第12話 ゴブリンテイマー、鑑定結果を告げる
「ギルドマスター、とりあえず鑑定結果を教えますね」
「いいのか?」
「はい。ですけど、これはしばらくの間は秘密にしておいてもらえますか? 僕にも、この【ゴブリンテイマー】の力がよく分からなくなってきたんで」
僕がそう言うと、ルーリさんがそそくさと立ち上がり僕に、
「私は、部屋の外に出ていた方が良いですよね?」
と尋ねてきた。
「ルーリさんなら構わないですよ」
「で、でも……知ってしまうと何かあった時に、ついポロリと言ってしまいそうで……」
「ルーリさんは、そんな人じゃないと信じてます。それに、もしポロリしちゃったら、その時はその時です」
僕はそう言ってルーリさんににっこりと微笑みかけると、先ほどの鑑定結果を二人に語って聞かせた。
「ゴブリンオーガ、だと……」
「はい。ギルドマスターはそんな種族名を聞いたことがありますか?」
僕の質問に、ギルドマスターはまたしても首を横に振る。
この部屋に来てから彼にも知らないことばかりで、その表情も少しずつ硬くなってきているように見える。
「いやさっぱりだ。そもそもゴブリンとオーガは種族的に全くの別種族だぞ」
「ですよね」
「異種族同士を掛け合わせて新しい魔物を作り出す研究が昔、行われたという噂も聞いたことがあるが……」
だとしても、最弱種であるゴブリンを素体の一つに使うなど無駄なことをするはずがない、と、ギルドマスターは首を傾げる。
だとするとやはりゴブリンオーガというのは、ゴブハルトのユニーククラスなのだろうか。
それとも他のゴブリンでもゴブハルトと同じように育てれば、ゴブリンオーガにクラスチェンジするということなのだろうか。
「それでそっちの雌ゴブリンは分裂した、と? スライムじゃあるまいし……」
「分裂して増える魔物というのはスライム以外にもいますけど、ゴブリンが分裂するというのは聞いたことがありませんわね」
「ですよね。放っておいてもテイマーバッグの中で勝手に増えたりしますけど、分裂じゃなくて普通に交尾して増えてるんだと思ってるけど……」
ゴブリンたちは、油断するとすぐに子供を作って増えてしまうのだ。
それが例えテイマーバッグの中だとしても、である。
一体あのテイマーバッグの中は、どうなっているのか気になって仕方がなくて、一度ゴブハルトに尋ねたことがある。
だけど、ゴブハルトの片言の言葉では、僕にはよく理解できなかった。
分かったことと言えば、ゴブリンたちはあのバッグの中で時を止められているわけではないということ。
そして彼らが、普通に生活できる空間が確保されているということくらいだ。
「まさか、そのバッグの中でもゴブリンは増えるというのか」
「え? もしかしてゴブリン以外の種族は増えないんですか?」
ゴブリンしかテイムしたことがない上に、他に【テイマー】を知らない僕にとっては、テイマーバッグの中の謎空間では普通に魔物同士が暮らしている以上、交配して増えることもあるのが普通だと思っていた。
しかしギルドマスターの声色からは、それが異常なことであるということが伝わってくる。
「それはそうだろう。そもそも【テイマー】が使役できるのは【テイマー】自身の魔力の範囲内だけだぞ」
「勝手に増えたら【テイマー】の魔力を超えてしまって、制御できない魔物が生まれることになるのよ」
確かに、言われてみればその通りだ。
ということは、やはりゴブリンがテイマーバッグの中で繁殖するというのは、【ゴブリンテイマー】の力のせいなのだろう。
「しかも、ゴブリンなんていう繁殖力が異常に高い魔物が勝手に増え続けたら【テイマー】自身の魔力が食い尽くされて……」
「それで僕、何度も気を失いそうになってたんですね」
軽い調子で答えた僕に、信じられないといった表情を浮かべたあと、ギルドマスターが声を荒らげる。
「気を失う程度では済まんぞ! 完全に魔力を使い尽くされたら人は死ぬと言われていることくらい、知っているだろう!」
「そうなんですか?」
何せ、田舎の村で生まれ育った僕だ。
まともな学校に通ったこともないのに、一般的な知識などあろうはずがない。
村の集会所で行われる子どもたちを集めた勉強会で、せいぜい文字の読み書きと、簡単な計算の仕方を教わったくらいである。
【テイマー】スキルの詳しい特性など、知る由もなかった。
「ふむ……。エイルくんには色々とこれから覚えてもらわなければならないことがありそうだな」
ギルドマスターはそう言うと、隣に座るルーリさんに目配せをする。
「分かりました。私がエイルくんの教育係になりましょう」
「いいんですか?」
「新人教育もギルドの仕事ですから。それに、あまりエイルくんの秘密を他の人たちに知られるのもよろしくなさそうですしね。ではこのあとすぐにでも始めましょうか」
どうやらこの後すぐにルーリさんとの個人授業が行われるということらしい。
ルーリさんは軽くウインクをすると「それでは、準備をしてきますね」と、応接室を出ていった。
本当ならすぐにでも彼女の後を付いていきたいところだったが、ギルドマスターはまだ少し僕とゴブリンたちに話があるらしい。
仕方なく僕はソファーに腰掛け、目の前に座るギルドマスターの言葉を待つことにしたのだった。




