表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/92

第75話 ゴブリンテイマー、謎の女性と衝突する

「ストップ! ストーップ!!」


 部屋一杯に埋まったゴブリンたちを見て、エルダネスが叫んだ。

 すでに床は全く見えなくなっていて、大きなゴブリンが小型のゴブリンを肩車し始めているような状況であった。


「まだいるのかい?」

「えっと……まだ五十人くらいいるみたいですね」

「マジで?」


 呆れたような声のエルダネスに、僕は頷いて答える。


「正直言えば、僕もこんなにゴブリンたちが増えているなんて思わなかったんですよ」

「キミはテイマーなのに、テイムしてる魔物の管理とかしてないのかね」

「してませんでした……」


 ゴブハルトに事情を尋ねると、どうやら先日の辺境での戦いの後、ゴブリンたちは一気に子供を作りだしたのだそうだ。

 それというのも、あの時死者は出なかったもののかなりの数のゴブリンが大きな怪我を負った。

 そのせいで種族として、種の保存本能が猛烈に刺激されたらしい。


 本来なら人間の子供より弱いゴブリンたちは、子供をたくさん作ることで種を絶やさずに生きてきたわけで。

 ゴブリンテイマーである僕のスキルのおかげで強くなったといっても、すぐにその本能が消えるわけではない。


 早くそのことに気づいていれば、マスターである僕の命令で子作りを制限することができたのだけど。


『ゴブブ』

「いや、謝らなくていいよ。特に報告してなんて言ってなかったしね」


 報告しなかったことを反省してしょんぼりするゴブハルトに、僕は慰めの言葉を返して次にエルダネスに声をかける。


「それでどうします?」

「これ以上はさすがにこの部屋でも危険そうだし、君の実力は大体わかったから、もう戻してもらっていいよ」

「わかりました。みんな、戻って! あと、これ以上子供は作らないでね」

『『『『ゴブー』』』』


 ゴブリンたちは返事をすると、次々に僕のテイマーバッグに吸い込まれるように帰って行く。

 さすがに二百以上ものゴブリンが戻りきるまでには、それなりの時間がかかる。


『ゴブッ?』

「ん? 僕一人でも大丈夫だから、安心して帰っていいよ」


 最後に残ったゴブハルトが、護衛に残らなくてもいいかと聞いてきた。

 だけどこの図書館にいる限りはエルダネスの様子を見る限り、危険はなさそうなのでゴブハルトにも帰ってもらうことにした。


「あ、ちょっと待ってくれたまえ」

「何でしょう?」

「そのゴブリンだけ、他のゴブリンと少し違うように見えるんだけど」

「ああ、そうですね。彼はゴブハルトといって、僕が一番最初に家族にしたゴブリンなんですよ」


 エルダネスはその答えを聞くと「ほう。興味深いね」とゴブハルトに近寄ると、その体をペタペタと触りだす。


「やはり体から感じる魔力も、普通のゴブリンとは桁違いだね」

「わかるんですか?」

「ああ。僕は魔力の流れとか動きがわかるのでね」


 どうやらエルダネスのスキルらしい。


「もう少し調べさせてもらっていいかい?」

『ゴブブブ』

「あまりペタペタ触らないで欲しいって、言ってますけど」

「たしかに。初対面の男に体なんて触られたくないだろうしね。わかった、もう触らない」


 エルダネスは両手を挙げて、少しゴブハルトから離れる。


「それじゃあ一旦元の部屋に戻って、君から話を聞かせてもらっていいかい?」

「それならかまいませんが。ゴブハルトはもう戻しても?」

「本当はもう少し調べさせてもらいたかったけど、本人が嫌がるなら無理にとは言えないしね」


 その答えを聞いて僕はゴブハルトをテイマーバックに戻すと、エルダネスと共に図書館の閲覧室に戻った。

 それからしばらくの間エルダネスからの質問攻めに遭い、フラフラした頭で図書館を出ると、外はもう夕方になっていた。


「思った以上に時間つかっちゃったな。もう今日は他の所に行く時間はないし、帰ろう」


 夕闇に沈む町の中、僕は来た道を戻ろうと図書館の前の道を歩く。

 貴族院の横の道は、この時間になるとほとんど人も歩いておらず、夜の照明も大通りに比べて少なく薄暗い。


「新しい図書館の方は明るいんだろうなぁ。せっかくだし、明日行ってみようかな」


 人通りの少なさに少し不安になった僕は、独り言でそれを誤魔化しながら歩く。

 そして大通りまであと少しの所まで来た時である。


「ど、どいてーっ!」


 そんな声と共に、一人の人が突然脇道から飛び出してきた。


 反射的に避けようと体をひねるが、完全に避けきれず肩と肩がぶつかる。


「うわっ」


 僕の方は思わずよろけたが、ぎりぎり転ばずに踏ん張ることができた。

 が、相手の方は僕より体重が軽かったのだろう、当たった肩を支点にくるりと体が回転すると、そのまま道路に勢いよく倒れてしまう。


「きゃあっ」


 その人物の口から漏れた悲鳴は若い女性のもので。

 僕は地面に転がった彼女に、手を差し伸べたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ