1コ目 「√2」なトコ
2話。
連載というのを初めてやりました。なんか感動。
これはまだ、僕と藤宮がそこまで親しくなかった頃。
数学の時間だった。教卓横には大きなディスプレイがあり、存在感を放つそれは、先生のパソコン画面を繋げて問題をこれ見よがしに映していた。
生徒みんなの机には一人一台、タブレットが鎮座していた。このタブレットを操作したりして、効率よく授業は進んでいった。科学の力ってすげー。
そんなタブレットを使って藤宮は、テ○リスをやっていた。
まじかよ。どうやってセキュリティを抜けたんだよ。てか、進学校にもこういう奴はやっぱり居るんだな。
「つーつつつー↑つつつー↓つつつー↑」
えもしかして鼻歌まで歌ってない?
彼女の真横の、気持ちよく開けられた窓から入ってくる風に乗って、ウッキウキな声が流れてくる。
ちらっと見た彼女は、ニッコニコで画面を見ながら薄いキーボードの十字キーをたたいている。すげえなこいつ。
「じゃープリント配るからー。これを今解けー。あとで答え合わせするぞー。」
配られたプリントを一瞥したと思ったら、彼女はまた画面上の娯楽に勤しむ。
僕はもう気にしないことにして、藤宮の鼻歌をbgmに、目の前の難問に向き合うことにした。
しばらくすると、「パタンッ」と小気味いい音を立てて、藤宮がタブレットを閉じた。いよいよ飽きたか。と思っていると、彼女は机に突っ伏して、寝た。
ええ…
「…すー。…すー。」
…bgmが変わった。
「はいじゃーそろそろ終わったかな。答え言っていくから赤ペン持てー。じゃあ問1は…」
先生が答えを言っていくにつれ、赤ペンの、asmrに使えそうな音が教室内を走る。しかし、最後だけは違った。
「じゃー、問10。これは難しかったな。誰か解けた奴いるか?」
教室内に静寂が響く。実際、僕も解けていない。
「じゃあ答えを―」
「はいはいはい!私解けてます!!」
そう言って勢いよく手を上げたのはなんと藤宮だった。
「おー。じゃあ答え言ってみろー。」
「はい。」
すると藤宮は、立ち上がった。右手にがっちりとタブレットを収めながら。
教卓に向かう後ろ姿からも、そのニッコニコの顔は想像できた。
「いや、答え言うだけで構わないんだが…」
「先生!ちょっと借りますねー。」
「ちょっ、おい、こら!」
藤宮は飄々と黒板前に行くと、先生のパソコンとディスプレイを繋げていたケーブルに手をかけて、抜いた。
ディスプレイは一瞬で真っ黒を映す。藤宮は手にもったケーブルを、自分のタブレットに差し替えた。
ややあって、ディスプレイが映し出したのは、
√2
テ○リスで作られた、綺麗な√2だった。
僕は自然に拍手していた。しかし、周りからの視線を感じ、すぐに止めた。
「藤宮ぁ!なにしてる!」
「でも正解ですよね?」
「たしかに正解だが、それとこれとは別だ!」
正解なんだ。教室がどよめく。
「席に戻れ!」
「はーい。」
藤宮は自分のタブレットからケーブルを抜く。さっきまでカラフルな画面を映していたディスプレイは、生き甲斐を失ったようにまた暗くなる。
藤宮は満足げに席に戻ってくる。パタンッとタブレットを閉じる。そして、寝た。
もうほんとにこいつは。
僕は呆れながらも、不思議と藤宮に対する拒否感や軽蔑の感情はなかった。それどころか―
「あっそうだ。」
寝たと思った藤宮が急に顔を上げて、僕を見た。
「君、拍手ありがとうね。」
藤宮はニヤッと笑って、
「そんじゃ。」
また机に突っ伏した。
その笑顔の直撃を受けた僕の顔は無性に痒くなり、僕も伏せたかったが、僕まで寝てると勘違いされるのは嫌だったので必死で我慢していた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
テ○リス楽しい。