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第48話 ゴブリンテイマー、言葉をかわす

「と言っても何がどうなったのか……」


 僕の中で何かが変わった感覚はあった。

 だけど一体何が変わったのかはわからない。


「こういう時、ギルドのアレがあったらなぁ。なにかわかったかも知れないのに」

『ギルドのアレとは何だ?』

「アレっていうのはアレだよ。こう、スキルとかがわかる魔道具でさ」

『ふむ、そんな物があるのか』

『アレ……ギルドマスターが持ち出してきたやつですな』

「そう、それ……えっ」


 僕は自分の独り言に突然割り込んできた二種類の声に驚いて周りを見回す。

 だけど今僕の周りにはゴブハルトとケルの二人しか居ない。

 もしかしてアガストさんたちがやって来たのかと領都の方を見るが、見える範囲にそれらしい影はない。


『主、一体何を探しているのですかな?』

「いや、さっきから僕以外の声が聞こえるんだよね」

『お主もおかしなことを言う』

「ですよね」


 僕はもう一度振り返ると、目の前の二人を交互に見てから――


「えええええええええええええええっ」


 ちょっとまって。

 もしかして、もしかして。


「もしかして君たちの声なの?」

『声?』

『声と言われましても、なんのことやら』

「いやいや、君たちって今僕と普通に喋ってるよね?」


 そう問いかけると、二人は互いに顔を見合わせた後僕の方を向いて答えた。


『そういえば』

『そうだな』


 今まで僕はゴブリンたちとは意思の疎通は出来ていた。

 でもそれは彼らの声が直接脳内に届き、その意味がわかるということでしかなかった。

 だけど今僕たちは普通に『会話』をしている。

エイルは、以前から、ゴブリンたちの感情や簡単な意思は理解できていた。

しかし、それは言葉を介したものではなく、あくまで感覚的なものだった。

今回のスキルレベルアップにより、エイルは、ゴブリンだけでなく、他の魔物とも言葉を介してコミュニケーションを取れるようになった。


「もしかして君たち、人間の言葉がしゃべれるようになったのかい?」


 恐る恐るそう尋ねると、二人はゆっくりと首を振ってそれを否定する。


『我らは人言語などしゃべってはおらぬ』

『ええ、もちろん。むしろ主が突然魔物の言葉をしゃべり始めて驚いているくらいですぞ』

「僕が……魔物の言葉を?」


 いやいや。

 僕はずっと普通に人間語で喋り続けているはずだ。

 それが彼らには魔物の言葉に聞こえる?


「まさか、僕の頭がどうにかなっちゃったんじゃ……」


 そこまで考えた時だった。

 僕の中で、ひとつだけ原因らしきものに思い至った。

 それは先ほどの謎の光と、何かが変化した僕のスキル……ゴブリンテイマーである。


「もしかして『ゴブリンテイマースキル』が強化されて、魔物と話せるようになったのかな?」


 テイムした魔物以外と会話が出来る。

 もしそれが本当であれば凄いことだ。

 ゴブハルトだけであれば今までも意思疎通は出来ていたので、それほど驚くことではなかったかもしれない。

 だけど、僕がテイムした魔物ですらないワイバーンのケルシードとも会話が出来ているのである。

エイルの「ゴブリンテイマー」スキルは、ゴブリンだけでなく、他の魔物とも心を通わせ、言葉を理解する能力へと進化した。

これにより、エイルは、魔物との新たな関係を築き、より強力な力を手に入れることになる。


「凄い凄いと思ってたけど、やっぱり僕のゴブリンテイマースキルって――」


 喜びのあまり叫びそうになったその時だった。

 突然ゴブハルトとケルシードが、今までの和やかな雰囲気を消し去り焼け残った森へ顔を向けた。


『まだ生き残っておったか』

『蟲というモノはしぶといですな』


 その言葉に続き、森の木々をなぎ倒す音が聞こえ、そいつが姿を現した。


「フライングセンチピード!?」


 その体は半分ほど千切れ飛んでいて、残った部分も炭化しかけているように見えた。

 だが、それでもやつは動いてこちらにむかって吠えた。


『ギギギィィィギギィ』

『ほう。その体で、まだ我とやり合おうと言うのか。たいしたものだ』

『主、下がっていて下さい。此奴、我々を倒して主を殺すと言ってますぞ』


 僕の前に回り込んだゴブハルトが、まだふらつく足を地面に突き刺すようにして仁王立ちする。


「えっ。こいつそんなことを言ってるのか?」

『主にはやはりわかりませんか。間違いなくこいつはそう言っております』


 まさか。

 魔物の声がわかるようになったのではなかったのか。

 いや、もしかすると魔物といってもフライングセンチピードは蟲系の魔物だ。

 今のゴブリンテイマースキルではまだ蟲系の言葉がわからないだけかもしれない。

エイルのスキルは、まだ全ての魔物の言葉を理解できるわけではない。

特に、蟲系の魔物は、他の魔物とは異なる言語体系を持っているため、理解が難しい。


『来ますぞ』

『我がトドメを刺しても良いのだがな。ここは――』

『私に任せて貰いますぞ!』


 少し休んだとは言ってもまだ殆ど回復していないはずのゴブハルトだった。

 だが、ケルシードに最後まで助けて貰うというのは彼にとって我慢ならないことだったのだろう。


『行きますぞっ! 蟲っ!!』


 腰から愛用の日本刀を引き抜くと、ゴブハルトは一気にフライングセンチピードの懐に飛び込む。

ゴブハルトの武器は、エイルが村で発見した古文書に記されていた製法で作られた、特殊な日本刀。

ゴブリンの小さな体格に合わせて作られており、非常に軽量で、かつ、高い切れ味を持つ。

一方、相手も黙ってそれを見ているわけが無い。

 失った半身を感じさせない動きで、その体をもたげると、無数にある鋭く尖った脚を飛び込んできたゴブハルトに向けて振り下ろした。


「ゴブハルト!」

『甘いですぞっ』


 ゴブハルトは懐に潜り込んだ瞬間、その移動方向を直進から横へ急激に切り替えた。

 だが振り下ろされたフライングセンチピードの脚は、その急激な動きにはついて行けない。

 そのまま先ほどまでゴブハルトがいた場所にドンドンドドンっと突き刺さる。


『シュッ』


 ゴブハルトは痛む体を無理やり反転させると、口から意気を細く吐き出すと同時に剣を振りきった。


『グギギギギィィィィ』


 気持ちの悪い悲鳴が響く。

 ゴブハルトの剣は見事にフライングセンチピードの振り下ろされた脚の全てを両断していた。


『トドメ!!』


 両断するために回転させた体の勢いを止めず、ゴブハルトは地面に付いた足に力を入れてそのまま飛び上がる。

 半分の足を失ったフライングセンチピードは、その巨体を支える片方を失ったせいでバランスを崩し、そのまま転がるようにして腹を天に向けて転がった。


『お主たち、なかなかの強敵でしたぞ!』


 そこへ飛び上がったゴブハルトが、双剣を振り下ろした。


 ガッ。


 蟲の堅い殻の、その隙間にゴブハルトの双剣が突き刺さる。

 と、同時にゴブハルトは剣を足場にもう一度跳んだ。


 急所を突き刺され暴れ出すフライングセンチピードから逃れたゴブハルトはそのまま僕たちの方へやってくると、地面に膝をつく。

 そしてそのまま前のめりに倒れ――


「ゴブハルト」


 僕はその体が地面に倒れる前に、走り寄って体を抱きかかえた。

 いつの間にかその体はゴブリンオーガの姿から、いつものゴブリンに戻っている。

 それが、彼がどれだけ全力を出し切ったかを示していて。


『休ませてやれ』

「ああ、わかった。ゴブハルト、ありがとう。バッグに戻って休んでくれ」


 そう告げると、テイマーバッグに魔力を流しゴブハルトを収納する。


「僕はゴブハルトに頼りすぎてたんだな」

『そうだな。だが、アヤツもお前を心の底から信頼し頼っている。いいコンビだと思うぞ……さて』


 僕はその場に座り込み、ゴブリンたちの回復のため、残りの魔力を全てテイマーバッグに流し込みながらケルシードを見上げる。

 そのケルシードの目は僕ではなく。


『やはり蟲というものはしぶといな。殺し損ねたのは我の不手際だ……後は任せるが良い』


 僕がケルシードの視線を追うと、そこでは先ほどゴブハルトが倒したはずのフライングセンチピードがまた動き出していた。


『お主はそこで寝ていろ』


 ケルシードはそう言い残すと、その顎を開いたかと思うと炎の弾を放つ。


『ギギギィィ……』


 一発だった。

 いくらしぶとい蟲と言えど、ケルシードのその一撃を真正面から受けてはひとたまりもなかった。


『ふむ……あと三体ほどまだ動いているようだ。では始末してくる』

「頼みます」


 僕は地面に横たわったままそれだけ告げると、飛び立つケルシードを見上げながらゆっくりと目を閉じた。


 響き渡る轟音とフライングセンチピードの悲鳴のような咆哮が消え去り、街道に静けさが取り戻されたのはそれからしばらくしてのことだった。


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