表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/92

第77話 ゴブリンテイマー、王女に命令される

「王女……」

「ええそうよ。驚いたかしら?」

「それじゃああなた様を追いかけていたあの男たちは、まさか……」


 王都の中で王女を襲うような連中だ。

 暗殺者?

 誘拐犯?

 どちらにしても、まともではないだろう。


「護衛よ」

「は? 今なんて?」


 彼女の答えは全く予想外のもので、思わず問い返してしまう。


「だからあの二人は私の護衛なの。というか本当は他にも十人くらい、今頃は王都を探し回ってるはずよ」

「ちょ、ちょっと待ってください。どうして王女様が護衛から逃げてたんですか!」

「そんなの、私が逃げたかったからよ」


 あっけらかんとそう告げるシャリスの顔を、僕はかなり間の抜けた顔で見ていたのだろう。

 彼女はわずかに吹き出すと、声を抑えて笑い出した。

 だけど、それがいけなかったのだろう。


「痛っ」


 体を動かした途端に足首がまた痛んだようで、シャリスは小さく悲鳴を上げた。


「今、治しますね」


 彼女と追っ手の正体がわかった今、彼女の足首を治すことに躊躇する理由はなくなった。

 それどころか一国の王女様に、たとえ相手が悪い状況だったとしても怪我をさせたのだ。

 もしそれが知られたら、ただでは済まない。

 幸い、僕は逃げたがっていた彼女の望みを叶えたことになっている。

 なのでちゃんと怪我を治してあげれば、ひどいことにはならないはずだ。


「ゴホマ。出てきて」


 ゴホマはテイマーバックの中で暮らすゴブリンたちの中でも、特に回復魔法が得意なゴブリンだ。


『ゴ?』

「今すぐ姫様の足の怪我を治してくれないか。いや、体中他にかすり傷でもあれば、それも全て治してくれ」

『ゴブゴブ』


 ゴホマの手がシャリスの足首に添えられる。

 その手がうっすらと緑色の光に包まれたかと思うと、その光はあっという間にシャリスの体全体を包み込んだ。


「何これ」

「ゴホマの回復魔法です。でも前に見た時より緑が濃くなってる気が――」


 辺境での戦いの時、ゴホマも回復役として戦場に出ていた。

 だけどその時はもっと薄い緑だったはずだ。


『ゴブ』

「鍛えてますから……って、バッグの中で?」

『ゴブゴブ』


 そうしている内に、見るからに腫れていたシャリスの足首がどんどん元の細さに戻り、炎症で赤くなっていた肌の色も収まっていく。

 前に戦場で見た時はここまで早く回復するような力は持ってなかったはず。

 なので、ゴホマが特訓して力を上げたのは本当なのだろう。


「痛くなくなったわ。ありがとう、ゴホマちゃん」

『ゴブー』

「どういたしまして、とか言ってますね」

「私も魔物の言葉がわかるといいんだけど。テイマーさんって魔物の言葉がわかるんでしょう? いいなぁ」


 心底うらやましそうにそう言いながらゴホマの頭を撫でるシャリスに、僕は苦笑を浮かべつつ答える。


「言葉がわかるというか、伝わってくるという感じですね。ですけど自分がテイムした魔物としか、大抵は意思疎通はできませんけど」

「そうなの?」

「ええ。まぁごく稀に、上位の力を持つ進化した魔物はテイマー以外の人とも意思疎通できるらしいのですが」

「会ってみたいわ」

「そのレベルになると、たぶん普通に近寄るだけで殺されちゃいますよ」


 その答えに彼女は「話してみたいけど、死ぬのは嫌だわ」と身を震わせた。


「それで姫様」

「なにかしら?」

「これからどうするおつもりですか?」

「どうするって……そうね」


 シャリスはわずかの間考えた後、僕を指さして口を開く。


「そういえばあなたの名前をまだ聞いてなかったわ」

「僕ですか? 僕の名前はエイルって言います」

「エイル……エイルね。覚えたわ」


 しまった。

 このまま名前を伏せて彼女を護衛に渡して逃げた方が、良かったのではなかろうか。

 でもそれで彼女の機嫌を損ねて、王女に怪我を負わせた罪人として指名手配されるのも怖い。


 そんなことを考えている間に、どうやらシャリスはこれからの行動を決めたらしい。


「酒場とやらに行ってみたいわ」

「そんな所、お姫様が行く場所じゃないですよ」


 特に夜の酒場は酔っ払いか、気性の荒い男しかいない場所だ。

 そんな所に彼女のような美しい女性を連れて行けばどうなるかは明白で。


「もう少し違う場所に――」


 僕はなんとか彼女に別の安全な場所を勧めようと、口を開きかけた。


「連れてってくれるわよね? 私を傷物にしたエイルくん」


 だが続く彼女のそんな言葉に、僕は一瞬で口を閉じざるを得なかったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ