14 家族
王宮の応接室、父と母と向かい合わせで座ってレベッカは静かに紅茶を飲んだ。
ここで毎日フォルクハルトが働いているのだと思い出し、今はお城のどのあたりにいるのだろうと気になってしまって、いつか仕事をしているところを見てみたいと思う。
しかし、職場におしかけるわけにもいかないし、部外者の立ち入りは許されないだろう。
彼が騎士や魔法使いであれば、もしかしていつかは見ることが叶うかもと夢想できたのかなと考える。
「……レベッカ、レーゼル公爵子息との関係はどうなっている」
父も同じように、王宮にきて勤めている彼のことを思い出したのか、それとも単に、この暇な待ち時間を有効活用しようと考えたのか定かではないが問いかけてきた。
しかしそれがどういうたぐいの目的をもって言われた言葉なのかわからず、レベッカは当たり障りのない言葉を返す。
「良好よ。お父さま、結婚もとても前向きに検討してくれているもの」
「ふむ。そうは言うがなレベッカ、私はレーゼル公爵家とのつながりを持つにあたって、一度ぐらいは身内での顔合わせを開くべきだと思うぞ」
苦言を呈した父に、レベッカはもちろんそのつもりだと頷く。
婚約も結婚に関してもレーゼル公爵家の人々は書類にサインもするし同意もする。それにすでに成人して家を出ているフォルクハルトのことなので正直実家の同意がなくとも結婚することもできるのだ。
しかし、ライゼンハイマー公爵家とレーゼル公爵家、その二つの大きな力を持った貴族の家系が結婚という縁で結ばれるからには、顔を合わせてきちんとした話し合いの場が必要というのはたしかにその通りだ。
「それは私もそう思っているわ。今度話をしようと思う」
「そうしろ。なに、私としては新参者のレーゼル公爵の意向など取るに足らないものだ。ただあの子息は、お前を支えるのに申し分ない。もともとお前の婚約者は下級貴族になるお前にあてがったものだ」
「……」
「到底公爵家の配偶者にするには技量が足りない。それに比べて、レーゼル公爵子息は王宮勤めの経験がある上に、魔力も上等ときた。実家の干渉も少なく、家から放り出された次男坊なら扱いも容易い」
…………言い方が悪いわね。
父の自分の利益しか考えていないような言葉に、レベッカは若干の嫌悪感を覚えた。
せめてもう少し配慮のある言い方をしてほしいとは思うが、そういう性格の悪い部分を見せるのは大体家族の前でだけなので、フォルクハルト自身が嫌な思いをすることはないと思う。
それに、父がこうして包み隠さず本音を言う場面でもフォルクハルトはとても評価されているといって間違いない。
実家がどうこうというよりも実力重視な父のお眼鏡にかなったことは純粋にいいことだと思う。
……でも、皮肉っぽくてあまりうれしくないわ。
「……もう、あなた、素直に良い相手が見つかって嬉しいと言ったらどうなの? 相手のご家族ともできれば、きちんとした面識をと考えているのでしょう?」
「む? それほど嫌味な言い方だったか?」
「ええ、それはもう。ごめんなさいね、レベッカ。ただ、同意はあるのだもの、レーゼル公爵家が時間を割く必要がないと思っているならそれでもかまわないわ、フォルクハルトさん自身もそれほど実家とはつながりがないようだし」
母はすぐに父をフォローして、こうして家族との間を取り持ってくれる。
たまにそうして父が嫌味なことを言うとジークフリートが怒ることがあるので、いつからこういうふうになった。
「いいえ、お母さま、長年一緒にいるもの、褒めていることぐらいはわかるわ」
「……あなたも、ジークのように怒ったりしていいのよ。そうでなきゃこの人変わらないから」
「失敬な、相手は選んでいるだろう」
「そこがたちが悪いと言っているのよ」
母はきれいな金髪を揺らして父に振り返り、おっとりとしつつも低い声で言った。
そこから母の説教が始まり、レベッカはそう言われて確かに自分は怒ることは少ない方だと思う。怒るということだけでなくても自分のことを主張することは多くない、もう少し自己主張の強い人間になりたいものである。




