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第53話 ゴブリンテイマー、王国軍と遭遇する

 速度を落とした馬車が、ウィリス王国軍に近づいていく。

 先頭を行く騎馬に乗った騎士の一人が、後方へ向けて何やら指示を出すのが見えた。

 すると、ウィリス軍の兵士たちが、道の中央を開けるように、次々と隊列を組み直していく。


「うわぁ……」


 その動きはなかなかに見事なもので、窓から身を乗り出して見ていた僕は、思わず感嘆の声を上げてしまった。


 指示を出した騎士は、その立派な身なりからして、この軍の隊長なのだろう。


 彼が隣を並走する騎士のうちの一人に声をかけると、その騎士は小さく頷き、こちら……僕たちのキャラバンに向けて馬を走らせてきた。


「このキャラバンの代表は誰か?」


 騎士は、護衛が乗っている一番先頭の馬車までやってくると、そう声を張り上げた。

 その言葉に護衛の一人が応対すると、騎士は僕が乗っているこの馬車までやってくる。

 そして、いつの間にか御者席に移動していた代表の商人に「貴方がこのキャラバンの代表かな?」と、意外にも優しい笑顔を浮かべて問いかけた。


「は、はい。私が一応このキャラバンの代表ですが……貴方様方は?」

「我々は王国軍第十三連隊である」

「連隊……ですか。それで、我々に何か御用でしょうか?」


 てっきり、道を塞いでいたことを詫びにでも来たのかと思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。

 騎士は商人から視線を馬車の中へ移し、尋ねてくる。


「このキャラバンはタスカ領から来たのか?」

「いえ、私どもはエフォルテから王都へ向かう途中でして」

「ふむ。では、客の中にでもかまわないのだが、タスカ領から来た者はいないだろうか?」


 どうやら騎士様は、タスカ領からやってきた人物を探しているらしい。

 そして、この馬車でタスカ領から来た客は、僕一人だけだ。


「あ、あの……。僕はタスカ領から来ましたけど」

「君だけか? 両親などは一緒ではないのか?」

「僕一人です。それに、こう見えても僕はもう成人していますので」


 あからさまに子供扱いされて、少しむくれたように返事をしてしまう。

 それが逆に子供っぽさを増す原因になっていることを、もしこの場にルーリさんが居たなら指摘してくれただろうな、なんて思う。


「そうか、すまない。それで、君に頼みがあるのだが」


 騎士は、僕のような平民相手でも素直に頭を下げて謝罪の言葉を口にすると、話を続けた。

 どうやら、タスカ領で起きた一連の出来事について、彼らは僕から色々と情報を知りたいらしい。それで、この先の中継所で、一緒に話を聞かせて欲しい、との申し出だった。


「それくらいは、かまいませんが」

「ありがたい」


 連隊はこのまま先に行かせ、彼と連隊長の二人だけが僕たちと共に中継所に向かうらしい。


「それでは、頼んだぞ」

「はい」


 僕は大きく頷くと、連隊長の元へ戻っていく彼を見送った。

 しばらくして、代表の商人の指示で、左右に分かれた兵士たちの間を縫うように、馬車は次の中継地までゆっくりと進み出す。


 窓から顔を出すと、時折、兵士が手を振ってくれるので、僕も手を振り返す。

 人数は、ざっと見て二千人程だろうか。

 これほどの人数が一カ所に居るのを見るのは、この前の戦争でのダスカス軍以来だ。


(あの時は、その全てが敵だったけど……今回は、全員が多分味方、だよね)


 例の男――ティレルの手の者が、この中に紛れ込んでいなければ、の話だけれど。


「タスカ領のことも、ダスカス軍のことも話すことは一杯あるけど……。どこまで話したらいいんだろうか」


 相手がどこまで知っているのか。もし、僕が話さなければ、変に疑われるかもしれない。

 かといって、全てを話すには、ティレルの手がどこまで回っているかを考えると不安が残る。


(まずは、彼らが何を知っているのかを先に聞かないと……)


「とにかく、相手が何を知りたいのかわからないと、対処のしようがないからね」


 僕はテイマーバッグの中のゴブハルトたちと、屋根の上で警戒しているゴチャックに念話で、もしもの時のための備えを伝えておく。

 そうしてから、窓からまた身を乗り出して前を確認した。


 後ろを見ると、いつの間にか左右を歩いていた兵士たちとは、かなり距離が開いたようだ。

 次に前を向く。

 馬車を先導するように、騎士が二名、中継所に向けて馬を走らせているのが見える。

 本当に二人だけでついてくるんだな、と少し驚きつつも、僕は窓から体を戻した。


 そこから中継所までの道のりは、それほど時間も掛からなかった。

 けれど、僕がタスカ領からやって来たことを知った同乗者たちに、あれこれと質問攻めに遭うはめになってしまった。

 だが、そのおかげで、騎士様に話す前に、自分の中であの事件を改めて整理出来たことは、ありがたかったかもしれない。


「やっと着いたぁ……」


 それでも、すっかり話し疲れてしまった僕は、中継所にたどり着くやいなや、いの一番で馬車を飛び降りたのだった。

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