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第17話 ゴブリンテイマー、ワイバーンと対峙する!

 町の門を出たところで僕たちは立ち止まり、ワイバーンと対峙した。


 てっきりいきなり襲いかかってくるものとばかり思っていたが、どうやら大量のゴブリンを見て警戒しているらしい。

 本来ならゴブリンなんてワイバーンにとっては人間よりもたやすく蹴散らせる存在のはずだ。

 だけどワイバーンはじっと僕たちの方を見つめ、身を低くしたまま動かない。


「これはちょっと厄介かな?」

『ゴブッ』

「え? 自分に任せろって?」

『ゴブブ』

「新しく手に入れた力を試してみたいって言われても……死んだりしないよね?」

『ゴブゥ』

「そっか、それじゃあ本当に危なくなったらすぐに下がってくるんだよ。とりあえず補助魔法だけかけておくね」


 僕は両手を高く天に向けて意識を集中する。

 前回【炎雷団】と戦った時とは違い、今回は今いるゴブリンたち全員に速度アップの補助魔法をかけることにした。

 これでワイバーンがゴブハルト以外に標的を変えても、逃げることはできるはずだ。


「本当なら町の中で先に掛けておけば良かったんだけどね」

『ゴブブブ』

「ごめんよゴブリーナ。ちょっと町の人たちにかっこつけようとしてたら忘れちゃってたんだ。これからは気をつけます」


 ゴブリーナに少し怒られている間に僕の補助魔法を受けたゴブハルトが、自慢の双剣を構えながらジリジリとワイバーンに近寄っていく。

 相手のワイバーンも多分見たことのない進化したゴブリンに対して、唸り声を上げて警戒度を上げているようだ。

 それでも僕たちの方も気になるのか、その目はゴブハルトと僕らを交互に見て隙を見せないようにしている。


「ワイバーンは結構猪突猛進的なところがあるって、ルーリさんに教えて貰ったけど、この個体は慎重だよね」

『ゴブブ』

「え? あのワイバーンも進化した個体だって?」


 僕はゴブリーナの言葉を受けてもう一度ワイバーンをじっくり観察してみる。

 今朝からのルーリ教室でイラスト付きで見せられたAランクからSランクの魔獣一覧。

 その中のAランク下位に載っていたワイバーンのイラストと、特徴が書かれていた説明文と、目の前の個体を比較してみる。


「えっとまず翼の先についた鉤爪と両足の爪が、主な武器だったかな」


 翼の中央部にある鉤爪は四本。

 足にあるのは三本。

 これは記述と変わらない。


「じゃあ顔かな」


 確か頭に大きな一本角があって――


「あれ? 二本生えてるぞ」


 目の前でゴブハルトと隙をうかがい合っているワイバーン。

 その額からは縦に二本の角がはっきりと生えていた。

 まず長く大きな角が一本。

 その上に少し短めの二本目の角。


「確かにあれは通常のワイバーンとは違うみたいだね。ゴブリーナ、よく気がついた」

『ゴブブブブ』

「そんなに怒らないでよ。僕が間抜けでした、すみません」


 どうやらゴブリーナは僕が普通のワイバーン相手だと思ってゴブハルトを一人で送り出したことが、気に入らないようだ。

 確かに初めて会った時からこの二匹は常に一緒にいて、人間である僕から見ても分かりやすいくらいのカップルではあったんだけど。


「ゴブハルトが出来るって言ったんだ。もう少しゴブハルトを信じてあげなよ」

『ゴブゥ』


 少し不満そうな声を上げつつもゴブリーナは僕の言葉……いや、ゴブハルトを信じることにしたようだ。


「そろそろどっちかが我慢できなくなって動きそうだね」


 僕がそう呟いた刹那。

 ゴブハルトとワイバーンが同時に動き出す。


『グワアアアアアアアアアアッ』

『ゴブウウウウウウウウウウッ』


 雄叫びが僕の耳を打った次の瞬間、強い金属同士がぶつかったような音が続いてやってきた。

 それはゴブハルトの双剣とワイバーンの足の爪が衝突した音で。


 ガキン!

 ゴキン!

 ガンッ!


 連続して響くその音は二匹の戦いの激しさを物語っている。


「凄いぞ! ゴブハルトはワイバーンの力に全く押し負けていない!」


 ゴブリンオーガへの進化というのはこれほどまでに凄いものなのか。

 僕は興奮気味に戦いの行方を見守った。

 相手も進化しているワイバーンだというのに、ゴブハルトの力はそれと互角。


「このままゴブハルトだけでも倒せてしまうんじゃないだろうか……」


 僕は予想以上にパワーアップした相棒の勇姿に心が奮い立つのを感じるのだった。


 進化したゴブハルトとワイバーン。

 お互いに一歩も譲らず、そのパワーはほぼ互角に見えた。

 しかし互角でないものがあった。


 バギンッ!


『ゴブッ!?』


 響き渡る破砕音の後に吹き飛ばされていくゴブハルトの姿。

 そう。

 ゴブハルト自身の力は決してワイバーンに負けてはいなかった。

 だがゴブハルトの持つ双剣はワイバーンの爪の硬度に比べて脆弱すぎたのだった。


「ゴブハルト!」


 僕は慌ててゴブリンたちに指示を出そうと身構え――


『ゴブブブブ!』


 その指示より先にゴブリーナのファイヤーボールが放たれると、追撃をしようと駆け出したワイバーンの進行方向へ着弾する。

 直撃ではない。

 だけどワイバーンの足を止めるには十分なものだったらしい。


『ガァァァッ!』


 邪魔をされたことでターゲットがゴブハルトから僕たちの方へ移った。

 そう感じた瞬間僕はゴブリンたちに指示をした。


「あのワイバーンを押さえ込んで!!」

『『『ゴブブブブゴブブゴブ!』』』


 僕の後ろに控えた約120匹ものゴブリンたちが一斉にこちらに標的を変えたワイバーンに襲いかかる。

 普通のゴブリンならそれでもワイバーンに一瞬で蹴散らされていただろう。

 だけど僕のゴブリンたちは違う。

 町に来る前の修行で確かに一番強くなったのはゴブハルトとゴブリーナの二匹だ。

 だが残りのゴブリンたちだってその二匹に劣るとはいえ普通のゴブリンとは違う。


『ギャオォォォォゥン!』


 ワイバーンが迫り来る大量のゴブリンたちを凶悪な爪を振るって蹴散らそうとする。

 が僕の補助魔法がかかったゴブリンたちは見事な身のこなしでその爪を避けていく。

 ゴブハルトならこのワイバーンの攻撃など真正面から受けずに避けることはたやすかったはずだ。

 だがゴブハルトは自分の進化したゴブリンオーガという力を試してみたかった。

 だから真正面からの力勝負を仕掛けたわけだが……。


『ゴブッ』

『ゴブゴブッ』


 他のゴブリンたちは流石にワイバーンとの力比べができるほどの力は持たない。

 故に彼らはその持ち前の速度と集団の力でワイバーンに群がっていく。


『ゴッ』

『グギャアアアアオオゥ!』


 他のゴブリンがワイバーンの攻撃を誘いつつ、その隙を突いて数匹のゴブリンがワイバーンに取り付きその体に石で作ったナイフを突き立てる。

 流石に収入も何もない状態でこのゴブリンたち全員に武器を用意することはできなかった僕は、彼ら自身に石や木を加工して武器を作らせることにした。


「石のナイフでもダメージは与えられてる!?」


 流石に木製の武器は全てワイバーンの表皮に弾かれてしまっていたが、鋭く加工した石のナイフだけは効果を発揮している。

 そのことを理解したゴブリンたちは石のナイフを持つ者以外はワイバーンの動きを止めることに専念することにしたようだ。

 そしてゴブリーナとゴブシェラはそんな乱戦の中には魔法を打ち込めないため、僕の前で魔力を高めつつ待機状態である。


『グワァッ!』


 100匹を超えるゴブリンに群がられ、その体に僅かずつではあるが傷が増していく中。

 ついにワイバーンは大きく鳴きその翼を大きく広げたのだ。


「やばい! みんな! 翼を攻撃するんだ!?」


 本来ワイバーンの主戦場は地上ではない。

 今までは僕たちを格下だと侮っていたために地上で戦っていたワイバーンだが、さすがに不利だと悟ったのだろう。


「だめかっ!」


 僕の指示でワイバーンの背に乗り込んでいた数匹のゴブリンが石ナイフをもって翼へ飛びかかる。

 だがワイバーンの翼に僅かばかりの傷を付けたのみで、あっさりと弾き飛ばされてしまう。


『グゲーッ!』


 ワイバーンの翼が風を纏う。

 ワイバーンやドラゴンなど空を飛ぶ魔物はその翼自体の揚力で空を飛ぶわけではない。

 そんなものでは魔物の巨体を空中に浮かべる事は不可能だからだ。

 ではどうやって魔物は空を飛ぶのか。

 そう彼らはその翼を基準点とした風魔法によって空を舞う。

 翼は空中での軌道を制御するためのものでしかないと言われている……らしい。

 これも今朝ルーリ先生に教えて貰ったことだ。


「空に飛ばれたらゴブリンたちじゃ攻撃が届かないじゃないか……」


 僕は今にも浮き上がりそうなワイバーンを見ながら呟いた。

 その間にも果敢にワイバーンへ飛びかかっていくゴブリンたちが、ワイバーンの纏う風によって次々と弾き飛ばされる光景が続いていく。


『ゴブブ!』

「うん、そうだね頼むよ!」


 ゴブリーナが魔法の杖を振りかざしファイヤーボールを放つ。

 直接攻撃が無理でも魔法なら風を突っ切って届くかもしれない。

 そう思ったのも束の間、ゴブリーナが放ったファイヤーボールに向けてワイバーンが大きく顎を開く。


「まさか……嘘でしょ!?」


 その顎の奥に赤く光るものを見た時、僕は思わずそう叫んでいた。

 赤い光が輝く顎の奥から放たれたのは火球。

 それもゴブリーナが放ったファイヤーボールよりも大きな火球だったのだ。

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