第22話 ゴブリンテイマー、モヤモヤする
「それでどうでしたか?」
「だめね。あの人絶対に私の目を見ないんだもの」
「僕もルーリさんの目はあまり見れないですけどね。恥ずかしくて」
僕が少し照れたフリをしながらそう言うとルーリさんは笑って僕の頭をコツンと軽く叩いた。
「わざとらしいわよ」
「そうですか? 半分くらいは本気なんですけど」
僕は痛くもない頭を抑えながらそう答えた。
でもルーリさんが言ったように領都ギルドのギルドマスターであるタコールがわざと『彼女の目を見ないようにした』のだとすれば、それは完全にタコールがくだんの事件に関わっていると言うことを示しているということだろう。
「じゃあ半分は私が怖いってこと?」
「やだなぁ。僕がルーリさんのことを怖がるわけ無いじゃ無いですか」
僕はそう答えて彼女の目を今度は真っ正面から見つめ返す。
「嘘はついてないわね」
「でしょう?」
ルーリさんのスキルは『真実の瞳』というらしい。
相手の目を見ることで相手が嘘をついているのかそうじゃないのかがわかるスキルで、彼女は今までその力を使って様々なピンチを乗り越えてきたという。
「特にナンパ男とかね」
彼女が僕にスキルのことを教えてくれた時彼女はそう言って笑ったっけ。
「私の力を知ってる人は少ないんだけど領都のギルドマスターくらいになると、登録している冒険者のスキルはある程度閲覧できるのよね」
「じゃあ僕のスキルも知ってるってことですね」
「新人冒険者のスキルなんて調べるかしらね。多分私と一緒にやって来たとは聞いてるでしょうけど私が護衛を雇って領都に来るのは毎回のことだし」
今回ルーリさんは名目上ギルドマスターであるアガストさんの代理で領都にやって来たことになっている。
ギルドマスターの名前は旅の途中で初めてルーリさんから教えて貰ったのだ。
「それでワイバーンの事件にはやっぱり関わってそうですか」
「エイルくんがワイバーンから聞いた話を少しだけ匂わせてみたけどね。知らぬ存ぜぬな態度だったわ」
そもそもワイバーンから聞き出せたのは彼女の主に領主が依頼をした場にタコールがいたらしいということとその依頼のためのパーティはタコールが用意したことくらいだ。
しかもその場をワイバーンは直接見たわけではないはずなので多分彼女の主から聞いた話でしかない。
ワイバーンの子供を掠うために行われた犯行という裏付けも証拠も何も無いのである。
ルーリさんの話によるとそもそもテイマーが死亡した後にテイムされていた魔獣を危険視して殺すという話は希にあるらしく、ワイバーンが目覚めた時に領主の兵士に殺されかけたというのも特別なことでもないとのことで。
「酷い話ですよね」
「そうね。でも強力な魔獣を首輪が外れた状態で放置できる人はなかなかいないものなのよ。それがたとえこのさき人を襲わないとしてもね」
もしかして僕のゴブリンたちも僕が死ねば同じように討伐されてしまうのだろうか。
いずれ僕が命を失う前に、なんとかしてあげないといけない。
僕はルーリさんの話を聞いた時にそう決意した。
「それじゃあこれからどうします?」
「そうね。さすがに私の権限じゃ領主様に直接って訳にもいかないしとりあえずあの密輸商人に依頼したという商会に行ってみようかしら」
「ダイト商会でしたっけ」
「ええ。この領で一番大きな商会よ。一応ギルドマスターから紹介状は預かってるわ」
彼女はそう言ってポケットから一通の封書を取り出す。
表にはギルドマスターの汚い字で何やら書かれているが読めない。
「暗号か何かですか?」
「違うわよ。ギルドマスターが聞いたら泣くから言わないであげてね。あの人昔からあまり字を書くことが無かったらしくて冒険者やめてから一生懸命練習したんだから」
「そうなんですか? それまでは一体どうしてたんです? 書くこともあったでしょ?」
「彼のパーティーメンバーが代わりに書いてあげてたらしいわよ」
それはさすがに甘やかしすぎではと僕が言うとルーリさんも笑って「だから私は逆に厳しくしてるの」と言った。
一体ルーリさんとギルドマスターの関係って……。
僕は少しモヤモヤしたものを感じながら彼女と一緒にダイト商会へ向かうのであった。