表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/92

第90話 ゴブリンテイマー、クーデターを知る_

「っ! なんだ今のは」

「爆発? 一体どこから」


 最初の轟音のあとも、何度も小さな爆発音が聞こえる。

 だが今地下牢を出れば、見つかる可能性が高い。


「とりあえず一度大聖堂に戻ってからだ!」


 ニックスの声にハッとなった僕とエルダネスは、隠し通路に急いだ。

 隠し通路への入り口は、牢屋の並ぶ廊下の一番奥の壁に巧妙に隠されているらしい。


 しかし先行したニックスが既に壁にたどり着いているというのに、入り口が開く様子がない。


「ニックス、どうしたんだ」

「それが、どれだけやっても開かないんだよ!」

「私に代わってください」

「オッサン、任せた」

「私はオッサンでは……いや、そんな場合ではありませんね」


 ニックスに代わってエルダネスが何やら壁の隙間の何カ所かに棒を差し込み、それから壁に両手をついて押し始めた。


「むむむむむっ」


 見るからにかなりの力で押しているようだが、目前の壁には全く変化が見られなかった。

 どうやら隠し通路の入り口が開かなくなってしまったようだ。


「はぁはぁ……これはダメですね。さっきの振動で歪んでしまったのか、仕掛けが壊れたのか」

「そんな……僕はすぐに帰るんだから開けっぱなしにしとこうって言ったのに、オッサンが一応閉めておこうって言うから!」

「もし途中で見張りが帰ってきた時に、隠し通路を見られたら困るでしょう?」

「その時は見張りを倒しちまえば良かったんだよ」


 握りこぶしを作って見せつけるようにそう喚くニックスに、エルダネスは皮肉そうな笑顔を向けて答えた。


「私もあなたも、冒険者や兵士を相手にして勝てると思いますか?」

「……思わないけど」

「でしょう? 私もあなたも頭脳労働派ですからね。せめてシーブノでも王都にいれば協力を頼めたのですが」


 とにかくこんなことを牢の奥で言い合っていても埒があかない。

 それどころかいつ見張りが帰ってくるかもわからない今、あの爆発音で上が混乱してることを期待して牢を出るしかない。

 三人で話し合って結論を出した僕らは、すぐに行動を起こした。


「もう肩は貸してもらわなくてもいいですよ」

「そうかい?」

「ええ。なんとか力が戻ってきました」

「僕が聖女の力を使ったんだから、当たり前だろ」


 そんな話をしながら、僕たちはできるだけ急いで牢の出口へ向かった。

 地下牢から階段を上った先に、見張りの詰め所があった。

 だがやはりそこにも誰もいない。


「いったいここの警備はどうなってるんだ」

「たぶんティレルが操ったり仲間にしている連中の数は、思ったより多くないんじゃないかな」

「ふむ。人手不足で、死にかけの君がいるだけの牢に何人も人を割くわけにいかなかったということだね」

「はい。それと、たぶんさっきの爆発でその数少ない見張りもどこかへ行ったんだと思います」


 僕らが階段を上りきった先。

 そこには本来なら地下牢へ入るための扉が、厳重に閉められていたはずだった。

 だがよほど慌てたらしく、詰め所にいたであろう見張りが鍵もかけずに飛び出していったようだ。


「扉はちゃんと閉めておかないとだめだろうに」


 少し隙間が開いた扉を、ニックスがゆっくりと外の様子をうかがいながら押し開く。


「本当に誰もいないぞ」

「それは僥倖」


 僕たちは一気に地下牢の扉から外に出ると、ちゃんと扉を閉めてから薄暗い廊下を進んでいく。

 道順は王城に何度も来ている上に、設計図を知っているエルダネスが迷いなく指し示す。


 途中、何度か慌てて走って行く兵士をやり過ごしながら彼らの会話を盗み聞きした。

 おかげで外で今何が起こっているかを、わずかではあるが把握することができた。


「暴動なんて嘘だろ」

「王都の何カ所かで同時に爆弾テロ……なるほど、あの爆発音はそれでしたか」

「僕が王都に来てから色々な所を廻ったけど、暴動が起きそうな気配なんて全然なかったですよ」


 ギルドに寄った時も、不穏な話は聞いてない。

 いや、心当たりはある。


 アナザーギルドとティレルだ。


 奴らならこんな騒ぎを起こすことは可能だ。

 でもどうして今、そんな騒ぎを王都で起こすのか。


「隠れて!」


 エルダネスの小さな声に、僕たちは身を潜める。

 直後、兵士の一団が武装をしてどこかへ走り去っていく。


「どうやら暴動を鎮圧しに出撃したようですね」

「王城を守る兵がですか?」

「ええ、普通はあり得ないことですが……まさか、彼らの狙いは」


 エルダ-ネスは立ち上がると物陰から飛び出し、走り出す。

 慌てて僕とニックスも彼を追う。


「まさかティレルの狙いって、この王城を制圧することですか?」


 走りながら思いついたことを口にした僕に、エルダネスは振り返らずに答えた。


「そうです。そしてこの騒ぎが落ち着く前に王家の人々を捕らえるか殺すかして、この国を乗っ取るつもりかもしれません」

「殺す……じゃあシャリスが危ないってことですか!」

「たぶん彼女は殺されるにしても最後か、若しくは傀儡の王にされる可能性もあります」

「どうしてだよ」

「彼女は私と同じく、ティレルによって【洗脳】されているからですよ」


 エルダネスの話をまとめるとこういうことになる。

 他の王族をクーデター派に殺害されたことにして表舞台から消し去り、クーデターを鎮圧したことにして生き残ったシャリスを傀儡にして、ティレルの協力者がこの国を手中にするという計画だろうと。


 では誰がその新しい国を治めるのか。

 それは宰相を始めとする一部の上位貴族だ。


 エルダネスが受け取ったタバレ大佐の手紙には、最近怪しい動きをしている王国の宰相や上位貴族のことが書かれていたという。

 タバレ大佐はクーデターの可能性をエイルから話を聞いて考えた。

 そしてその不安が現実にならないように、エルダネスに調査と対処をしてくれるようにと手紙には書いてあったという。


「こんなに早く動くとは思わず、結局間に合いませんでしたが。私にもっと力があればと、これほど思ったことはありませんよっ」


 エルダネスは王城の長い廊下を走りながら、彼にしては珍しく悔しそうにそう吐き捨てたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ