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第52話 ゴブリンテイマー、王都へ召集される

第二幕開始です


書き溜めがあるので一気に何話か更新していきます

 ガタゴト揺れる馬車の中。

 僕は一人、王都を目指していた。


「王都って、結構遠いんだな……」


 タスカ領の領都エモスを旅立って、もう十日以上が過ぎている。

 突然、王都から今回の件について詳しい話を聞きたいのと、功労者である僕に褒美を与える、とのことで召集令状が届いた時は、本当に驚いたものだ。


「もう少し領都に居たかったけど……。さすがに国王陛下からの召集命令を断ったりしたら、皆に迷惑がかかっちゃうだろうしな」


 あれからしばらくの間、僕はルーリさんに甲斐甲斐しく看病されながら、半ば強制的に入院させられていたギルドの医務室のベッドの上から、慌ただしく戦後処理に走り回るギルド関係者や、ターゼンさん、キリートさんをはじめとしたレリック商会の人たち、そしてダイト商会や他の有力者たちが動き回るのを眺めて過ごした。


 やがて事態の詳しい報告が王都に届き、今後の対処についての最初の通知が届いた。

 驚いたことに、暫定的な領主として、なんとギルマスことアガストさんが任命されたのだ。あの人の名声は、僕が思っていた以上に高いらしい。そんな人が、なぜ辺境の、さらにその端にある町のギルドマスターなんてやっていたのか、本当に謎なくらいだったとか。


 そのことについて、一度だけアガストさんが忙しい合間を縫ってお見舞いに来てくれた時に尋ねてみたことがある。

 だけど、彼からの答えはただ一言。


『色々あったんだよ……色々とな』


 それだけ口にして、苦笑いを返されただけで終わってしまった。

 さすがに僕も『色々って、何があったんですか?』と聞けるような雰囲気ではなかったので、そこからはタスカ領と国の現状についての話になった。


 結果的に、ダスカス公国軍の領都までの侵攻は止められたとはいえ、占拠されていたエヴィアスや、そこからエモスまでの街道。特に僕たちが戦った近辺の荒れ具合はかなり酷く、その修復と復興だけでも相当な時間が掛かるらしい。


『戦争なんてしたことないのに、一人で飛び出した僕のせいです』

『何言ってんだ、お前が気に病むことなんて何にもねぇよ。むしろ皆はお前に感謝してるんだぞ』

『感謝、ですか?』

『ああ。お前がいなかったら、俺たちはたとえダスカス軍を追い返せていたとしても、あれ以上の被害になっていただろうな。冒険者や兵士だけじゃなく、民間人にもかなりの死者が出たはずだ』


 結果的に、味方側に死傷者はほとんどなく終わったのは奇跡だと、アガストさんは豪快に笑った。

 僕のゴブリンたちにも大きな怪我を負った者はいたが、幸い、命を失った者は居なかった。たしかに、あの大軍を相手にしてこれは『奇跡』だったのだろう。


『それに、お前、あのワイバーンだよ』

『ケルシードのことですか?』

『ケルシード……そういや昔、オックスがそう呼んでたっけ。そのケルシードを、いつの間に【テイム】したんだ?』


 どうやら皆は、僕が進化したワイバーンであるケルシードをテイムして、フライングセンチピードを倒したと思っていたようで。

 僕は『僕のスキルは【ゴブリンテイマー】ですよ? ワイバーンをテイムなんて出来るわけないじゃないですか』と笑いながら答え、その誤解を解くのに一苦労したのを思い出す。


 僕はあまり代わり映えのしない車窓を眺めながら、生まれ育った村を出てからの、怒濤の日々を思い返していた。

 最初に馬車に乗った時は、無駄にはしゃぎすぎたせいもあって酷く酔ってしまったけれど、ルーリさんがレリック商会で手に入れてきてくれた『酔い止め薬』のおかげで、今回はとても快適な馬車の旅になった。

 車窓から吹き込む風が心地よい。


 やがて、「もうすぐ次の中継所だ」と御者台からの声が聞こえ、降りるために荷物を確認する。

 ルーリさんが準備してくれた王都への旅程メモによれば、次の中継地で別の馬車に乗り換えることになっていた。ここまででも、すでに二回ほど乗り換えを経験している。


 ルーリさんから、辺境領から王都へは馬車を乗り換えつつ十五日ほどかかると聞かされた時は、気が遠くなったものだ。なんせ、初めての馬車であれだけ酷い馬車酔いを経験したのだから。ルーリさんが酔い止め薬を探してきてくれなかったら、今頃どうなっていたかわからない。


「うわっ」

「きゃっ」

「なんだ!?」


 ガタン!


 僕が荷物の中から取りだしたメモに視線を落としている、その時だった。

 突然、それまで順調に走っていた馬車の速度が急に落ちたのである。

 おかげで、僕と同じように馬車の中で降りる準備をしていた他の乗客もバランスを崩し、倒れそうになって悲鳴を上げていた。


「おい! 一体何があったんだ?」


 御者席に近い所に座っていた壮年の男が、そう口にしながら御者席へ続くカーテンを開く。

 他の乗客からも同じように状況説明を求める声が上がる中、僕は念波で馬車の屋根で周囲を警戒しているはずのゴチャックに話しかけた。


『ゴチャック、何があったかわかる? もしかして盗賊じゃないよな?』

『ゴブブゴブ』


 馬車は一台ではなく、五台ほどのキャラバンだ。その中には僕ら旅人用の客車以外に貨物車、そして護衛の冒険者が使う馬車がある。

 王都に近づけば近づくほど魔物も少なくなるが、かわりに盗賊が増えていくとルーリさんから聞いていた僕は、もしもの時には加勢出来るようにと準備はしていた。


『そっか、魔物とか盗賊じゃないんだね』

『ゴブ』

『え? 中継所の方に?』


 僕は立ち上がると、馬車の窓から上半身を乗り出して前を見た。

 馬車の進む先。


「あれは……王国軍かな?」


 そこには、ウィリス王国の国旗を掲げた一軍が、道一杯にこちらへ向けて行軍してくる姿があったのだった。

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