ロイヤルミルクティー テレパシー
「カランコロン」
店の扉が開きドアチャイムが来客を知らせる
ちょうど夕日が窓から差し込む時間だった
白く透き通った肌 外国人のように整った顔立ち
黒めのゴスロリ服に日傘――そんな格好の彼女は、ヴァンパイアと言われても納得してしまう
彼女はいつもの席
窓辺の二人席にちょこんと座る
何も言わず、視線をカウンターに向ける
マスターは無言で頷き、冷蔵庫からミルクを取り出す
やがて、彼の手によって作られたロイヤルミルクティー
そっと彼女の前に置かれる
彼女はにこりと笑い、軽く頭を下げる
そして、音もなく飲む
外を見るでも本を読むでも無い
ただ無表情で前を見つめ、時々カップを口に運ぶ
――
彼女が来ると
つい音を出してはいけないのかとコソコソと動いてしまう
あたしは【クレナイ スバル】
ここでバイトしてる、ごく普通の女子高生だ
働き初めて数ヶ月になるが、彼女が話しているところを一度も見たことがない
最初は勇気を出して話しかけたこともあった
しかし、目も合わせず席についてしまった
今では無言接客にも慣れた
他の常連の客たちは、その様子を遠回しに気にしている
「言葉を話せない子なのかな」「もしかして外国の子?」「宇宙人説あるでしょ」と、 冗談交じりに噂しているが、誰も真相を知らない
ただ不思議なのは
最初の頃、彼女がびっしりと文字の書かれた手帳を読んでいたこと
紅茶を飲むたびに、1ページ、また1ページとめくっていく
気になってこっそり覗き込んでみたが「同じ言葉」の繰り返しが書かれていた
『死んでしまう』 『死んでしまう』 『死んでしまう』 ……
『空を飛ぶ』『空を飛ぶ』『空を飛ぶ』
それを見て恐怖してからは近づか無いようにしてる
最近は彼女が手帳を見る事もなくなり、虚空を見るようになった
逆に怖い
――
そしていつしか、店内に独特の緊張感が生まれた
「今日こそ彼女が言葉を発するのではないか」と、誰もが息を潜める
だけど今日も
無言のまま、にこりと笑って帰っていった
「あのヴァンパイア……愛想は良い」
美人なのでなんかズルい