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第54話 ゴブリンテイマー、大佐と対面する

「入りたまえ」

「お邪魔します」


 中継所にたどり着いた僕は、先に到着していた騎士様に案内されて、駐屯所の事務室へと向かった。

 騎士様の名前はネガン・スソードさん。名ばかりの男爵家の長男で、王国軍第十三連隊の指揮官の補佐をしているらしい。


「大佐、タスカ領から来たという少年を案内してまいりました」


 ネガンさんは僕の後ろで扉を閉めると、部屋の中で待っていた人物に向かって敬礼し、そう告げる。


「うむ、ご苦労だった」


 大佐と呼ばれたその人物は、見た目はまだ若く、二十代くらいだろうか。

 金色の髪に、少し赤みがかった目をしている。彼は、似合わない口ひげを指先でいじりながら、そう応えた。


(威厳を出そうとして伸ばしたのかな……)


 その口ひげは、端正で少し幼さを残した顔には、まったく不釣り合いに見える。

 そう思った、まさにその時だった。


「あっ」

「あっ」

「げっ」


 パサリ。


 突然、その自慢(?)の髭が目の前で、はらはらと地面に舞い落ちたのである。


「た、大佐っ!」

「あわっ……慌てるな、ネガン!」


 ネガンさんが、急いで僕の目の前に立ちはだかり、壁になる。

 いまさら視線を遮っても、もう遅いというのに……。


「付け髭、なんですか?」

「な、何のことかな? 大佐の髭は、もちろん自前ですよ」

「いや、でも、さっき床に……」

「見間違いではないかな。ほら、人は緊張すると、見えていないものまで見えてしまうこともあるというし……」


 さすがに、その言い訳は無理がある。

 僕はそう思いながらも、ここまで必死に上司の威厳(付け髭)を守ろうとする彼に、それ以上何も言えなかった。


「ゴホン」


 そんな彼の後ろから、大佐殿の咳払いが響く。


「ネガン、そろそろその少年から話を聞かせてもらおうじゃないか」


 わざとらしく威厳を纏わせた大佐の声が聞こえると、ネガンさんは「はっ」と短く返事をして、元の位置に戻っていく。


(この人も大変だな……)


 僕は心の中で少し同情しつつ、大佐殿に勧められるまま、机を挟んだ彼の正面の椅子に腰を下ろした。


 なんだか、犯罪でも犯して、これから取り調べでもされるような気分だ。それが顔に出ていたのだろうか。

 正面の大佐殿は、それまでの厳しい表情を僅かに緩めて、口を開いた。


「緊張せずとも良い。私は君から、件のダスカス公国軍による侵略にまつわる話と、現在のタスカ領の状況について、知っている限りで良いから聞きたいだけなのだ」


 大佐殿は、付け髭の下の口元に笑みを浮かべて、そう優しい声で言った。

 だけど、その目は真剣そのもので、僕から聞き出せることは全て聞き出そうという強い意思が感じられる。


(あまり下手なことは言えないな……)


 なので僕は、まず彼らが何を知っていて、これからどうするつもりなのかを聞き出すことにした。


「わかりました。僕の知る範囲であれば、お話しします。ですが……その前に、先に僕からおたずねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、かまわんよ。ただし、我々は軍隊だ。答えられない質問もあることはわかって欲しい」

「それはもちろんです」


(さて、何から聞こうかな……)


 そう考えつつ、机の上に視線を落としながら考える。

 これから彼ら……いや、目の前の彼と、長く話をしなければならない。

 そのために、まず一番最初に聞かなければならない情報があることを思い出した。

 これを後から聞くのは難しいだろう。聞き出すなら今だ。タスカ領についての話が始まってしまえば、きっと聞き出すタイミングを失ってしまう。

 僕は最初の質問をそれに決めると、顔を上げ、正面の大佐の顔を見据えた。


「それでは、まずは――」


 そして僕は、その質問をするために口を開き、言った。


「大佐殿、貴方のお名前を教えていただけますでしょうか」


 と。

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