透明人間
開店前
店のカウンターの端には、いつも必ずコーヒーが一杯置かれる
その席には誰も座っていないのに、毎日必ず出されるのだ
最初は「洗い忘れか?」と思ったこともあったが、どうも違う
そのカップの中身は、確実に減っているのだ
「また、あの席にコーヒーが置いてある……」
スバルは長期休みで久しぶりの早朝勤務
コーヒーを見つけ背筋がゾッとする
今日も変わらず、カウンターの端には無人の席があり、そこに一杯のコーヒーが置かれている
どんなに忙しくても、誰かがそこに座っている様子は一度も見たことがない
そもそも、そこには席を置いて無い
それでも、コーヒーの中身は、確実に減っている
――
常連さんと一度話題に出してみた事がある
「見えない誰かが飲んでるんじゃないか?」
常連客の一人が冗談半分に言った
「ああ、そうかもな 宇宙人が居るくらいだから幽霊も居るだろう」
別の常連が答えた
「誰も座ってないのに、コーヒーだけ減ってるんだろ」
「もしかして、今も見えない何かがいるんじゃないのか?」
その言葉に、店内の空気が一瞬ピリッと張り詰める
静かになった空間が、温度が下がったようにも感じる
ただ、あの無人の席に毎日出されるコーヒー
誰かに飲まれているのだとしても、それが誰なのか
また一日が静かに過ぎていった