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第49話 ゴブリンテイマー、強敵(とも)を得る

「いったいどういうことなんだろう」


 道に横たわったまま目を閉じ考える。

 テイムしていない、その上ゴブリンでもないワイバーンのケルシード。

 今まで通じるはずのなかった魔物と言葉が通じるようになったことは確かだ。


「だけど、フライングセンチピードの言葉はまったくわからなかったんだよなぁ」


 そこから考えられるのはやっぱりあの謎の光だ。

 ゴブリンテイマーのスキルが、多分強化されたあの時、僕の使役魔物であるゴブハルトだけでなく、ケルシードの体も光った。

 そしてその光が僕の中に吸い込まれていったのは確かで。


「とすると、言葉が通じるのはあの光を僕が吸収した相手とだけと言うことなのか?」


 となると、ゴブハルト以外のゴブリンたちとはまだ会話は出来ないのだろうか。

 といっても、僕のゴブリンたちとはテイマースキルによって普通に意思疎通は出来るので不便はないのだけど。

エイルは、自分のスキルがレベルアップしたことで、特定の魔物とのみ会話できるようになったのではないかと推測する。

しかし、その条件はまだ明確ではない。


「それにしても、どうしてケルシードの光が僕に……」


 僕のゴブリンテイマースキルは、今でも確実にゴブリン以外には反応しない。

 他のテイマースキルを持った人と会ったことがないからわからないけど、テイム出来る魔物なのかどうなのかは直感でわかるのがこのスキルだと思う。

 今は主を無くして野性に還ったケルシードは、通常のテイマーからすればテイム対象である。

 もちろんワイバーン。

 しかも彼女のように強力に進化した魔物相手では、テイムが成功する確率は普通のテイマーではほぼないに等しいだろう。

 だけど僅かでも可能性があれば、テイムの力はテイマーに教えてくれる……はずだ。


「でもさっきもケルシードがテイム出来るなんて直感は全く出てこなかったしね。だとすると僕のゴブリンテイマースキルが一番怪しいと思うんだけど」


 なんと言っても『ゴブリンテイマー』というスキル自体が前例のないもので。

 ルーリさんもギルドマスターもマスターも全く知識がなく、ゴブリンしかテイム出来ないことと、そのゴブリンの進化・成長に影響を与えるという以外まったく未知のスキルである。


「あとで能力鑑定して貰わないと」


 そんなことを考えているうちに、いつの間にやら辺りから破壊音もフライングセンチピードの悲鳴も消えていた。

 ケルシードによる『掃討』が終わったのだろう。


 そう考えて目を開くと、バッサバッサという羽音を立ててケルシードが上空から降りてくる姿が目に入った。

 その姿はワイバーンというよりも既に小型のドラゴンのような力強いもので。


「怪我していたとはいえ、よく勝てたな僕たち」


 しばらくの間休んでいたことで魔力も少し回復し、体も動くようになっていた。

 僕は降りてくるケルシードの巨体を見上げながら上体を起す。


『すべてトドメを刺してきたぞ』


 砂埃を立てながら降り立ったケルシードは、僕の顔の近くまでその頭を下ろすとそう告げる。

 その口元からは、まだ火球を放ったくすぶりが立ち上っていて、少し熱さを感じる。


「お疲れ様ケル」

『あの程度の相手、疲れる程ではないがな』


 ケルシードは愛称で呼ばれたことに少し嬉しそうな様子で答えた。

 魔物の細かい表情がわかる。

 それもその魔物の主か、長年その魔物と暮らした者しかわからない事のはずだ。

 なのに、僕には今のケルシードの表情と、その気持ちがよくわかる。

エイルは、ケルシードの表情や感情を読み取ることができるようになっている。

これは、エイルのスキルが、単に言葉を理解するだけでなく、相手の心と深く繋がる能力へと進化していることを示唆している。


「一体どういうことなんだろう……」

『何がだ?』

「いや、ね――」


 僕は先ほど寝転びながら考えていたことと、今思った事をケルシードに伝えた。

 言葉が通じるというのはありがたい。


『ふむ。確かにそれは改めて考えると不可思議ではあるな』

「でしょ?」


 僕とケルシードは街道の真ん中で額を突き合わせ考えを、お互い話し合った。

 だけど、結局はゴブリンテイマーというスキルのせいであると言うこと以外は結論は出ないまま。


「そういえばさ」

『なんだ?』

「あの光のことなんだけど」

『あれのことは我にもわからぬと言ったろう?』

「いや、そうじゃなくてさ。あの時ケルはどんな状態だったのかなっておもってさ」

『どんな……ふむ。我は単純に嬉しい気持ちであったな』

「嬉しい?」


 ケルシードはその時のことを思い出したのか、表情を和らげて話を続ける。


『ああ。我が友と認めたお主からケルと呼ばれて、懐かしさと嬉しさが心の奥から溢れてきたのだ』

「それがあの光……」

『そこまではわからぬ。だが、あの瞬間我の心の喜びが溢れ出したような気がしたのは確かであったな』


 喜びの心。

 それが何なのかわからないけれど。


『あの瞬間、我の心とお主の心が通じ合った。そんな気がしたのだ。そういえば我が主と誓いを交わした時にも同じような思いを感じたことがある』

「でも僕はケルを『テイム』はしていないよ」

『うむ、それはそうだ。我はお主と誓いを交わしてはおらぬ……が』


 そこでケルシードは少し間を置いてから告げた。


『我はお主とは誓いではなく、友としての契りを結んだ……そんな気がしているのだ』


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『悪徳領主の息子ですが、父の真似をしたら名君と呼ばれてしまいました』
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