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第6話 ゴブリンテイマー、反撃する

「どう? いくら最弱のゴブリンでも、これだけの数を相手に貴方たちは勝てるかな?」


 テイマーバッグから姿を現したゴブリンたちは、ゴブハルトやゴブリーナに比べると小柄ではあったが、その数は優に百匹を超えていた。

 僕自身、テイマーバッグの中にどれほどのゴブリンが棲んでいるのか、正確な数は把握していなかった。


「そんな……テイマーがテイムできる魔物の数は二匹が限界のはずだ……」

「うん。普通のテイマーならそうだね。でも僕は【ゴブリンテイマー】なんだ」

「それがどうした……」

「僕も初めて知った時はびっくりしたけどね。どうやら僕のスキルは、最弱種のゴブリンに特化してる代わりにテイム数の制限が無いみたいなんだよね」


 僕が言葉を交わしている間にも、男たちの周囲を大量のゴブリンが取り囲んでいく。

 一匹一匹は子供よりも非力な存在。

 だが、その数が束になれば脅威となることは明白だった。


「だからギルドでも言ってたでしょ? 【特殊スキル】だってね。さて、君たち、降参してくれないかな?」


 ゴブリンの群れに包囲された男たちに、僕は降伏を促す。

 しかし、その言葉は男たちの闘争心を煽る結果にしかならなかった。


「降参だと? 降参してどうなるってんだ……」


「そうだ。ここで降参した所で、ギルドに突き出されれば良くて一生強制労働、悪くすれば死刑になっちまう……」


「いくら数が多くても所詮はゴブリンだ。全員で掛かれば逃げ出すくらいは出来るはず……」


「行くぞお前ら! こいつら全員ぶっ殺す気で闘え!」


 事態は思わぬ方向へと転がり始めた。

 このまま戦闘になれば、ゴブリンたちが敗北することは考えにくい。

 しかし、少なからず被害は出てしまうかもしれない。


 わざと隙を見せて逃げる機会を与えたほうがいいかな――


 僕がそう考えた矢先、男たちの前に一匹のゴブリンが躍り出た。

 二本のショートソードを携えた、ゴブハルトの姿だった。


「ゴブハルト!?」


 たった一人で男たちに立ち向かっていったゴブハルトは、僕が最も信頼を置くゴブリンだった。

 他のゴブリンよりも一回り大きな体躯からは、凄まじい殺気が立ち上っている。


『ゴブゥ……ゴブゥ……』


 ゴブリーナが狙撃されたことが、ゴブハルトの怒りに火をつけたのだ。

 逃がすくらいならここで全員を叩き斬る。

 ゴブハルトのそんな決意が、僕の心に響いてきた。


「……これは、僕には止められそうに無いね」


 僕は呟くと、ゴブリンたちにゴブハルトを中心とした攻撃陣形をとるよう指示を出す。


「へへっ、いっちょ前に二刀流とか。ゴブリンのくせによ。今度こそ死んじまいな!」

「うぉぉぉぉっ!」

「死ねやあああああああぁぁぁ!」

「撃て!」

「おらぁぁぁ!!」


 弓を構えた男が矢を放つと、他の男たちも一斉に武器を振りかざしゴブハルトへと襲いかかる。

 ゴブハルトは先ほどは見事に矢を弾き返したが、さすがに複数の攻撃を同時に捌くことは不可能に思われた。


 ゴウッ!!


 次の瞬間、ゴブハルトの後方から人の頭ほどの大きさの火球が放たれた。

 男の放った矢は一瞬で燃え尽き、スリングショットの弾は溶けてしまう。

 他の男たちは火球を目にした途端武器を引き、後ろへと飛び退いた。


「あいつら全員ゴブハルトに気を取られていて助かったよ」


 僕は密かに合図を送っていたゴブリーナに「よくやった」と称賛の言葉を贈る。


「な、なんだ、あいつは……」

「確かに、殺したはずだろ……」

「いや、それもそうだが、ゴブリンだぞ。どうしてゴブリンが――」


 どうして魔法を使えるのか、って?

 確かに、最弱種ゴブリンが魔法を使えるわけがない。

 普通のゴブリンは簡単な魔法すら使うことができない――というのが、この世界の常識だ。


 そう。この二匹のゴブリンが『普通のゴブリン』だったなら、だ。


「ゴブハルト、ゴブリーナ。それと、お前たち。そいつらは殺さないで捕まえてね」


 二匹と、男たちを包囲したゴブリンたちにそう声を掛けると、僕は休憩所の椅子に座り戦況を見守ることにした。

 僕と男たちの間には、ゴブハルトとゴブリーナ、そして何匹ものゴブリンが壁のように立ちはだかっている。

 先ほどの戦闘を見る限り、男たちがゴブリンたちに勝てる見込みはほとんどないように思われた。


「さてと……」


 僕は男たちの前に立ちはだかるゴブハルトに意識を集中させる。

【テイマー】は自らが使役する魔物の簡易的なステータスを確認することができるのだ。

 ゴブハルトの体力や魔力が低下しているようなら、回復させなければならない。


「回復は……必要なさそうだね」


 僕の脳裏にゴブハルトのステータスが浮かび上がった。


 *********


 名前 :ゴブハルト

 種族 :ハイゴブリン

 クラス:ゴブリンウォーリアー

 体力 :98/110

 魔力 :10/24


 *********


 ゴブハルトのクラスは『ゴブリンウォーリアー』。

 そして種族は『ハイゴブリン』と表示されている。

 ゴブハルトはただのゴブリンではなく、進化したゴブリンだったのだ。

 魔力が減っているのは、ゴブハルトが身体強化魔法を発動しているせいだろう。


「ゴブハルトが使えるのは、身体強化魔法だけだけどね」


 ゴブリンは、進化することにより魔法を使えるようになる。

 これは他の種族でも同様だが、ゴブリンが進化する事例は前代未聞だった。

 なぜなら、自然界にいるゴブリンは進化する前に命を落とすのが常だからである。


 続いて、もう一匹のゴブリーナのステータスも確認する。


 *********


 名前 :ゴブリーナ

 種族 :ハイゴブリン

 クラス:ゴブリンメイジ

 体力 :28/64

 魔力 :110/128


 *********


 ゴブリーナもまた、『ハイゴブリン』であり『ゴブリンメイジ』に進化していた。

 名前の通り、魔法を主とするクラスである。


 通常、【テイマー】がテイムした魔物は、エネルギー源を【テイマー】の魔力に依存するようになる。

 そしてそれに伴い、自然界での状態から微妙に変化するのだ。


 例えば、人間にテイムされたドラゴンは、本来の無限に近い寿命が大幅に縮まるという研究結果がある。

 逆に、本来は短い寿命しか持たないスライムやホーンラビットなどの小型魔獣の寿命は【テイマー】と同じ程度まで伸びるらしい。


 つまりテイムされたゴブリンたちの寿命は、本来の数ヶ月から数十年へと飛躍的に伸びている、ということになる。


 しかし寿命が伸びたとしても、テイムしたばかりのゴブリンの弱さは変わらない。

 しかも、ゴブリンが進化するまでにかかる時間は、スライムの何倍もかかるのだ。

 そのため【テイマー】スキルを得た者は、誰もゴブリンには見向きもしなかった。


「僕だけは、それができなかったんだよな」


 僕が得たスキルは、ゴブリンしかテイムできない【ゴブリンテイマー】だった。

 他の【テイム】能力を持つ者たちが、強力な生物や便利な力を持つ魔物へと乗り換えていく中で、僕だけがゴブリンを根気強く育て続けるしかなかったのだ。


「結果的には、そのおかげで僕はゴブリンたちの本当の力を知ることができたんだよね。今では女神様に感謝してるくらいだよ」


 もちろん、このスキルを授かった当初は女神様を恨んだこともあった。


「えっと……ゴブリーナの体力をそろそろなんとかしてあげないとね」


 最初の矢で受けた傷のせいで、ゴブリーナの体力がかなり削られている。

 だが、最初の攻撃で死んでいないことは、ステータスを見ることができる僕には分かっていた。

 敵の位置が分からない状態で動くのは危険だと判断し、僕はゴブリーナに死んだふりをするよう念波で伝えていたのだ。


 しかし、ゴブリーナが怪我をしていて、今も体力が徐々に削られていっているのは事実だ。

【テイマー】スキルを使えば、体力を回復させることも可能だ。

 だけど今はそれよりも早く男たちとの戦いに決着をつけ、その後でテイマーバッグの中で治療する方が効率的だろう。


「一気に決めるよ」


 僕は体内に残っている魔力を利用して、二匹に補助魔法をかけた。

 使役した魔物に対してだけ発動できる補助魔法は、【テイマー】スキルの一つだ。

 ゴブリンたちはその効果が現れると同時に動き出した。

 未だに状況を理解できていない、近接戦闘を仕掛けてきた三人の男たちに向けて、ゴブハルトが駆ける。


「なっ! 早――」


 ゴブハルトは、ナイフを持った男の懐に飛び込むと右手のショートソードで、男の腕を切り払った。

 それを見て我に返った長剣使いが慌てて剣先を持ち上げようとするが、ゴブハルトの速度の方が勝っていた。


「ごぎゃああ!」


 あっという間に二人を戦闘不能にすると、残った斧使いが背を向けて逃げ出そうとした。

 だが、周囲を囲んでいたゴブリンたちが男の前に立ちはだかり、行く手を阻む。


「どけぇ! このゴブリンどもがぁ!! ぐぎゃああああああああああっ!!」


 ゴブリンたちの壁に阻まれ立ち往生した男に、ゴブハルトが背後から近づき、足を切りつけて動きを封じた。


 一方、ゴブリーナは得意の火魔法で二人の男の武器である弓とスリングショットを燃やしていた。


「ぬぅぅっ!? 熱っ!!」

「俺の弓がぁ! 手がぁ!!」


 武器を失った二人は、最初に見た下卑た笑い顔はどこへやら、今にも死にそうな表情でその場にへたり込んだ。

 どうやら失禁してしまったようで、尻から水が滲み出ているのが見えた。


 男たち全員が完全に戦意を喪失したのを確認すると、僕は肩掛け鞄からロープを取り出し、ゴブリンたちに手渡した。


「こいつら全員、逃げ出さないようにきっちり縛っておいて。後でギルドに突き出すから、殺しちゃダメだよ」


『ゴブ!』


「それと、ゴブハルト以外のみんなは、作業が終わったらテイマーバッグに戻って良いよ。後は僕とゴブハルトだけで大丈夫だからね」


『ゴビ!』

『ゴブゴブ』


 ゴブリンたちが作業を終え、テイマーバッグに戻ったのを確認した後、僕は魔力をテイマーバッグに流し込むように意識を切り替えた。

 これで街に帰る頃には、ゴブリーナも、他のゴブリンたちも、体力は回復しているだろう。


「さてと。後は、こいつらを連行するだけ、かな」


 ギルドに登録して初めての仕事に予想外の荷物ができてしまった。

 だけどこの男たちはかなりの『余罪』もありそうだし、ギルドに連行すれば、きっと、報酬もたくさんもらえるに違いない。


「でも、その前に……」


 僕は、ロープの縛り目を確認すると、立ち上がり、道の先に目を向けた。

 辺りには、微かに焦げ臭い匂いと、土埃が混じった風が吹いている。

 遠くで何かが爆ぜるような音が、微かに聞こえた気がした。


「ルーリさんが選んでくれた初依頼だけは、きっちりとこなしておかないとね」

『ゴブゥ』


 肩掛け鞄から取り出した地図をもう一度確認すると、僕は歩き出した。

 子供でも倒せると馬鹿にされるゴブリンと共に、子供でもこなせる簡単な薬草採集の依頼をクリアするために。

 空は、いつの間にか夕焼け色に染まり始めていた。


「ルーリさん、褒めてくれるかなぁ……」


 この時、笑顔で自分を褒めてくれるルーリさんの姿を想像し、自然と頬が緩んでいた僕はまだ知らなかった。

 ゴブリンたちと共に倒したあの強盗パーティが、ギルドでも上位の実力を持つAランクパーティだったことを。


 そして、この出来事をきっかけに人生が一変し、最強への道を駆け上がっていくことになることを。


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