第71話 ゴブリンテイマー、スキルを見せるよう促される_
「これは……面白いねぇ」
タバレ大佐からの手紙を一通り読んだ後、エルダネスは眼鏡の奥の瞳にいたずらっ子のような色を浮かべ、にやりと笑ってそう言った。
つい先ほどまでの真面目で堅物そうな司書の顔は、仮面だったのだろうか。
彼から感じる気配が完全に一変していた。
「ここに書かれていることは本当なのかい?」
「と言いますと?」
「アナザーギルドのこととか、ティレルという謎の男の暗躍とか――君が珍しいスキル持ちだということとか」
エルダネスはそう答えながら手にした手紙を指先でつまみ、ゆらゆらと揺らす。
あの手紙は僕がタバレ大佐に伝えられる限りの情報を伝え終わった後に、彼がしたためたものだ。
たぶんそこには僕が話した内容がまとめられていたに違いない。
「ええ、まぁ。たしかに珍しいと言えば珍しいみたいですね」
「いや、謙遜――というわけじゃないのだろうけど、この手紙に書かれていることが本当だとすれば、僕が知る限り君のスキルはユニークスキルってやつじゃないかな」
「ユニークですか?」
「ああ、僕も数例しか聞いたことがないけどね」
ユニークスキルというのは、一般的に世に知られる数多のスキルの中で、二つと同じものがないスキルのことらしい。
大体は僕の『ゴブリンテイマー』のように『一般的なスキルの亜種』として現れる。
僕と同じテイマースキルのユニーク持ちは、エルダネスの知る限りは過去に数人。
そしてそのうちの一人が――
「私が実際に会ったことがあるのは、オックスという『ワイバーンテイマー』だけだがね」
「オックスさんって、あのタスカ領で殺された……」
「それもこの手紙に書かれていたが、残念だ。彼は素晴らしい人物だったというのに」
エルダネスの話を聞いて、僕は一つだけ謎が解けた。
そう、あのワイバーン亜種であるケルシードのことだ。
いくらオックスがケルシードたちを家族のように扱い、様々な冒険をくぐり抜けて経験を積んできたにしても、ケルシードのようなドラゴンに匹敵するほどのワイバーンが生まれるのはおかしいと、ルーリさんも看病に来てくれた時に言っていた。
田舎暮らしでほとんどそういった知識がなかった僕は、その時初めてケルシードのようにテイムされた魔物があれほど強力に進化するのは異常なことだと知った。
つまり僕のゴブリンたちのように様々な進化をするのは、普通ではないということだ。
「それじゃあ早速だけど、いいかな?」
「えっ?」
「何を驚いているんだね。話の流れからわかるだろ」
エルダネスは手紙を振りながら、少し不満そうな顔をする。
そして手紙を持っていない方の手で僕を指さして言った。
「君のユニークスキルを見せてくれってことさ」