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第14話 ゴブリンテイマー、二つ名を考える

「ふへぇ、ルーリさんスパルタ過ぎるよ……」


 翌日の昼過ぎ、僕はギルド一階に併設された酒場でミルクを飲みながら机に突っ伏していた。

 一応成人である15歳の誕生日は迎えているのでお酒も飲めるのだが、村にいる時に一度口にしたそれはあまりに苦く僕にはとても美味しいとは思えなかった。

 なので今でも僕の飲み物はミルクか、それに味をつけたものしか注文しない。


「でも僕が今まで知らなかったことが色々分かって良かった。このまま冒険者を続けていたら、大きなミスをするところだったよ」


 そうこうしているうちに、手元のジョッキからミルクが無くなってしまう。

 僕は椅子から立ち上がるとカウンターに向かい、今度はコーヒーミルクを注文する。


「コーヒーは少なめがいいのかい?」

「はい。苦いのは苦手なので」


 お昼の忙しい時間が過ぎ、店内の客もほとんど居ないこの時間。

 給仕の人たちも休憩に入り、今はカウンターの中でマスターが一人注文を受けたものを作っている。


 給仕のいない時間帯、このギルド併設の酒場は配膳もセルフサービスになる。

 それも昨日から今日にかけての、ルーリ教室で教えてもらったことの一つだ。


「マスター」

「なにかな?」

「ルーリさんって恋人とか、いるのかな?」


 僕のその問いかけに、マスターは一瞬だけ間を置いてから、コーヒーを淹れる手を止めないまま答えてくれた。


「今はいないはずだけど。もしかしてゴブリン坊っちゃんはルーリちゃんのことを狙ってるのかい?」

「うーん、わかんないけど……。もう少し仲良くなれたらな、って思ってる。あとゴブリン坊っちゃんって何?」

「おっと嫌だったかい。これはすまないね。【荒鷲の翼】の奴らがそう呼んでたから、二つ名が決まったのかと思ったんだ」


 これはお詫びだ、とマスターはできたてのコーヒー少なめのコーヒー牛乳に、小さな豆を炒ったものを小皿に入れてつけてくれた。


「別に嫌ってわけじゃないけど、それが二つ名だったら、かっこ悪くない?」

「そうかい? ルーリちゃんは気に入ってたみたいだけどね」

「本当?」

「嘘だと思うなら、本人に聞いてみればいい」


 マスターは僕の空けたミルクのジョッキを簡単な水魔法を使い洗いながら、視線を僕の後ろへと向けた。


「なぁに? 私の話でもしてたのかしら?」


 同時に、背後から聞こえてきたのはルーリさんの可愛らしい声。


「い、いつから居たんです?」


 もしかして僕がルーリさんを好きかどうか、という話も聞かれていたんじゃないだろうか。

 僕は思わず上擦った声でそう尋ねる。


「いつって、ついさっき上から降りてきたところだけど」

「そ、そうですか……」


 あからさまにホッとした表情を浮かべた僕を見て、彼女は少し眉根を寄せる。


「もしかして私の悪口でも言ってたんじゃないでしょうね?」

「悪口なんてどうして僕がそんな……」

「だって昨日も今日も、少し厳しすぎたかな、って……」


 彼女が言っているのはルーリ教室のことだろう。

 確かにぐったりするほど厳しかったが、僕はそのことを恨んだりはしていない。

 むしろ感謝しているくらいだ。


「ルーリちゃん。この子はそんなことは何も言ってなかったよ」

「マスターが言うなら、そうなんでしょうけど……」

「そうですよ。僕はむしろルーリさんに教えて貰って良かったって思ってますし」


 必死に弁明する僕を見て、ルーリさんは寄せた眉を元に戻すと、カウンターまで歩いてきて僕の横に座る。


「マスター、私にもコーヒーミルクお願い」

「濃い奴でいいんだね?」

「もちろん。ちょっと眠くなってきたところだし、シャッキリしないとね」


 そう言って、ルーリさんは僕の手元にある、ほとんどミルクに近い薄味のコーヒーミルクを見る。


「僕は眠くないので」

「そういうことにしといてあげる」


 僕は両手でジョッキを持つと、ルーリさんの視線から隠すように一口飲む。

 今朝も思ったけれど、マスターの淹れるコーヒーの香りは絶品だ。

 いつかこのコーヒーの味が分かる大人になったら、ギルドマスターみたいに何も入れずブラックで飲んでみたいと思っている。

 でも今はまだ無理だけど。


「そういえばルーリさん。僕の二つ名なんですけど」

「ゴブリン坊ちゃん、のこと?」

「それです」

「とても可愛らしくて良い二つ名だと思うんだけど、もしかして嫌だった?」


 何故だかルーリさんが表情を曇らせた。


「嫌、ということは無いんですけど……」

「良かった! その二つ名って私が付けたの」

「ええっ、ルーリさんがですか!?」


 僕は目の前で嬉しそうに語る彼女を見て、余計なことを言わなくて良かった、とホッと胸をなで下ろす。


「二つ名ってね、最初は思いっきりストレートな方が縁起もいいのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。ギルドで良く言われていることがあってね。最初から強そうな二つ名を名乗ると、早死にしちゃうんだって」

「どうしてです?」

「名前負けしちゃうらしいのよ。その凄そうな二つ名を見て無茶な指名依頼がされたりとか、本人もその名前を傷つけまいと無茶をしたりとか、ね」


 そういうことが度々あって、ギルドでは実際に実績が積み重なるまでは分かりやすく本人の資質を表すだけの二つ名が良い、と言われているそうで。


「それに本当の意味での二つ名はAランクに上がった時に決めることになっているの。その二つ名はギルドに登録されて、それからは本当の意味で冒険者の、もう一つの名前として扱われるようになるわ」

「つまり、それまでに格好いい二つ名を考えておけば良いわけですね」

「そういうことね。例えば『ゴブリンの王』とか、『ゴブリンスレイヤー』とか、どうかしら?」

「前者はまだしも後者はゴブリンを倒す人、じゃないんですか?」


 その後も僕はルーリさんの休憩時間が終わるまで、彼女の考えた格好いい僕の二つ名候補を延々と聞かされる羽目になった。

 そして彼女の休憩時間が終わり、業務に戻ろうとカウンター席を降りた、その時だった。


 バァン!!!


 ギルドの入り口が大きな音を立てて開かれたかと思うと、傷だらけの男と女の二人組が転がり込んできたのである。

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