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10時25分の男
10時25分
この時間になるとたまに来る男性がいる
スーツ姿にメガネをかけた小柄な老人だ
大学教授と呼ばれても不思議は無いだろう
オシャレにスーツを着こなしている
だが彼に注目するのはそこでは無い
時間だ
彼は店に来るといつも、L字カウンターの奥に隠れるように座る
そして彼が帰ると時間が進んだり遅れたりする
最初は気のせいかと思っていたが、同じ事が数回あり確信に変わった
「あれっ? もうこんな時間か」
常連客も慌てて会計する
「またあの男だ……」
常連もまた彼の異常性に気付いている
時間能力者
マスターとは仲が良いらしい
「コレ」と日替わりメニューからコーヒーを選び
コーヒーを一杯飲み、飲み終わると居なくなってしまう
会計も払わない
「ツケかな?」
――
彼が来ない間も考えてしまう
なぜ彼が居ると時間が歪むのだろう
あんな普通の老人が特別な力を持っているのだろうか
時間を操るような能力を?
店の時計をじっと見つめる
「本当に、どういうことなんだろう?」
店内は静けさを取り戻し、いつもの時間が流れ始める
だが、今日もまた、何か不思議な出来事があったような気がしてならない