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第24話 ゴブリンテイマー、商会に行く

 僕のテイマーバッグの中では大量のゴブリンたちが『生活』している。


「ゴチャック、出ておいで」


 僕は一匹のゴブリンの名前を呟きながら、テイマーバッグに魔力を流す。

 すると、その中から小さな光の球が現れたかと思うと、一匹のひょろひょろとしたゴブリンが現れた。


 彼の名はゴチャック。

 見かけ通り戦闘には一切向かないけれど、隠密行動に特化したゴブリンだ。

 久々に会うので、何か変わりは無いかとステータスを一応見てみる。


 *********


 名前 :ゴチャック

 種族 :ゴブリン

 クラス:ゴブリンシーカー

 体力 :20/20

 魔力 :34/34


 *********


 うん。

 変わりない。

 ただ進化もしていないのは残念だけど。

 他のゴブリンたちも、ゴブハルト、ゴブリーナ、ゴブシェラ以外は、通常種のゴブリンのままだ。

 進化には、何か特別な条件があるのかもしれない。


 そんなゴチャックは、路地裏をキョロキョロ見回した後、少し首を傾げ僕の方を見る。


『ギョ?』

「ゴチャック、お願いがあるんだけど」

『ギョ!』


 僕はゴチャックにダイト商会の最上階を調べてきて欲しいと伝えると、彼は一言『ギョッ』とだけ言い残し早速路地裏の壁を素早くよじ登っていく。

 そして、その途中でゴチャックの姿がどんどん薄くなって行き、やがて消えてしまった。


「えっ、消えたわよあのゴブリン」

「あれが彼の、ゴブリンシーカーのスキルの一つ『光錯こうさく』ですよ」


 光錯こうさくは、周りの光を屈折させることで自らの姿を隠すことが出来る隠密スキルだ。

 といっても気配を消すことは出来ないし、近くで見ると景色のゆらぎで直ぐにバレてしまう程度のもの。

 だけども、遠くからそれを発見することは難しい。


「夜ならまだしも昼間ですからね。流石にゴブリンが外壁をよじ登っていたら大騒ぎになるでしょ」


 特にダイト商会の建物の周りは平屋ばかりで、同じような高さの建物は存在しない。

 多分だけど、外部からの侵入を防ぐために周りに高い建物を建てさせないようにしているのではないだろうか。


「それじゃあ次に行きましょうか?」

「えっ。次?」

「ルーリさん、たしかもう一軒別の商会に寄るって言ってませんでしたっけ?」


 ダイト商会に向かう道すがら、ルーリさんから、今日は二件商会を回ると聞いていた。

 一つは今回の事件の首謀者候補であるダイト商会。

 そしてもう一つは――


「そうだったわ。ギルドマスターから様子を見てきて欲しいって頼まれてたのよね」

「レリック商会でしたっけ」


 僕たちは路地裏を抜け出し大通りに戻ると、ダイト商会の前を通り過ぎ歩みを進める。


 大体の場所はルーリさんから聞いてはいたものの、初めて来る領都の道を僕が知るわけも無い。

 なので、自然と彼女はまた僕の手を引っ張るようにして進むことになる。

 そんな彼女の手を温かさに頬を緩めていると、あっという間に目的地であるレリック商会へ到着してしまった。


「ここよ」


 ルーリさんの指し示したその建物は、ダイト商会の建物と比べても遜色が無いほど立派な物だった。

 あちらに比べると三階建てで、階数こそ一階すくないが、敷地面積ではレリック商会の方が少し大きい。

 外装も同じように周りの建物と比べると一段上の仕上がりで、大きく描かれた『RELLICK』の文字が眩しく陽光を受け輝いていた。


 だが――


「お客さんが一人も居ませんね?」


 ダイト商会と同じく、レリック商会も、一階は誰でも買い物が出来るように店になっている。

 しかし、ルーリさんが店員と押し問答をしている間にもひっきりなしに客が出入りしていたダイト商店と違い、こちらの店頭にはまったく客の姿が見えない。


「お休みなんじゃ?」

「そんなはず無いわ。だって、普通に店の扉は開かれてるもの」


 ルーリさんは少し急ぎ足でレリック商店の前に歩いて行く。

 そして開いた扉から中へ入っていった。


「あっ、待って下さいよ」


 僕も慌ててその後に続く。


 ルーリさんの後を追ってお店の中に入った僕の目に映ったのは、一人も客がいない店内と、まばらにしか商品の並んでいない棚。

 そして店の奥には一人、暇そうに居眠りをしている店員の姿が見えた。


「ダイト商会とはえらい違いですね」

「前に来たときはこんなじゃなかったのよ。むしろダイトよりもお客さんが詰めかけてて……」


 不安そうにそう口にしながら、ルーリさんは奥にいる店員の側まで歩いて行くと、船を漕いでいる彼の肩を揺さぶった。


「ふえっ。あっ、お客様ですか」


 寝ぼけ眼でそうこたえる店員にルーリさんがニ言三言告げると、彼は突然目を見開いて「い、今すぐ呼んで来ます!」と言って、慌てて店の奥に向かって駆けていく。


 店を放置していいのかと思うが、客どころか店員も彼以外見当たらない以上、彼が伝令に走るしか無いのだろう。


「半年前に来た時は、店番の店員だけでも四人は居たはずなのに……」

「いったい何があったんでしょうか?」

「とにかく聞いて見るしか無いわね……レリック商会の代表である彼に」


 ルーリさんはそう言うと、店の奥に繋がる廊下に目を向けた。


 そこには、先ほど慌てて奥に駆けていった店員ともう一人。

 顔中に深く皺を刻み込んだ初老の男がこちらに向かってくるのが見えた。


 その人物はターゼン・レリック。

 レリック商会を、一代にしてタスカ領で一、二を争う巨大商会に育て上げた男らしい。


「久しぶりだねルーリくん――と、君は?」


 好々爺とはとても言えない厳つい顔でルーリさんから僕に視線を移したターゼンさんの目に、僕は少し怯えつつも小さく頭を下げて返事をする。


「ぼ、僕はエイルという冒険者で、今はルーリさんの護衛依頼を受けて、共に行動しています」

「ほう……こんなちっこい坊や一人で護衛?」


 ターゼンさんは、皺の奥の目を細め、僕を一瞥するとルーリさんにそれが事実かどうか尋ねるような視線を送った。

 そんな厳しい目を向けられたというのに、ルーリさんはまったく動じず彼に答える。


「ええ。エイルくんはこう見えてもエヴィアス冒険者ギルドで今一番期待されている冒険者なんですよ」

「ほう。こいつがねぇ」


 エヴィアスというのはあの僕が登録したギルドのある町の名前。

 つまりルーリさんたちが勤めているところである。


 生まれてからずっと、辺境の更に奥地にある村で過ごしてきた僕は、自分の村の名前すら知らずに生きてきた。

 なので、自分が住んでいる土地の名前も、近くの町の名前すら知らなかった。


 というか知る必要が無かったのだ。

 あの村で僕は一生を家族のために働いて過ごし、村から出ることも無いまま死んでいく。

 それが、あの辺境の村での当たり前だったからだ。


「ええっ、そんなことも知らないの?」


 エヴィアスから領都までの道すがら、僕からそんな話を聞いたルーリさんは、僕にわかるように色々教えてくれた。

 領都の名前はエモス。

 そしてこの地はウィリス王国のタスカ領であり、ダスカス公国という国との国境近くに存在する。

 国境近くと言っても、今までのウィリス王国はダスカス公国と一度も戦争をしたことも無く、今も特にこれと言った紛争を起しているわけでも無い。

 そもそもそれぞれの国の間には高い山脈が立ちはだかり、双方が行き来できる山道は一カ所しかなく、何があったとしてもどちらも簡単には手出し出来ないだろうとルーリさんは言った。


「改めまして。僕は【ゴブリンテイマー】のエイルと申します」


 ルーリさんに恥をかかせたくないと思った僕は、気圧されていた心を奮い立たせて姿勢を正すと、もう一度自己紹介をし直すことにした。


「テイマーか。しかし【ゴブリンテイマー】とはどういうことだ?」

「えっと……僕のテイマースキルは【ゴブリン】しかテイム出来ない特殊スキルでして」

「ゴブリンだけだと? ゴブリンなんぞ子供より弱い種族ではないか」


 ターゼンさんは、僕の自己紹介を聞いて少し首を傾げ、じっと僕の目を見つめてきた。

 もしかしてルーリさんと同じく『嘘を見抜くスキル』でも持っているのかもしれない。

 一代にして商人として成功した人である。

 それくらいのスキルは持っていてもおかしくは無い。


「ゴブリンと言っても、エイルくんのゴブリンは――」


 ルーリさんがフォローをしてくれようと口を開いたけれど、それをターゼンさんが手で制する。


「アヤツが選んだ冒険者だ。ただ者では無いのだろう?」

「ええ。彼は単独で――いいえ、彼と彼のゴブリンたちは、他に誰の助けも借りずにワイバーンを撃退しました」

「ほう。ワイバーンというとまさか?」

「この領都から逃げ出した個体ですわ」


 ルーリさんの言葉を受けて、ターゼンさんは少し眉間の皺を深くする。


「あのワイバーンが、主を失ったとは言え人を襲うとは思えんのだがな」

「今日、お伺いしたのはその件も含めて、ターゼン様にお話を聞かせて貰いたく」


 懐から一通の手紙を取り出しながら、ルーリさんはそうターゼンさんに告げた。

 それはギルドマスターから、ターゼンさんに宛てた手紙で。


「アガストからか。ここでずっと立ち話も何だ」


 ターゼンさんは、店員に後を任せると告げると、僕らを奥の応接室へ招き入れ、自らの手で三人分のお茶を入れてくれた。

 こんな大きな商会の代表が、自らの手でお茶を入れることを少し不思議に思いながら、僕はルーリさんとともにソファーに座る。


「それじゃあ先にこの手紙を読ませてもらうから、君たちは少し待っていてくれ」

「はい」

「ええ、それはかまわないのですが……」


 僕に続いて返事をしたルーリさんだったが、その顔には今までに見たことも無いような不思議な表情が浮かんでいて。


「……ふむ。ルーリくんが聞きたいことはわかっている」


 ターゼンさんは、手にしていたギルドマスターからの手紙を一旦机の上に置くと、少し口ごもった後話しを始めた。


「今、このレリック商会は、簡単に言えば潰れかけ……いや、このままだと近いうちに倒産するのは間違いないだろう」


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