12 まっすぐ
「にしても、素晴らしいお茶菓子ですね! どれもこれもキラキラしていて宝石みたい」
「そうね、腕によりをかけて作ってもらったから。どうぞ召し上がって」
「はい! こんなふうにもてなしてもらえるなんて感激です」
アンネリーゼはまるで子供のようなことを言ったが、その宝石みたいという言葉はとても素直で、レベッカも同じ気持ちになって同意した。
カリーナに取り分けてもらって軽食を口にしつつ、レベッカは招いた側として相応しいであろう話題を提供した。
「もう王都での生活には慣れたかしら。いろいろと勝手の違う部分があるでしょうし大変でしょう?」
「大変……といえばたしかに大変です! 人が多くて眩暈がしそうになることもままあります!」
「それは……大丈夫?」
「はい! 実家の方で作っているハーブティーを飲んでリフレッシュ出来ますから!」
はきはきと答える彼女は、食事をしつつもとてもキラキラとした目線をこちらに向けてきて、レベッカはなんというか圧を感じた。
……圧というか、すごみ? 髪も燃える様な赤毛で顔つきが整っているから興味を示してキラキラとした目で見られると、気おされるようなすごみがあるわね。
眼を見開いてまっすぐとこちらを見るその様子は、ついつい忙しくとも話をしたくなるようなそんな魅力がある女性だ。
「それは素敵ね。でももしつらくなったら言って欲しいわ。私も身内としてできることをしたいから」
「ありがとうございます。でもご心配には及びません!」
きっぱりと断るアンネリーゼに、はっきりとした物言いをするのだなとレベッカは思う。
そしてたしかにこの話しかたか、そうね、としか言わない話し方であればパーティー向きは後者だろう。
「あ、無下にしたいわけではありません! ただ、わたくしにはジークフリート様がいてくださいます! あの方はわたくしをとても大切に思ってくださっていて良い方で、大好きなのです!」
「っ…………そうね」
目を細められてそんなふうに言われるとレベッカはなんだか、言葉が出てこなくなった。
兄の嫁、つまりは義姉になる彼女。
そんな彼女とレベッカの関係性というのは非常にデリケートと言っていいだろう。
少なくとも、レベッカは今までずっとそばでジークフリートと暮らしていて、彼のことならばアンネリーゼよりも知っている自信がある。
独占欲とも違うがなんというか、知った気にならないでと言いたくなる世の義妹の気持ちがなんとなく理解できてしまって、けれども同時に心がむず痒い。
まさか見知った兄のお嫁さんという、そんなプライベートな関係を結んでいる人から惚気を受けて、レベッカの胸は甘酸っぱいのだか、気恥ずかしいのだか、苦しいのだか、兄に合わせる顔がないようなそんな気持ちだった。
「というのも、家族との意見の相違で揉めていた時、ジークフリート様はとても果敢にわたくしの家族に意見をしてくださったのです」
そしてさらに、出会いの話が始まるらしく、レベッカは内心焦った。
もちろん順当な会話だろう、突然やってきた彼女が自身の事情を自分の言葉で説明し、納得してもらおうとするのなど当たり前の流れだ。
ちょうどいい会話の内容であるはずで、想定もしていたが、突然の「大好きなのです!」という惚気の後に聞くとジークフリートの顔がちらちらと浮かんでどういう顔で聞けばいいのか難しいのだ。
しかし、アンネリーゼの会話のテンポは速く待ってなどくれない。
「わたくしは、安直すぎるところがあるとよく言われます! 家族にも言葉を巧みに使って理解していただけるような頭の良さを持っていたらよかったのですが、ないものはないのです!」
「そうね」
「なので、意見が食い違い喧嘩のようになってしまうだけで、両親は妹の味方をするようになり、わたくしはただ不用意にみんなの出した案を否定するだけの人間だと使用人たちにも思われていました!」
まったく同じ調子でガンガンと話を進めていくアンネリーゼだが、彼女の言葉に、そんな状況にあったとしてもアンネリーゼの中には考えがあって、正しい事だと思ってしていたのだろうと想像がつく。
それをそんな厄介者みたいに思われるのは悲しかったのではないかと思うのだ。
けれどもアンネリーゼはその気持ちなどみじんも感じさせずに、続けた。
「そんなときに、国境の防衛と戦闘にやってきてくださったのがジークフリート様です! ジークフリート様は熱心に話を聞いてくださって、褒めてくださいました! わたくしは長女なのですがそのように褒められたことはなかったので、とても、とてもうれしかったのを覚えています」
彼女の悲しみは表に出て伝わってくることはなかった。けれどもその喜びはアンネリーゼの優しい笑みでとても強く伝わってくる。
言葉に、表情に乗った感情に感化されてレベッカも、その気持ちがわかる気がした。
長女ではあるが長子ではないし、そんな苦境に立たされたこともない。
けれどもそんな時に褒めてもらえる、それが兄のようなまっすぐな人で、自分に手を伸ばしてくれたなら、どれほどか。
ぎゅっと心臓が痛くなって、兄の優しい笑みを思い浮かべた。
兄は間違いなく素敵な人だ。
「そして手伝ってくださいました! 手を貸して、わたくしだけをと言ってくださいました。それはとても……申し訳のないことです、レベッカ様」
「申し訳がないこと……?」
「はい! わたくしには、もったいないのです。もっとジークフリート様に手を取ってもらえて然るべき相手がいるはずで、彼がなすべきであったこともあるはずで、だからこそ申し訳ないのです」
それは、謝罪とも取れる言葉だった。
彼の立場を捨てさせて、レベッカが代わりに後継者になったことをアンネリーゼは自分の負い目だと感じていること、それ以外のことも、アンネリーゼは自分の立場をしっかりと認識している。
「ご迷惑をおかけしています! レベッカ様にはとても酷く、謝罪では許されないほどに、ご迷惑を」
「……」
真剣に見つめられて、レベッカはありきたりなセリフを頭の中で思い浮かべた。
気にしないでとか、兄の選択だからとか、けれどもそんな表面を撫でる様な言葉ではなく、心の底から向き合ってくれるアンネリーゼとレベッカは同じでいたかった。
「……はい」
「申し訳ありません。……けれど先ほど言いました通り、わたくしはあなたのお兄さまをとても大切に、とても愛しております! だからこそジークフリート様が返してくれる愛情の対価、それを負い目に感じてジークフリート様が助けてくださった自分を否定をして生きる人間ではありたくないのです!」
「……」
「自己満足だと言われるかもしれません、ですが精一杯、ご迷惑をかけた分お役に立ちたいと思っています! 手を差し伸べてくださるに値するのだと自分でも思えるほどにジークフリート様に優しさを向けてもらえるのにふさわしいほどになれるよう、努めます! レベッカ様」
「ええ」
「なのでどうか、よろしくお願いします」
まっすぐな瞳にレベッカの心臓はやけに速くなっていて、その瞳が示すように彼女はとても、まっすぐな人なのだと思う。
突き抜けているほどまっすぐで、兄からの思いを受け止めて、ここまでやってきて負い目すらも自分を成長させる糧にする。とてもすごい人。
「もちろん、仲良くしたいわ」
「! ……嬉しいです、レベッカ様!」
レベッカよりも年下だけれど、これは兄も惚れこむわけである。
彼が少し遠くに行ってしまったように感じて寂しいけれど、それを忘れさせるほどに彼女は熱い人物で、レベッカも彼女に合わせて会話のボルテージを上げる。
参加者は二人だけなのにとても賑やかなお茶会になったのだった。




