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3コ目 「言わないでね」なトコ

 マイペースで書いて行きます。

 これもまだ、僕と藤宮がそこまで親しくなかった頃。

 隣の席の彼女は…

 普通に歴史の授業を受けていた。

 テ○リスせず、ドローンも飛ばさず、居眠りもせず。ただ黒板を眺めている。まあそれが当たり前なのだが。

 それでも彼女が真面目に授業を受けてるのなんて、なんか違和感が凄くて、僕の方は逆に授業に集中できない。縄文土器がなんだって?

 なにか、隠れてなにかしてるんじゃないか。ついチラチラと藤宮の方に目がいってしまう。

 だけども藤宮は変わらず頬杖、というかもはや右耳をすっぽり隠すくらいの位置に手を置いて黒板を眺めている。ノートはとってないけれど、僕にその光景は十分異質だった。


 どうしたのだろう。もしかしてこの前のテ○リスでこっぴどく叱られたのかな。あんなことしたら、そりゃあ怒られるよ。けどその後隠れてドローン飛ばしてたし。反省してる感じではなさそうだったけどなぁ。いや、ドローンもバレて…とか。

 そうか、それかもな。反省したのか。

 …

 …やったね。そうだよ。やっと授業に集中できるんだよ。そうだそうだ。いいことだ。

 いいことの、はずなのに、

 なんだろう、この、胸がきつく締め付けられる感じは… 


 そんなことをグダグダと考えていたら、藤宮のシャープペンシルが窓からの風に煽られ、音を立てて机の上から落下した。シャーペンは転がって藤宮の足元へ潜り込む。

 だけども藤宮はそれを拾おうとせず、かといって窓を閉めようともせず。ただ黒板を眺めている。

 落ちた音に気づかないほど集中してるのか。

 僕が驚いていると、今度は藤宮の机の上のプリントが風に乗って、僕の机に舞い降りた。紙特有のペラッという乾いた音が鳴る。

 それでも藤宮は黒板を眺めたまま。縄文時代の話がそんなに面白いか?

 僕はプリントを手に取って、藤宮の方に体を向けた瞬間、息を飲んだ。


 窓から入る風に揺れる、吸い込まれそうなほど深い黒色をしたショートカット。それとは逆に微動だにしないまつげは少し長い。

 少し茶の色が入った瞳は二重瞼に隠され、眠たげな印象を与える。

 そして思っていたより白かったその肌は、まるで人形のようで、気を付けないとすぐ壊れてしまいそうだった。


 今まではほとんど盗み見てきたその横顔が、今はばっちりと目に入る。

 そう。俗な言葉で言うと藤宮は、「美少女」だった。

 その美貌は学年でも1・2を争うほどで、彼女が校内を歩くとあちこちで彼女の話が始まるほどだった。

 その上成績はいつも学年トップクラス。授業はほぼ寝ているのにもかかわらず、だ。

 しかしそのせいか、彼女が人としゃべっている姿はほぼ見かけない。授業を真面目に受けていないのに頭がいいなんて、進学校であるこの学校では妬まれる対象になってしまうのは当然だ。彼女を悪く言う声も少なくない。

 まぁ、当の本人は全く気にしてないようだが。

 そういえば一度だけ、親しそうにしゃべっている男子生徒を見かけたことがある。彼氏だろうか…まぁ一人二人いてもおかしくはないけれど。


 …あれ、僕、今そんな人に自分から話しかけようとしてる?

 え、僕、今そんな人に自分から話しかけようとしてる?(大事なことなので二回言いました)

 よくよく考えれば、住む世界が違いすぎる。藤宮はいつでも話題の渦中の人物で、一方の僕というと、1日に人と話す回数なんて数えられない(そのままの意味で)。いつも心の中では馬鹿にしたり、「こいつ」呼ばわりしていたたけれど、思えば僕たち、一回も「会話」してない。

 というか何様だよ僕…

 …

 ま、まあただプリント渡すだけだし。

 そうだよ。ただ隣の人にプリントを渡すだけ。それ以上でも、それ以下でもない。

 僕は気を取り直して咳払いをする。久しぶりに使う喉だから裏返らないように入念に。そして息を充分に吸い込んで、

 「あの…さ、」

 しかし藤宮はまったくの無反応。ただ黒板を眺めてる。

 今のは声が小さかったかもしれない。僕はもう一度声をかける。

 「あのさっ。」

 今度は聞こえるだろと思ったけれど、まだ無反応。

 なんでだよ、絶対聞こえてるだろ。

 僕は苛立って、手を伸ばす。

 「おい、ちょっと。」

 「えっ。」

 僕の手が藤宮の、まるでフィギュアのように整った肩に触れた瞬間。


 目が合った。


 目が、会った。


 風に靡く髪。光を反射する瞳。


 少し驚いたような表情を浮かべる彼女は―とても綺麗だった。


 とても―


 っていやいや、何見とれてるんだ。

 我に返った僕は、慌てて目を反らす。

 「こ、これ、プリント。あと窓…閉めた方がいいかも―」

 その時僕は、藤宮の右耳が何か光を反射してピカピカしているのに気づいた。そしてよく見るとそれは―

 「イヤホン…?」

 右耳を覆っていた手が外れ、露になったそこにはがっちりと白いワイヤレスイヤホンがはまっていた。

 じゃあこいつ、頬杖してる風にみせて、実はずっと右耳隠してるだけだったのか。

 全然反省なんてしてないじゃん。

 僕は呆れながらも、少し安堵していた―のだと、今になっては思う。

 「あー見つかっちゃったか。まぁいいや。先生に言わないでね。」

 藤宮は人差し指を口元に持っていき、小悪魔的に笑う。…いや、小悪魔だこいつは。

 「プリント、ありがと。」

 そう言ってプリントを受け取ると、また右手でイヤホンをすっぽり隠し、黒板を眺め始めた。


 いや窓閉めないのかい。


 僕は心の中で苦笑しながら、藤宮が見ているフリをしていた黒板に目を戻す。

 そして授業に集中しようとしたけれど、さっきとは違う、何か物足りなさに似てるようなモヤモヤが僕の胸にはあった。

 なんだろう。僕は何がしたいんだろう。何が物足りないのだろう。

 いくら考えても分からないまま、授業は弥生時代の話へと進んだ。

 最後まで読んでくださってありがとうございます。

 絵は苦手なので出来れば誰かに藤宮を描いて貰いたい。

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