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第74話 ゴブリンテイマー、真の隠し部屋に転移する

「冗談にしても度が過ぎてますよ!」

「ん? 別に冗談のつもりはなかったんだけどな」

「余計にたちが悪いっ」


 憤る僕に、先ほどと変わらず平然としたエルダネスは「そんなことよりも」と告げると、最初に座っていた椅子と机を部屋の片隅に片付け始める。

 いったい今度は何をするのかと僕が警戒していると、部屋の端にすべて運び終えたエルダネスが、その机が置いてあった場所に立つと僕を手招きした。


「なんですか? また危ないことするんじゃないでしょうね?」

「心外だな。僕がそんなことをする風に見えるのかい?」

「今さっき。ついさっきやりましたよね!」

「あれは偽の隠し部屋の危険性を教えてあげただけじゃないか」

「危うくその危険に巻き込まれるところでしたけど?」


 僕は慎重に彼に近づく。

 そして彼から一歩離れた場所で足を止めると「来ましたけど。何があるんです?」と尋ねた。


「何って。本当の隠し部屋にだよ」

「本当の?」

「ああ。魔道具師が作った、本当の隠し部屋だよ」


 エルダネスはそう言うと、先ほど偽の隠し部屋を開いた鍵を取り出して顔の前で揺らす。


「それって偽の部屋の鍵ですよね?」

「そうだよ。でも本物の隠し部屋の鍵でもあるんだ。真偽両方の鍵ってのも面白いよね」


 エルダネスは小さく笑うと、その鍵を『何もない空間』に突き刺すような仕草をしてひねった。


「えっ」

「ようこそエイルくん。魔道具師の隠し部屋へ」


 一瞬だった。

 なんの前触れもなく、体にも何も感じなかった。

 だけど僕の周りの風景だけが、エルダネスが鍵をひねった瞬間に変わったのである。


 目の前に広がるのは長方形の広い空間だ。

 家が二軒くらい軽く建つ広さがある。

 天井も同じく二階建ての建物くらいの高さはありそうだった。


 部屋の中には、大きさもバラバラな物置きらしき四角い箱が無造作に置かれている。

 僕でも抱えられそうな小さなものもあれば、僕の背丈の二倍はありそうな高さの大きなものもある。

 あの中に魔道具が入っているのは、間違いないだろう。


「転移魔法ですか?」

「どうなんだろうね。魔道具師の魔道具については、私にもわからないことが多くてね」


 エルダネスが言うには、一般的な転移魔法であれば転移させられる対象者の周りに魔力の渦のようなものが生まれるらしい。

 だけどこの隠し部屋への転移には、それが一切起こらないというのだ。


「そもそもここが『どこにあるのか』すら、まだ解明できてないんだ」

「図書館の地下とかじゃないんですか?」

「うーん、どうだろう。前に現在地が確認できる市販されていた魔道具を持ってここに来たことがあるんだけど、その魔道具でも位置が全くわからなかったんだ」


 謎の天才魔道具職人の技術について、エルダネスはずっと調べているのだという。

 いや、この図書館の歴代館長はずっとその研究をしてきたらしい。


「そもそもこの旧図書館の館長って、この部屋の中の魔導具を本気で研究したいと願った人だけが選ばれるんだ」


 しかも選ぶのは前館長でも国の偉いさんでもなく、この旧図書館全体を管理している魔導具だという。

 魔導具師が残した言葉によれば、それを無視してこの建物を壊したり、この図書館を奪うために選ばれた館長に危害を加えるなどした場合は、図書館ごとこの世界から消えるとのこと。

 旧図書館が当時の古い姿のままで立て直されない理由が、そこにあるらしい。


「そうなんですか……って、エルダネスさんって館長だったんですか!?」

「言わなかったっけ?」

「ただの職員だと思ってました」

「シーブノからも聞いてなかったのか」

「シーブノ? ああ、タバレ大佐ですか。聞いてませんね」


 僕の言葉に「まったくあいつは、いつも必要なことをきちんと伝えないな」とぼやきながら、エルダネスは部屋の中を手で指し示す。


「とりあえずだ。その館長だけが使えるのがこの隠し部屋ってわけだ」


 そしてエルダネスは僕の方に向き直ると、続けてこう言った。


「さて、それじゃあ君のゴブリンたち全員をこの部屋に呼び出してもらえるかな?」


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