最終話 特務調査官 女子大生の張り込み
私は アマソラ グレイ
探偵小説好きな女子大生
大学では人類学や宇宙学をやっている
噂の喫茶店に、今日一日、張り込んでみることにした
だって気になるじゃん
ここには「宇宙人がいる」って
「あの~今日1日居たいんですけど~大丈夫だったりしますか?」
腰を低くして伺う
「ハッハッハ そんなの言う子も珍しいね 満席になる事は無いから奥の席にどうぞ」
マスターが珍しく声に出して笑う
「よし 許可は取れた」
今日は惑星配置が良いからみんな来店するはずだ
――
カウンターをチラッと見ると端にコーヒーが1つ置かれている
(これ透明人間のやつだ~)
尻尾がブンブン出そうになるのを抑えながらも、目は釘付けになる
一瞬たりとも逃すまい
そういう固い意志で調査を始める
20分ほどすると
「アメショマークの宅配便でーす」
元気な声で爽やかイケメンが入ってきた
「あっはーい いつもありがとうございます」
スバルが対応して荷物を奥の倉庫へ運ぶ
その時
ゴクッゴク
「あ~いつもありがとうございます ごちそうさまでした」
コーヒーを飲んだ配達員が去って行く
「うん?」
グレイの眉間にシワが寄る
――
10時25分
そろそろ2人目の観察対象が来るはずだ
時間能力者
何の変哲もないスーツの老人
日替わりコーヒーを選んで飲み干す
ふと姿が見えなくなった
「キタキタキタ~」
辺りを見回す
店の柱時計の影に時間能力者を見つける
小柄で太い柱の裏に居ると周りからはほとんど見えない
「ガチャガチャ カチン」
狂っていた柱時計の時刻が調整される
マスター「いつもありがとうございます」
時計店店主「こんな壊れかけ大事に使って貰ってこちらこそ」
店を出て行く
――
早歩きで魔女のような老婦人と老人男性が入って来る
「そろそろ豪雨が来るわ 間に合って良かった」
席に付いて注文するやいなや雷が鳴り出した
「ふー雨雲レーダー見といて良かった ねー言ったでしょスマホ使いなさい」
隣の男性もふーふー言いながら答える
「また転ぶ所だったよ ただでさえこの辺の歩道は毎日突っかかるんだから」
グレイ「んっっ!」
――
もう半分が終わった
「コーヒーおかわり!濃いめでっ!」
グレイがイライラしてるのか乱暴なオーダーが聞こえる
「私何かしちゃったかな~もしかしてあの子は私のミスを調査しにきたFBIとか?」
またこの街にスバルのせいで不思議が増える
――
夕暮れ時になるとヴァンパイアの血がうずく
いつも通り美少女が無言で来店し席に座った
ロイヤルミルクティーを飲みながら10分ほど
無表情で虚空を見ていたが様子がおかしい
しきりに耳元をイジっている
長髪に隠れた耳から奇妙な物体を取り外した
あれが変身装置なのか……白い文字でSOMYと書かれている
しばらくイジった後に、諦めたのかカバンの中の収納ケースにしまう
席を立ちレジに来る
「あれっ 今日は珍しく早いね」
マスターが謎の少女に声をかけた事で店内中の注目が集まる
「イヤホンのバッテリー キレテしまいました 今日はリスニングできない ザンネン」
「うん 日本語の発音良くなってると思うよ フランスに帰るまで頑張ってみて」
いつも通りニコッと笑いながら「ありがとゴザマス」と言って出ていく
「マスター ヴァンパイアさんは」
スバルがみんなが思ってる事を代弁して聞く
「あぁ 日本人とのハーフでね 大学だけ母方の日本に留学に来てるとか最初に言ってたよ」
「えー 声出さないのは?」
「イヤホン外すの面倒だろうから声掛けなくなったんだ」
スバルが初の真実を知り落胆する
スバルが知らない真実は他にも沢山あると思うけど
――
トントントン
グレイが次の対象者が来るまで机を指で叩く
周りの席の人達は絡まれないようにと、ちょっと引いてる
カランコロン
「よっしゃ 来たなガキが」
「ガキが……二人?」
グレイの目が爬虫類のようにキュッと絞られる
更には普段は来ない親まで連れて4人で来店した
「いらっしゃいませ~?」
スバルも頭に【?】を浮かべながら接客している
「模試の結果が2人とも良かったから、今日はパフェ頼んでも良いぞ~」
たまの休日なのかパパが張り切っている
「パフェとかの年齢じゃないよ カズキの方が点良かったのムカつくし」
「俺は好きだけどな カズヒサの分もパフェ2個でも良いぜ」
火曜日はカズキ 水曜日はカズヒサ
「双子で他の習い事があるから、塾は火曜水曜に1人づつ来ていただけ」
グレイはふるふる震えだす
「全部 こんなものでは無かろうな~」
最後こそは
――
閉店間際になると常連客も減り、店内が急にしんと静まり返った
「あと30分くらいで閉店なんですけど」
機嫌の悪そうなグレイに恐る恐るスバルが話しかける
ギロッ ヘビに睨まれたような鋭さで返される
「あっ……また閉店の時に声かけます」
トボトボと歩くスバルと行き違いのようにしてお客さんが来た
夜なのにサングラス
マスクと帽子を目深に被った女性が来店する
「見るからに怪しい」
「そろそろ閉店でゆっくりは出来ませんがよろしいですか?」
さきほどの退散にめげずに新規客に声掛けする
「マスター……いる? 」
マスターの女だろうか
スバルはロマンスの香りを感じて、落ち込んでいた気分が急上昇
「はい! マスタァー 美人の方ですよー!」
「美人じゃわからん」
エスプレッソマシンの掃除をしていたマスターがカウンターから顔を出す
「おっ スピカ 忙しいんじゃないのか?」
嬉しそうに作業を止めて出てきた
――
「映画見たよスパイのやつ アカデミー賞取れちゃうんじゃないか?」
「そこまでは行きませんよ マスターもおかわりなく」
グレイ(んっ?スパイだと)
「番宣でSPICAブレンド話すから、昔の常連さんみんな来て売り切れでさ また作ってよ」
「あれは失敗しただけなので同じの作れませんよ~?」
!!
「女優のSPICA!」
流行に疎いスバルでも名前は知ってる 今話題の実力派新人だ
2人だけで盛り上がって、しばらくしたら帰ってしまった
グレイが「スパイ 本物 スパイ 撃たれた」とぶつぶつ言ってるのが怖い
「マスター スピカさんと知り合いなら言って下さいよ」
「んあ? お前そういうの興味無いだろ スバルの前のバイトだよ」
納得いかないスバルがパンチしてるのを流し目に見る
「あーお客さん そろそろ閉店なんで 1日居て何か収穫はありましたか?」
スバルから逃げたマスターが直接グレイに話しかける
「うむ 無駄骨に終わるかと思ったが興味深いデータが取れた 失礼する」
出口に歩きかけた途端、椅子や机がブンブンと吹っ飛んで行く
「サイコキネシス……」
またスバルが適当な事を言っている
――
『母星へ報告──敵対宇宙人確認出来ず
ただし何かしらのスパイは居る模様』
カフェを出るとグレイが月明かりに照らされる――満月だ
グレイの後ろで尻尾のような輪郭が半透明にきらめく
ぐわっと大きな物が動いたような風が巻き起こる
羽ばたくような低い音が、夜の空気を震わせた
グレイが振り返る
カフェを見る目が青く光った
「私は撃たれるようなミスはしない」