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6コ目 「なし」なトコ(前編)

 長すぎて、前編後編に分けてしまいました。

 あと、執筆ペースが非常にスローリー…

 これもまだ僕と藤宮がそこまで親しくなかった…いや、少しは親しくなったのか?分からない。

 まぁ人と人との親しさなんて数値で表せるものではないから、分かるはずがないのだ。

 取り敢えず、この書き出しはもうやめようと思う。


 三時間目と四時間目の休み時間だった。クラス全員の、授業三時間分の疲れが教室いっぱいに漂っているような、そんな時間。

 隣の席の藤宮は、机に突っ伏してぐっすり寝ていた。

 というか前の授業の時からそうだった。

 この当たり前の光景にはもう慣れ、僕はだらだらと次の授業の準備をしていた。

 その時、ふと気になった。


 藤宮の好きな食べ物ってなんだろう。


 声をかけようと思い、藤宮の方にバッと顔を向ける。そして彼女を視界に捉えて、あぁ、そうだった。この女は熟睡中だった。

 聞くのはまた今度にしよう。とは思ったが、「知りたい」という自分の気持ちは、とめられなかった。

 …いや、自分の気持ちから逃げるのはもうやめようと、この前決意したのだ。

 まぁただ好きな食べ物聞くだけだし。どうせ授業前には、本来ならば起こさないといけないし。

 そうだよ。次の授業の前に起こしてもらうんだから、(むし)ろ感謝してほしい。

 僕は意を決して話し掛けた。

 「あのさ、藤宮」

 「…」

 応答なし。

 再度チャレンジ。

 「藤宮、」

 「…んー?」

 突っ伏しながらそう、眠そうな返事が返ってきた。『起こしてごめん』は言わないでおく。寧ろ授業の前に…以下略

 「藤宮の好きな食べ物って、なんだ?」

 「うーん、そうだなぁ」

 突然に突然すぎたが、藤宮は別に怪しがる素振りもなく、だけどやっぱり突っ伏したまま。そしてこう返ってきた。

 「中谷くんは、なにが好き?」

 自分に質問が返ってくるとは思っていなかった僕は少し動揺したが、

 「ぶどうかな」

 答えた。

 「そっかー。じゃあウインナー、かな」

 へぇ、意外と子供っぽいんだ。

 子供用でちっちゃい弁当のおかずのタコさんウインナーを口に入れる藤宮を想像する。高校生とはあまりに不釣り合いなタコさんウインナーを美味しそうに食べる藤宮…か、かわ―

 バチン!と自分のほっぺたを叩いた。何想像してんだきしょいぞ。

 普通のウインナーならまだしも、なぜタコさんで、なぜ子供用を想像した。

 きしょいぞ、僕。

 って、そんなことより、気になる言葉があった。

 『じゃあ』ってなんだ?

 「中谷くんは、二番目は?」

 「え、二番目?そうだな…」

 普通二番目とか気になる?聞く?

 「二番目か…」

 えーなんだろ…出てこない。

 逆に二番目に好きな食べ物を問われて、パッと答えられる人はいるのだろうか。いや、流石にいそうだな。

 二番目、二番目…

 悩んでいると何かピンク色の食べ物がぼやぼや~と浮かんできた。

 なんだあれは。確証はないが、きっとあれが僕の、二番目に好きな食べ物だ。悩んだ末に浮かんできたんだからきっとそうなんだろう。

 なんだあれは。あれは―

 「紅しょうが、かな…」

 紅しょうが?

 紅、しょうが?

 紅しょうがが好きなのか?僕は。

 まぁ牛丼屋に行ったときは毎回食べるけれど。

 なんなら山盛りに乗せちゃうけれど。

 あれが好き…なのか?

 自分でもよく分からないし、なにより、なんかセンスねぇ!いや、好きな食べ物にセンスもなにもないとは思うが。

 「紅しょうが。紅しょうがねぇ…」

 ほら、藤宮も戸惑ってんじゃん、返事に、感想に。

 もし僕が逆の立場でもこうなるよ。

 「が、が…」

 僕が一人で頭を抱えている間、藤宮はずっとそう呟いている。

 「が、が…が」

 「おい、さっきからなにぶつぶつと―」

 「あった!」

 僕の、まるで主人公にこの後倒される敵のようなセリフを遮って、藤宮は言った。と同時に、今まで机に顔を伏せていた彼女がガバッと顔をあげた。フワッとその黒い髪が舞った一瞬、綺麗だなと思った。

 「ガーリックライス!!」

 藤宮は爛々とした目で僕を見つめる。そして僕はまた、ドキッとしてしまう。

 「ガ、ガーリックライス?」

 ガーリックライスってなんだ?いや分かるけど。

 藤宮の、二番目に好きな食べ物ってことか?けど、それならば、『あった!』とはどういう…

 ぶどう、ウインナー。紅しょうが、ガーリックライス…

 あ

 もしかして…

 僕は言う。

 「スルメイカ」

 「からあげ!」

 「玄米」

 「いちご!」

 「っていや、しりとりかい!!」

 そう。こいつは、僕が言った食べ物の、最後の言葉から始まる食べ物を応えていたのだった。

 だから、『じゃあ』だし、『あった!』だったのだ。

 「お前なぁ…」

 「あはは!バレたかー」

 「バレたかーじゃねえよ!僕は真面目に質問してるのに」

 「まあまあ。ほら、次『ご』だよ」

 まだ続ける気らしい。反省などしてないな。

 いや、最初からこいつは、ただ食べ物でしりとりがしたいだけなんだ。

 「はぁ…わかったよ。じゃあ、『ごま』」

 「マキシマム ザ ホルモン!」

 「食べ物じゃねえよ!?」

 そんなこんなでしりとりを続けていると、休み時間終了のチャイムが鳴った。

 「ほら、終わりだ終わり。授業始まるぞ。」

 「ちえー。」

 藤宮は渋々と授業の準備にとりかかった。

 その姿を見て、自分も椅子に座り直す。もう少ししていたかったな。という思いは僕にもあった。

 『きっと藤宮のことを見るのが、楽しいんだな。』

 今は見るだけではなく、一緒に話すことができるようになったけれど、

 藤宮と話すのは、楽しい…の、かもしれない。

 もっと藤宮と話していたい。藤宮のことが、もっと知りたい。

 しりとりをしていた時間が、とても、惜しかった。

 と、思っていたのに。

 (前編)最後まで読んでくださってありがとうございます。

 後編へ続く

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