8コ目 「やろ!」なトコ
8コ目かぁ…
「ねえ、中谷くん」
昼休みに入るとすぐ、藤宮に声を掛けられた。
「なんだ?」
僕が隣を見ると、彼女はカードを持った右手を僕の方に突き出して、そして言った。
「カードゲーム、やろ!」
カードには、炎をはいているモンスターの絵が描かれていた。
「カ、カードゲーム?」
「うん!」
「いや、『うん!』じゃなくて!」
彼女の机の上には、カードゲームをするためのシート?マット?正式名称は分からないが、それが十六分の一に折り畳んであり、その上にデッキを2つ置いて、シートの弾性を無慈悲に無効化していた。
「校内でカードゲームしてもいいって校則、どこにもないと思うんですがね…」
「したらだめって校則も無いよ?」
「校則にせずとも、ここ進学校のみんなは分かってることだからだよ!」
どうやったら校内でカードゲームをするって発想になるんだよ…
「あと、しっかり確認すれば、『学習に必要ない物の持ち込みを禁ずる』とでも書いてあるとは思うぞ…」
「なに言ってんの、カードゲームはきちんとした学習だよ?ダメージ計算したり」
「高校生の学習に算数は無い!」
ほんとにこいつは…
って毎回言ってる気がするな
「まー細かいことはいいからいいから!ほらほら、やろやろ!」
はいはい~机くっつけるから中谷くんのも動かして~と、藤宮は自分の机を右側、つまりこちらに向ける。
机の脚が床と擦れて、あまり快くない音を立てた。
はぁ…
僕は溜め息を吐いて周りを見渡す。
弁当を広げている女子の集まり、リュックを肩に掛けて教室を出ていく男子生徒―
僕も弁当食べたいのに…はぁ。
もう一度溜め息を吐く。
「頼むから先生入ってこないでくれよ…」
「うん?何か言った?」
「見つかったら藤宮のせいにするって言った」
僕は机を持ち上げて左に向ける。
「えー、中谷くんも一緒だよー!」
藤宮は嬉しそうに言った。
机を2つ分くっつけると、大きいシートはすっぽりと収まった。
「カードゲームで使われるこのシートはね、プレイマットって言うんだよ」
「へぇ…」
知らなかった…
カードゲームは昔やっていたが、正式名称なんていちいち気にしていなかった。
ここら辺は流石藤宮、博識だなと思う。
「にしても、高校だとみんな机の高さが同じでいいよね。中学校は人それぞれで机の高さがバラバラだったから、こういう時困ったんだよね。」
「いや、『こういう時』に『カードゲームする時』が入るっていうのは、普通おかしいんだけど…」
というか、今の言い方だと、僕以外と学校―中学校でカードゲームをしたことがある
ってことだよな…
一気にモヤモヤが胸に押し寄せる。
こうやって藤宮と遊んでいたのは、僕だけではなかった。そのことに少しショックを受ける。
誰、だろう…
中学校時代の藤宮のこと―僕は、何も知らない。
「じゃあデッキ、私こっちね!」
僕は必然的に、残されたもう一つのデッキに手を伸ばす。
「中谷くん、このカードゲームやったことある?」
カードゲームにも色々あるが、藤宮が持ってきたのは、アニメやゲームのシリーズも人気で、とても有名なものだった。
「うん。小学校の頃よくやってた。」
「よかった~、それならルール分かるよね?」
「変わったりしてなければ、多分。」
「あんまり変わってないはずだよ。じゃあ、やろ!」
高校生二人の、昼休みのカードゲームが始まった。
始まってしばらくすると、藤宮のモンスターの攻撃が僕のモンスターにとんできた。
「ふう、危ない危ない。あと少しで倒されるところだった」
「いや、違うよ」
「え?」
「ここ見て」
そう言って藤宮が指差したところを見ると、
『弱点×2』
そう書いてあった。
このカードゲームはそれぞれのモンスターにタイプがあり、タイプ相性が悪い相手だと、相手の攻撃が『弱点』となって、喰らうダメージが倍になる。
藤宮のモンスターとのタイプ相性を確認することを忘れていて、そして見事に、僕のモンスターに対して藤宮のモンスターは、相性が最悪だった。
「くそ…」
「はっは。ちゃんと見ていないからだぞ」
僕は藤宮のその言葉にハッとする。
一つのデッキはだいたい、同じタイプのモンスターで統一されている。たまに様々なタイプを合わせているデッキを見かけるが、そんなのは珍しいし、ましてやこれは、藤宮が持ってきたデッキだ―
僕は慌てて自分のモンスターのカードを確認する。それのどのカードにも、左下に、『弱点×2』と書いてあり、横に、藤宮のモンスターのタイプを示すマークが描かれていた。
つまり、
藤宮のどのモンスターの攻撃も、僕のどのモンスターの『弱点』となって襲ってくるということだ。
「しまった…これじゃあ勝ち目ないじゃん…ん?」
そこで思い出した。
『私こっちね!』
「あ!お前、自分が有利な方のデッキを選んで取ったな!!」
「あ、気づいたー?」
藤宮は楽しそうに、そしていたずらっぽく笑った。
「ずるすぎんだろ」
「はっはっ。勝てばよかろうなのだ」
「くっそお…」
その後も僕は、手も足も出せず負けた。
「次は絶対勝ってやる…」
「どうやって勝とうと言うのだい?」
「くっ…僕だけの最強デッキを作って、いつかぎゃふんと言わせてやるからな!!」
こうして僕はカードゲームにしっかりはまったのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
カードゲーム楽しい。