉間にしわを寄せる彼に、レベッカはやはり王宮に勤めて忙しい仕事をしている人は、休日までも仕事のことを考えるようになるのだろうかと彼を眺めながら考える。


 フォルクハルトと兄は職場でのつながりの友人なんだそうだ。


 事務官と騎士団の団員などまったくもってつながりもないだろうと思っていたが、案外そこは兄の気さくさが才能を発揮した部分なのかもしれない。


 すると、フォルクハルトは少しぶつぶつと悩むように仕事のことを言って、それからハッとしてレベッカの存在を思い出し、慌てたように話題を戻す。


「ごめん、つまらない話をして! これで自分はいつもてんでダメなんだ。聞いていて退屈じゃない話をしようと思うんだけれど、あまり社交界に出ないものだから話についていけなくて」

「いいえ、私はフォルクハルトさんがどんなお仕事を王宮でしているのかお聞きしたいわ」

「いやいや! 面白くないよ、税金や政策の現場の話なんて聞いたって気が滅入るだけだ。レベッカさんはそうして優しいから興味を示してくれるのだろうけれど」

「優しさというより興味よ?」

「わぁ、まずい。ごめん、やっぱり自分でいいのかな。ジークに声をかけてもらったのは嬉しいけれど、自分はまったく女性経験もないしっ」


 慌てる彼にレベッカは小首をかしげて問いかける。すると彼は今度は顔を赤くして困ったように笑う。


 しっかりと仕事をしていて、どうやら真面目そうで、とてもいい人そう。


 それは出会ってたった二回目の交流であるレベッカでもありありと実感できる。それはとても良いことで兄に期待されているように、最近不調続きのレベッカのやる気を出してくれる人物になるかもしれない。


 そうは、思う。


 けれども、レベッカは彼には悪いけれどと心のどこかで踏み出せずにいた。






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