第8話 ゴブリンテイマー、驚かす_
「大体、百二十匹ほどのゴブリンを使役している」とこともなげに告げた僕の言葉に、ギルドマスターはまるで信じられないものでも見たかのように大きく目を見開いた。
「ひゃ、百二十匹だと……? に、二十匹の間違いとかではなくてか?」
「いえ、ちゃんと数えたわけじゃないんですが……。この街に入る直前に一度数えた時には、確実に百匹は超えていましたから」
街道から少し外れた人目のつかない場所で、ゴブハルトとゴブリーナに手伝わせ全員を整列させて数えてみたのだ。
といっても途中で面倒くさくなって、大雑把に数えるだけになってしまったけど。
「しかし……いくらゴブリンとはいえ、それだけの数を使役しているテイマーなど聞いたこともないぞ」
「そうなんですか? スライムとかホーンラビットとか、ああいう魔物ならもっとたくさんの数をテイムできるんじゃないですか?」
ゴブリンよりは強いとはいえ、スライムの魔力消費量がゴブリンとそれほど大きく異なるとも思えない。
田舎育ちで専門的な知識など持ち合わせていない僕の、あくまでも憶測に過ぎないのだが、そう的外れな考えでもないはずだ。
「いや、それでも百匹以上も同時にテイムしている奴など聞いたことがない。そもそもそこまでできるような奴は、とっくにもっと上位の魔物に乗り換えているものだからな」
「上位の魔物……ですか」
そうだった。
僕の持つ【ゴブリンテイマー】のような特殊なスキルとは違い、通常の【テイマー】スキルを持つ冒険者は、自身の成長に合わせてより強力な魔物へと乗り換えていくのが普通なのだ。
もちろん強力な魔物だけでなくスライムのような雑用に使役できる魔物や、スカルバットのような偵察に役立つ魔物も同時に使役している場合が多いのだが。
しかし僕のように弱い魔物だけを大量に使役している冒険者など、普通に考えれば存在するはずもないのだろう。
「……失言だった。すまん」
「何がです?」
「お前がゴブリンしかテイムできないということを、すっかり失念していた」
「いえ、もう気にしてませんよ。昔はグリフォンとかドラゴンとか、そういうカッコいい魔物をテイムできたらなんて思ってましたけど、今はもうそんなことはどうでもよくなりましたし」
「そうか。それならいいのだが……」
ギルドマスターは少しバツが悪そうな表情を浮かべそう答えると、しばらくの間出されたお茶をすすったり、茶菓子に手を伸ばしたりしていた。
が、やがて話を続けるために口を開いた。
「しかしそれだけの数の魔物を使役できるというのは、やはりその【ゴブリンテイマー】というスキルの特性なのか?」
「普通の【テイマー】スキルではあり得ないというのであれば、たぶんそうなんだと思います。他のテイマーさんに会ったこともなかったので、今まで不思議に思ったこともありませんでした」
「なるほどな……。ところでお前さんは、【テイマー】スキルについて実際どれくらいの知識を持っているのだ?」
どれくらいと言われても、具体的にどう答えればいいのか僕にはわからなかった。
ただ【テイマー】スキルというのは、魔物をテイムし使役できるスキルである、ということくらいだろうか。
あとは巡回神官様から教わった【テイマー】の基本的なテイム方法、テイムによる魔力消費の説明、そして魔物の寿命変化についてくらいだと思う。
「他にはテイマーバッグの使い方、くらいですかね」
「そうか……ううむ」
「どうかされましたか?」
「いや、その巡回神官は、お前さんのその【特殊スキル】については何も言っておらんかったのかと思ってな」
「そうですね……。神官様もご多忙だったようで、すぐに次の村へ向かうとおっしゃって、あまり長くお話しする時間もありませんでしたし」
神官様にスキルを調べてもらった後、村の同年代の子供たちからは「使えないスキルだ」と馬鹿にされ、大人たちも僕に失望したのかほとんど構ってくれなくなった。
そんな中で神官様だけは、僕のスキルを頭ごなしに否定したりはしなかった。
「ただ、最後にこうおっしゃっていました」
「ほう?」
「スキルというのは女神様が与えてくださったもの。外れスキルなどというものは存在しない。あなたのそのスキルも、必ず何かの役に立つはずだ……と」
あの言葉がなければ、僕はとっくの昔にスキルを使うことを諦めてしまっていたかもしれない。
ギルドマスターとルーリさんは僕の話を急かすことなく、じっくりと聞いてくれた。
村を追い出された後、ゴブハルトとゴブリーナの二匹と出会い、森の中でしばらくの間共に暮らしていたこと。
気がつけばゴブハルトとゴブリーナの間に、十匹以上もの子ゴブリンが生まれていたこと。
慌てて全員をテイムしたこと。
その日から数日間は、魔力切れで倒れてばかりいたこと。
「そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか百匹以上になっちゃってたんですよね」
もちろん今ではゴブリンたちには、無闇に繁殖しないようきちんと命じてある。
それを思いついたのがかなり後になってからだったため、ここまでの数になってしまったのだが。
「なっちゃってた、って……お前、そんな軽く言うがな……」
「そうですよ。普通、そんな数の魔物を一度に使役するなんて魔力切れで死んでしまいますわ」
ルーリさんは心底心配そうな表情でそう口にする。
だが今の僕はもう魔力切れを起こすようなことはない。
ゴブリンたちが爆発的に増え続けていた間はかなり大変だった記憶があるが、それでも数日もすれば落ち着いたのだ。
「聞けば聞くほど、不思議な話だな……」
腕組みをしたまま僕の話を聞いていたギルドマスターは、突然何かを思いついたようにポンと手を打つと、こう言った。
「お前さんさえ良ければだが……ギルドの魔道具を使って、お前さんのスキルを『鑑定』させてはくれんか?」
「鑑定、ですか?」
「ああ。まあ完璧に全てがわかるというわけではないのだが……もしかしたらお前さんのそのスキルの謎が、少しは解明できるかもしれん」
鑑定か。
村で神官様にスキルの鑑定をしてもらって以来、一度もしたことはなかったな。
「どうだ? スキルというものは使い方次第で能力が変化することもあるとも聞くぞ。まあギルドマスターをやっているこのわしですら、実際にそういう奴を見たことはないのだがな」
スキルが変化する――というより成長すると考えた方がいいのかもしれないな。
そう呟くギルドマスターの言葉を聞いて、僕は自分のスキルがもしかするとあの頃よりも成長しているかもしれないということに興味が出た。
それに自分の力を正確に知っておくことは、これからの冒険者生活にとって大事なことにも思った僕は――
「それじゃあ、お願いします」
ギルドマスターに軽く頭を下げてそう答えたのだった。