第20話 ゴブリンテイマー、子供を助け出す
ゴブリンたちに囲まれた馬車の中では三人の男が一体何が起こったのか理解できずにガタガタと震えながら小さくしゃがみ込んでいた。
一人は馬車の御者でもう一人が雇い主である商人、そしてその仲間といったところだろう。
「抵抗しなければゴブリンたちには何もさせませんよ」
僕は震える彼らにそう言ってから馬車の後ろ側へ回り込む。
「さて本当にいるかなっと……」
軽く馬車の中へ入るとその中はかなり荒れ果てた状態だった。
上を見れば屋根も破れている。
あのワイバーンに襲いかかられた時に破壊されたに違いない。
マイルさんたちはこの馬車の中には入れてもらえず前後を守るように馬に乗って警護をしていたらしい。
そして休憩や野営の時だけ商人たちが馬車の中から荷物を取り出して彼らが設営を行ったのだとか。
「まぁ普通の冒険者に見られるわけにはいかないよね」
僕はそう独り言ちながら散乱した荷物をかき分け、一番奥にしっかりと固定されている箱の隙間に荷物の中にあった丈夫そうな剣を差し込む。
「よいしょっと」
そしてそのままテコの要領で一気に箱の上面を開くと……。
「……本当だったんだ」
その箱の中には更に人が二人ほどは入れそうな檻が入っていて、その中に件のワイバーンの子供らしき生き物が丸くなってうずくまっていたのである。
「眠ってるのか眠らされてるのか分からないけど……もし目が覚めて暴れられても困るな」
見る限り外傷もなさそうだし規則正しく息もしている。
ただ眠っているようにしか見えない。
多分商人たちによって薬か何かで眠らされているのだろう。
生きたまま隣国まで連れて行こうとしたということは命に別状はないはずだ。
僕はそう判断すると一旦外した蓋を箱の上に戻し、馬車を飛び降りて馬車の前へ移動し、ゴブリンたちに囲まれたまま震えている三人組を改めてゴブリンたちに拘束させる。
「暴れたりしなければゴブリンたちは襲いかかったりしないんで大人しくしていて下さいね」
男たちは慌ててコクコクと頷くとゴブリンたちに素直に拘束されていった。
この状況で逃げ出せるわけもないし僕の行動を見て全てがバレていることを悟ったのだろう。
「それじゃあ詳しい話はギルドでお願いしますね」
男たちにそう告げると僕は今度はゴブリンたちに向き直って指示を出す。
「僕は先に戻ってギルドマスターに話を通しておくからみんなはこの人たちと馬車をゆっくりと町まで連れてきてね。特に馬車の中にはワイバーンの子供がいるから注意するように」
『『『『ゴブッ』』』』
「ゴブシェラ、後は頼んだよ」
『ゴブブ』
それだけを言い聞かせて僕は一人町へ先に帰るため強化魔法を自分にかけ直し走り出したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
町に戻りギルドマスターに簡単な説明をした後、僕は母ワイバーンの元へ戻った。
門の中と外には騒ぎを聞きつけた野次馬たちや緊張した面持ちでワイバーンの様子をうかがっている冒険者と衛兵でごった返している。
「すみません通して下さい」
人混みを抜けようと僕が四苦八苦していると。
「おっゴブリン坊ちゃんが帰ってきたぞ!」
「お前らちょっとどいて通してやれ!」
数人の冒険者たちが僕の姿を見つけ大きな声でそう怒鳴った。
おかげで僕の前に集まっていた人たちが左右に分かれ道ができる。
「ありがとうございます」
僕は人々の間にできた道を一気に駆け抜けると冒険者にお礼を言いながら門を駆け抜け母ワイバーンの元へたどり着いた。
「えっとゴブリーナ。また通訳してくれるか?」
『ゴブブ』
「まずは君の子供は無事に保護しました。安心して下さい」
『ガルルルル……』
『ゴブブ』
魔物の表情はよく分からないが多分僕の話を聞いて体の力が一気に抜けた様子を見ると安心してくれたのだろう。
僕はそんな母ワイバーンにゴブリーナを通じて提案を持ちかけた。
「今から僕は君の傷を治してあげようと思うんだけど……。治ったからって暴れたりしないでくれるかい?」
『ゴブブブゴブ』
『ギャウ』
そして子供が無事ならもう暴れる必要はないと答えたワイバーンに僕は回復ポーションをかけてやることにしたのだった。
しかし手持ちのポーションだと完全には治せない。
とりあえずゴブハルトによって貫かれた翼は回復できたので残りはギルドマスターあたりに頼んで回復させて貰うことにしよう。
『ギャギャウ』
『グブゴゴブ』
「ここまで治れば後は自然に治癒するだって? ワイバーンの回復力って凄いんだな……」
かなり深い傷でも時間さえあればある程度は回復することが可能らしい。
ただ領主の館でかなり無理をし彼女を殺そうとしてきた領兵との戦いで受けた傷は毒でも塗ってあったのかかなり治りが遅かったとか。
僕たちと戦っている時進化したワイバーンであるのに後れを取っていた理由はそこにあるのだろう。
だとすると万全の彼女ともし戦っていたら僕らはどうなっていたのかと考え、僕は今更になって少し背筋が凍るような冷たいものを感じたのだった。