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第21話 ゴブリンテイマー、旅立つ

 一連のワイバーン騒動。

 あの時頑張って捕まえた商人たちだったけど結局彼らからは有力な情報は得られずじまいだった。

 どうやら彼らは本当にただ雇われただけで誰にもバレずに国境の砦までワイバーンの子供を運ぶだけの依頼だとしか聞いていなかったらしい。

 ギルドマスターたちはかなり強引なこと(主にゴブハルトたちをけしかけるなど)をしてまで真実を聞き出そうとしてくれたらしいけど真相はわからずじまいだった。


 事件の後ワイバーンの怪我が治り彼女たちが山へ飛び立ったのを見送った後、僕は自らの意思とギルドマスターからの依頼を受けて領都へ向かうことにした。

 僕の意思はこの事件の真相を探ること。

 そしてギルドマスターからの依頼というのは――


「それにしてもルーリさん。本当に良いんですか?」


 僕は横を歩いている美人なお姉さんにそう声を掛けた。


「ええ。たまには長距離を歩かないと体もなまってしまいますし」


 ギルドマスターからの依頼。

 それはルーリさんの護衛だ。


 どうやらギルドマスターは今回の事件には領都のギルドが関係していると考えているらしく自分が一番信頼しているルーリさんにその調査を任せることにしたのだそうだ。

 本当なら自分が直々に出向きたかったらしいが今あの町には実力のある冒険者パーティが不在でギルドマスターが離れるわけには行かない状態だ。


 一番の実力者であるSランクパーティ【荒鷲の翼】は【炎雷団】の護送のために出て行きまだ戻らない。

 残った中でも実力者だった【烈風の刃】は主力であるエンヴィとマイルの怪我が完治するまでは戦力にならない。

 そんな状況で離れるわけにも行かず代わりにルーリさんが出向くことになったわけである。


「それにねエイルくん。私こう見えて強いのよ」


 そう言って腕を曲げて力こぶを作ろうとするがその細い腕にこぶが出来ることは無く。


「信じられないんですけど」

「ほら私ってパワータイプの冒険者じゃ無いから」


 そんな言い訳も可愛らしいなと思ってしまった。


「信じてないようね」

「そりゃあ……」

「じゃあこれを見てくれるかしら?」


 そう言って服の襟元から細い腕を自らの胸元に差し入れるルーリさんに、僕は「な何を見せるつもりなんですか!」と慌てて目をそらした。


「ほらこれが証拠よ」


 そっぽを向いた僕の後ろからルーリさんの細い腕が伸びてくると僕の目の前に何かが差し出された。

 それと同じものを僕も持っている。


「ギルドカード……ってルーリさんって冒険者だったんですか!?」


 彼女が僕に見せたがったもの。

 それは彼女自身のギルドカードだったのだ。


「もちろん。ギルドの受付をやってる人はだいたい冒険者なのよ。知らなかった?」

「僕はギルドってものに入ったのはあの町が初めてなんですよ。知るわけ無いじゃないですか」

「そうだったわね」


 ルーリさんは少し笑うと説明してくれた。

 荒くれどもが集まる冒険者ギルド。

 受付というのはその荒くれどもを毎日のように相手にしなければならない。

 つまり普通に町にいる女の子には務まらない職業なのだ。


「といっても女性の受付担当って私以外だと数人くらいしかいないらしいのよね」

「そんなに少ないんですか。僕はてっきりどこのギルドでも受付には綺麗なお姉さんがいるんだろうなって思ってましたけど」

「領都の受付なんて筋肉ムキムキのマッチョなおじさんよ?」


 それを聞いて直接領都のギルドに行かなくて良かったと僕は心の底から思うのだった。


 *****


 僕は改めてルーリさんのギルドカードに目を落とす。


 持ち主の名前には『ルーリ』とだけ書かれているのでルーリさんは貴族ではないことがわかる。


 この国では名前以外に名字を持つのは貴族のみの特権である。

 冒険者やギルド職員に貴族などいるわけが無いと僕もルーリさんの授業を受けるまでは思っていた。

 しかし貴族と言っても全員が家を継げるわけでも領地を持っているわけでも無い。

 名前だけの貴族もこの国にはそれなりの数存在していて、大抵は子供の頃から剣術などを学べる環境にいたためそのまま冒険者や兵士になることも多いらしい。


「えっ!?」

「どう? 驚いた?」


 ギルドカードに表記されているのは主に名前と冒険者ランクのみである。

 他にも所有しているスキル名が僕の場合表示されていたがこれは任意で表示しないように出来ると聞いて僕も今は非表示にしている。

 あとは見えないだけでカードには様々な情報が入っているらしいけれどその内容は一定の権限を持つ者の許可が無ければ読み出せないようになっているらしい。

 その権限についても何段階も分けられていて個人の情報が簡単に出回らないようにされているとのこと。


 なので僕が驚きの声を上げたのは名前以外で唯一読み取れるもの――彼女の冒険者ランクを目にしたせいだった。


「ルーリさんってBランクの冒険者だったんですね」

「凄いでしょ?」

「凄いというか信じられないというか」


 目の前で楽しそうに笑う細身で美人なお姉さんがBランクの冒険者だなんて。

 さすがに信じられずなんどもギルドカードを見なおすがやはりそこには『ランク B』と間違いなく書かれていた。


「なのにどうしてギルドの受付嬢なんてやってるんですか!?」

「それはナイショ」


 ルーリさんは少し戯けたようにそう返事をすると僕の手からギルドカードを一瞬で奪い取り胸元に仕舞い込んだ。


 だけどそうか。

 彼女のスキルは伏せられていてわからないがこの華奢な体でBランクと言うことはかなり強力なスキルを持っているに違いない。

 だからギルドマスターは自分の代わりにルーリさんを領都へ送るのをためらわなかったのだろう。


「わかりました。ルーリさんが何故受付嬢をしているのかはもう聞かないでおきます」


 僕はそう言うと道の先に見えてきた大きな門に目を向けた。


 それは領都の周りをぐるっと囲んだ壁に数カ所ある出入り口の一つで僕らのような徒歩の旅人はその脇にある人が二人通れるほどの扉から中に入ることになっている。

 他にも行商人の馬車が通れる中程度の扉もあるが一番大きな大門が開くのは王族が行列を引き連れてやって来た時くらいなのだそうだ。


 といっても辺境の国境に接するこの領地に王族がやってくる事はほぼ無いらしく今まで一度ほどしか使われたことが無いらしい。


「あの中にワイバーンの主を殺した犯人がいるんですね」

「どうかしら。もうどこか別の所に逃げてしまっているかもしれないわよ」


 たしかにその可能性もあるかもしれない。


「そういうこともギルドの資料を調べればわかるんでしょうか?」

「領都を出入りする冒険者についてはギルドカードを持っている限り出入りは記録されているはずよ」


 領都に出入りするには身分証明書を提示した上で数カ所にある門のどれかを通過する必要がある。

 なので領都を出入りした人についてはきっちりと記録が残っているらしい。


「もちろん冒険者だけじゃ無く商人や旅人も記録されてるわ」

「それじゃあまずワイバーンの主が暗殺された日の前後数日の間に領都を出入りした冒険者をリストアップしましょう」

「といっても領都はこの領内の中心にあるから数日とは言ってもかなりの数が出入りしているはずだから絞り込むのは少し骨が折れそうだわ」


 ルーリさんは少しわざとらしく肩を回してそう言った。


「でもルーリさんならそんなに時間を掛けずに犯人を割り出せるんでしょ?」

「あら。どうしてそう思うの?」


 ルーリさんは意外そうな顔で僕を見る。

 そんなに僕は頭が回らない子だと思われているのだろうか。

 だとしたら心外だ。

 村にいた頃は神童とまで呼ばれていたのに。

 まあ神童と言っても小さな村の中で他の子供たちよりも少しだけ物覚えが早く飲み込みが早かったというだけのことではあるのだけれど。


 それでも村の集会所で行われる勉強会ではいつも一番で年長者から色々な話を聞くのが大好きだった。

 特に村を訪れる旅人たちから聞く外の世界の話は刺激的でまだ見ぬ世界への憧憬を強く掻き立てられたものだ。


 巡回神官様が村に来て僕のスキルを調べてくれた時も普通ならガッカリする場面なのかもしれないのに僕はむしろワクワクした。


 だってそれまで本でしか読んだことのなかったスキルというものを本当に自分が持っていると分かったのだから。


 神官様から貰ったテイマーバックだって村にいる間は単なる便利な小物入れくらいにしか思っていなかった。


 初めてゴブハルトたちをテイムした時はその便利さに驚き感動したことを今でも昨日のことのように思い出せる。


「だってギルドマスターがあえてルーリさんを指名して送り込んだってことはルーリさんの【スキル】を使えばなんとかなると思ったからじゃないかなと思ったんだ」


 僕はそう答えると驚いた顔のルーリさんに向けて「図星でしょ?」と笑ってみせたのだった。

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