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第34話 ゴブリンテイマー、ネタバラシをする

 ゴブハルトの最後の一撃を捌ききれず、ギムイは倒れた。


 僕たちは気絶したギムイの体を治癒魔術師に回復させつつ、何重も縄で縛ってから僕たちが閉じ込められていた牢に放り込む。


 あの牢の建物の中には三つほどの牢があったので、それぞれギムイたちパーティ五人、盗賊団、トスラとそのお付きの三組に分けて投獄した。


 これはそれぞれが責任の押し付け合いをして、殺し合いを始める可能性を心配したキリートさんの案である。

 一応それぞれの牢にはゴブリンを数人ずつ配置して監視はさせてはいるが、念のためだ。


「ゴブハルト……くんだっけ? あのゴブリンの最後の技は結局なんだったんだい?」

「あれは魔法剣ですよ」

「魔法剣?」

「ええ。ゴブハルトの体内に残った魔力を実体化したものですね」


 キリートさんはその答えを聞いて不思議そうに尋ね返してくる。


「でもゴブハルトくんは魔法使いじゃないだろ?」

「そうですね。でもゴブハルトは自分の体を強化する魔法は使うことが出来るんで魔法剣士ということになるのかな」

「じゃあどうしてその力を最初から使わなかったんだい?」


 最初からゴブハルトが自ら強化魔法を使えばギムイとの戦いも楽勝出来たのでは無いか。

 キリートさんの言い分はもっともだ。

 だけどゴブハルトは最後の最後までその力を使わなかった。


「まず一つは僕がテイマーバッグを持ってなかったせいですね。僕からの魔力供給が無い状態であまり魔力を使えば、最悪魔力切れを起してしまうんで」

「魔物が魔力切れを起すと……そうか、消えてしまうってことか」

「そういうことです。魔物は魔力の固まりのようなものなので、魔力の消費はそのまま力の減少に繋がるんですよね」


 なるほどなるほどと頷くキリートさん。

 だけどその頷きはすぐに止まり、そのまま首を傾げる。


「でも、それじゃあエイルくんがテイマーバッグを取り戻した時点で本気を出せばいいんじゃないの?」

「それについてはさっき言いましたよね」

「何を?」

「ゴブハルトが自分だけの力で相手を倒したいって言ったんですよ。だから僕はゴブハルトへの魔力の補給は一切しなかったんです」

「でも最後の最後で魔力を使ったんだろ?」

「そうですね。でも僕はまったく手をかしてませんから、あれは全てゴブハルトの素の力ですよ」


 まぁ、あの状態の魔法剣を使うには大量の魔力が必要だったわけで。

 もしもの時は僕が魔力を送れるという状況になって初めて使うことが出来る技であることは間違いない。

 村を出てからの訓練で、ゴブハルトは、自分の魔力を剣に纏わせる技を習得した。

 最初は、ただ魔力を纏わせるだけで、すぐに魔力が尽きてしまっていたが、訓練を重ねるうちに、魔力の消費を抑え、より強力な魔法剣を扱えるようになったのだ。


「しかし、あのギムイって男は結局本当にAランク冒険者だったってことでいいのかな」

「どうでしょう。僕もそれほど冒険者の方々とまだ交流はないですしはっきりとは言えませんが」


 落ちぶれたAランクである【炎雷団】の人たちに比べても明らかに強かった。


 僕がテイマーバッグを奪われて、ゴブハルトたちに魔力を送ることが出来ていなかったというハンデを考慮に入れても、少なくともギムイだけは別格の強さだったと思う。


「とにかく後で詳しく本人から聞き出しましょう。それよりも」

「ああ。彼から話を聞く方が先だね」


 キリートさんは、部屋の中の長椅子に横たわるヤンマンに目を向けて答える。

 その視線を感じた訳ではないだろうが、そのヤンマンの目がうっすらと開いた。


「ううっ……私……は」


 そう言って無理に体を起そうとするヤンマンの背中に、僕は慌てて手を添える。

 体の傷自体は、回復術士の力で完全に治っているはずだが、失った血はすぐには回復するわけではない。

 なので、体を無理に起き上がらせるとめまいを起し、また気絶しかねない。


「無理をしないでそのまま横になったままで居て下さい」

「ああ……そうだね。まだ起き上がるのは無理のようだ」


 僕はゆっくりとヤンマンの体をもう一度横たえる。

 それから彼に話しかけた。


「それじゃ、ヤンマンさんが知ってることを話してもらえますか?」

「もちろん」


 ヤンマンは少し頷いてみせると一度目を閉じてから語り始めた。


 彼が今回の話を領都のギルドマスターであるタコールから伝えられたのは、レリック商会が護衛の依頼をギルドにする少し前だったらしい。


 なぜ依頼より前にヤンマンの元に話が来たのか。

 それは彼が最初に命令されたのは、僕とルーリさんの二人を拉致しろというものだったからだ。


「命令? 依頼ではなく?」


 キリートさんは、ヤンマンの言葉に疑問を覚え問いただす。

 たしかに冒険者であるヤンマンに対してギルドマスターから話があるとすれば、それは『依頼』のはずだ。


 しかしギルドの依頼に『人攫い』等というものは無い。


「私たちはギルドマスターに……いや、アナザーギルドのタスカ領支部長であるタコールの命令には逆らえなかったんだ」

「アナザーギルド!?」

「それって一体何なのですか」


 ヤンマンの口から出たその名に、僕たちは思わず大きな声を出してしまった。


「それについては、今から説明します。アナザーギルドとは――」


 それからヤンマンが語ったことは、新米冒険者である僕はもちろん、キリートさんすら知らなかった話だった。

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