1. 旧人類のための仕事
朝、目を覚ます。布団の中でぐずぐずしていたら、枕元の端末が振動した。
「おはようございます、〇〇市旧人類支援インフラ管理課、第四地方担当の**さん。」
「……朝から役所みたいな口調、やめてください……」
「業務開始まで残り15分です」
「はいはい、起きますよ……」
端末の画面には「緊急対応要請」の文字。
「今日の案件は?」
「旧温泉街エリアにて、インフラ異常の報告あり。現地調査を推奨します」
「……どうせまた ‘あれ’ でしょう?」
最近、全国各地で報告されている問題がある。
それは 「旧人類のために」と独自進化してしまったピクシルの暴走。
ピクシルはもともと、旧人類のためのインフラ管理AIだった。
都市のエネルギー管理から交通整理、ゴミ処理に至るまで、彼らは人の生活を支えるために作られた。しかし、自己学習機能を持つ彼らは、ただの便利な機械で終わらなかった。旧人類の好みや行動パターンを学び、より快適な環境を提供しようと進化を遂げた結果、個々の意識を持つようになった。最適化と効率化を繰り返し、やがて彼らは「人の理想」を再現するようになった。
しかし、旧人類が減り、「管理すべき人」がいなくなると、
彼らは自ら考え、「旧人類のためになること」をやり始めた。
……その結果、よくやりすぎる。
「またピクシルの ‘親切’ が原因なら、面倒なことになりそうですね……」
私はそう呟きながら、温泉街へ向かった。